【1】落語のはじまり
落語は、日本の大衆芸能の一つです。洒落(しゃれ)がふんだんに盛り込まれた噺で聴衆を笑わせ、締めくくりに“落ち”をつけ、さらに笑いを取って結びます。
その起源は古く、安土桃山時代にまでさかのぼるといわれています。当時、大名には戦時の軍事の相談から世間話までの話し相手をした御伽衆(おとぎしゅう)と呼ばれる職種の側近がいました。彼らの笑い噺を集めた『戯言養気集(ぎげんようきしゅう)』(慶長年間(1596〜1615年))という書物が発行されていることから、話術で主人を楽しませることが彼らの重要な任務の一つであることがよく分かります。特に、御伽衆も務めた京の高僧・安楽庵策伝(あんらくあんさくでん)は、庶民の暮らしを題材にした滑稽(こっけい)噺を仏教の説教に盛り込み、笑いを誘うその説教は大変な評判を呼びました。彼は「落語の祖」とされています。このような滑稽噺が、落語という芸事として発展していくのは、江戸時代の18世紀半ばになったころです。このころになると、江戸や大阪などの街角に小屋を建てて、噺を聞かせる話し手が現れるようになり、庶民のささやかな楽しみになっていました。19世紀に入ると、人情噺を得意とした朝寝坊夢楽(あさねぼうむらく)、怪談話の初代林屋正蔵といった人気の落語家が登場。さまざまな演目が創作され、以来、落語は大衆好みの芸能として定着しました。
落語家の小道具といえば、扇子と手ぬぐいです。情景を再現する小道具として欠かせません。扇子を箸に見立ててそばをすすったり、広げて手紙にしたりといったシーンや、手ぬぐいをほっかぶりして泥棒に扮するシーンなどがおなじみです。また、落ちにも型があることをご存じでしょうか。大きく12種類に分けられ、例えば、見せ物に一つ目小僧を捕まえようとしたら、自分が一眼国(いちがんこく)で見せ物になってしまったという、逆の結果になってしまう滑稽さを落ちにする「逆さ落ち」。切り落とされた自分の生首をちょうちんのように持ってちゃかすなど、何かを突拍子もないものに見立てた面白さで落とす「見立て落ち」などがあります。能や歌舞伎と同じように、落語にも数百年かけて磨かれた笑いの「型」があります。
【2】落語を生で観覧するなら、寄席へ
落語を生で楽しめる場所が寄席(よせ)です。寄席とは、広義には落語が行われている場所すべてを指しますが、狭義には定席(じょうせき)のみを指して使われることもあります。定席とは、興行が常時行われている場所のことで、東京には鈴本演芸場(上野)、末廣亭(新宿)、浅草演芸ホール、池袋演芸場の4軒。一方、大阪には2006年に開館した天満天神繁昌亭があります。
落語の演目には、江戸〜明治時代に作られた古典落語と、大正時代以降に創作された新作落語(または創作落語)があります。有名な演目には、海とは無縁の目黒のさんまが魚河岸のさんまよりもおいしいと信じ込んだ殿様の無知さを風刺した、古典落語の名作「目黒のさんま」などがあります。目黒のさんまであれば秋といった具合に、季節に合った演目が披露されます。
また、寄席では1月には人気の落語家が一堂に会する正月興行が行われたり、節分の日には場内で豆まきが行われたり、来客を楽しませる工夫がたくさん準備されています。また、最近は東京の神保町に落語カフェがオープン。コーヒーを飲みながら落語を楽しむユニークなスタイルも生まれ、若い落語ファンが増えています。
【3】自分で話してみる楽しさ
最近、密かなブームとなっているのが習い事としての落語です。話術の達人である落語家から話し方のコツを学ぶことでコミュニケーション力を磨けると、新人研修に取り入れる企業もあるそうです。初心者向けの落語教室は、落語家とマンツーマンで行う個人授業から、カルチャーセンターや定席などで開講されているグループ講義、または英会話教室で英語の落語を学ぶレッスンまで、さまざまなスタイルがあります。講義内容としては、話し方や間の取り方、扇子や手ぬぐいの使い方を学び、習得した演目や自分の創作落語をお披露目するというのが、多くの落語教室の一般的な流れです。落語を通じて、表情豊かに話すこと、相手に伝わりやすい話の組み立て方や聞き取りやすい発声などを身に付けることができます。さらに、落語のような聴覚刺激による笑いは、脳を活性化するともいわれ、まさにいいことずくめといえます。
また、現代の漫才やコントと違って、伝統的な落語には話の展開の仕方や落ちに決まった型がありますので、練習を積んで型を身に付ければ、上達を実感できるのも大きな魅力ではないでしょうか。歴代の落語家たちが培ってきた話芸には、聞いて大いに笑い楽しむのはもちろんのこと、現代人がコミュニケーション力を磨くためにも学ぶことがたくさんあります。
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