グリーンレポート
特集:帳票需要にプラス要因となる・・・金融業界の最新動向を探る
-金融業界の最新動向を探る- 5/5
帳票需要に有望な市場を形成・・・

 いま企業の経営者からサラリーマンにいたるまで、大きな関心を寄せているのが昨年10月に施行された「確定拠出型年金(日本版401k)」です。
 わが国のこれまでの年金制度は、三階建ての構造になっていました。一階が「国民年金(基礎年金)」二階が「厚生年金」で、この一階と二階部分を「公的年金」と呼んでいます。三階部分は「私的年金」あるいは「企業年金」と呼ばれる厚生年金基金や適格退職年金、退職一時金です。この三階部分に新たに導入されるのが日本版401kです。
 厚生年金や厚生年金基金などのこれまでの年金制度は、給付額を先に決めて掛け金を逆算する形の「確定給付型」でした。これに対して「確定拠出型」は掛け金を先に決め、最終的な年金額は掛け金を運用した後でないとわからない仕組みです。この制度では、年金資産の積み立て不足が発生する心配もなく、もしその運用利回りが悪くて積立金が減っても、その範囲内でしか年金は支払われません。上手に運用すれば、期待以上の年金を手にすることも十分にあり得ます。
確定拠出年金  その運用にあたっては、加入者個人に決定権があると同時に、運用リスクも負うことになります。つまり、加入者またはその勤め先の企業が、毎月一定額の掛け金を積み立て、将来受け取る年金は積立金の運用実績に左右されるわけです。加入者は三種類以上の金融商品から投資手段を選び、自己責任で運用します。掛け金の拠出時は、非課税の優遇措置が設けられており、もらった給与の中から積み立てて運用するよりもだいぶ有利になっています。また、個人一人ひとりの資金として運用されるので、転職する場合、そのまま持っていけるメリットもあります。一方、企業にとっては、給付の不足分を補てんするリスクがなくなるというメリットがあります。
 この日本版401kは、企業が掛け金を拠出する「企業型」と、自営業者や企業年金も企業型401kもない企業の従業員が入る「個人型」の二種類に分かれます。加入対象としては、20歳以上60歳未満のサラリーマンや自営業者で、専業主婦と公務員は対象外とされています。掛け金や運用商品等の仕組みについては、以下のようになっています。

【掛け金】(年間限度額)
企業型(個人年金の拠出は不可)
企業年金がある企業
企業年金がない企業
21万6千円
43万千円
個人型
401kも企業年金もない企業 
自営業者
18万円
81万6千円
【運用商品】
預貯金・公社債・投資信託・保険などから三つ以上の選択肢を提示。
少なくとも3か月に1度は資産配分の変更を認める。
【受給】
年金または一時金として60歳〜70歳の間に受け取りを始める。
【税制優遇】
拠出時は、企業拠出は損金算入。個人拠出は所得控除。
運用時は、非課税。
給付時は、年金の場合は公的年金等控除、一時金の場合は退職所得課税を適用。
【脱退】
途中引き出しは原則不可。専業主婦になるなど制度を利用できなくなった場合は、加入年数が三年以下なら脱退一時金(課税)を受け取れる。
【ポータビリティ】
企業拠出金も勤続3年以上なら転職先への移管を認める。


 このような制度の仕組みをみて気づくことは、申し込みから運用・受給まで常に個人(加入者)が主役であることです。わが国のサラリーマンは約3,400万人、自営業者約2,000万人で、合計約5,400万人という人口が日本版401kの対象になります。もちろん全ての人が加入するわけではありませんが、膨大な数が予想されます。後述する種々の帳票が発生するわけですから、私たち帳票印刷に携わる者にとって、期待は大きくふくらみます。
 日本版401kの申し込みから資金の管理・運用の仕組みは、図のように「企業型」と「個人型」では若干異なる点があります。
 「企業型」は、企業・従業員(加入者)、受託機関(運営管理機関と資産管理機関)、金融機関などで構成されます。制度の導入にあたっては、会社側と従業員(組合等)との間での合意が欠かせません。拠出金は、企業であらかじめ選任した「資産管理機関」に払い込み、「運営管理機関」において個人ごとに記録管理されることになります。
 「資産管理機関」は、拠出金を企業から直接委託され管理するとともに、運営管理機関から受けた指示に基づいて、投資信託を購入したり、定期預金に預けたり、保険に加入したり、当初用意された金融商品の範囲で運用します。
 「運営管理機関」は、誰の資金がいくら、何に預けられているかといった記録管理(レコードキーピング)や商品の品揃え、商品選択のための従業員教育、運用商品のパンフレットや運用実績の提示などを担当します。
 「個人型」の場合は、企業での資産管理機関が「国民年金基金連合会」になる見込みのほかは、企業型と同様の仕組みになります。
 さて、この仕組みの中で大きな役割を果たすのが金融機関で、二大陣営に分れての競争が、経済紙誌などでしばしば取り上げられてきました。その二大陣営とは「野村・興銀陣営」と「三菱・住友陣営」のことで、顧客管理業務をめぐり、金融機関の囲い込み競争でしのぎを削ってきたわけです。その理由は、レコードキーピングという顧客管理業務のシステム開発に数百億円といわれる巨額の投資が必要だからです。この二つの陣営ではそれぞれの新会社を設立しており、「野村・興銀陣営」は日本インベスター・ソリューション・アンド・テクノロジー(JIS&T)、「三菱・住友陣営」は日本レコードキーピング(NRK)という新会社をそれぞれ設立しています。なお、今後の二大陣営の焦点は、約120ある地方銀行の囲い込みにあるといわれています。
 最後に、私たちに最も関心がある帳票についてみると、先にも述べたように企業は決まった金額を拠出するだけで(企業型)、運用の責任は従業員(個人)にあるため、帳票の使用量は膨大なものになると思われます(ただし企業型の場合、ペーパーレスになる懸念もあります)。種類としては、「加入申出書」「運用申込書」「変更依頼書」「年金運用状況表・資産残高通知書」などがあげられます。これらの帳票の発注窓口は、運用関連の運営管理機関と記録関連の運営管理機関(レコードキーピング会社)になる模様です。なお、前記の帳票類の他に資産管理機関が実際に運用していく際の各金融機関(銀行・証券・保険)との"取引・契約・運用"上の関連帳票も相当量発生するものと思われます。
 日本版401kは、スタートしたばかりです。企業型では、日立、トヨタ自動車など大手企業の導入が話題になっているものの、まだ導入を検討している企業も少なくありません。また、今年1月からスタートした個人型は、主な金融機関の窓口で加入受け付けが始まり、また全国の郵便局でも受け付けが開始、さらに今後、信用金庫や農業協同組合(農協)が業務を開始する予定です。帳票需要に深いかかわりがあるだけに、今後の動向を注視していきたいものだと思います。


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