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日本の伝統食(3)東北の郷土料理
ロハスなはなし
▲はっと汁。はっとは小麦粉のほか、ジャガイモの粉末などでも作られます。
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▲山形を代表する郷土料理のいも煮。秋の年中行事にも欠かせない料理です。
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▲玉こんにゃく。モッチリとした食感で食べ応えも十分です。
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▲軒下に干した凍み大根。
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▲凍み餅。もち米をやわらかく炊き固めた餅を短冊状に薄く切って干したもの。乾くとそのままでも食べられ、田植え時のおやつなどに用いました。
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▲きりたんぽ。
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▲ハタハタ寿し。酸味の効いた滋味に富んだ味わいで、酒の肴(さかな)に最適です。
第71回
日本の伝統食(3) 東北の郷土料理
2012/2/10
 

【1】海の幸、山の幸たっぷりの鍋物や汁物
 海の幸、山の幸が豊かな東北では、各地に独特な鍋物や汁物料理があります。
 北国の貴重な海の幸を使った贅沢な汁物といえば、青森県の「いちご煮」です。これは、青森県八戸市とその周辺の太平洋沿岸に伝わる郷土料理で、地元で採れるウニとアワビ(ツブ貝等で代用されることも)のお吸物。お椀に浮いたウニを野イチゴに見立てて、この名前が付けられたと言われています。ウニとアワビを煮立て、塩としょうゆで味を調えるだけのシンプルな調理で、食材の味わいを最大限に引き立てます。
 やや贅沢ないちご煮に対して、体が温まり、おなかもいっぱいになる日常的な汁物に「はっと汁」、いわゆる「すいとん」があります。これは、岩手県から宮城県、福島県にかけて広く食べられてきました。小麦粉を練って作った生地を、指で薄く延ばしながらしょうゆ仕立ての汁に入れゆで上げれば完成です。シコシコとした食感がやみつきになる、まさに庶民の味といえます。
 山の幸をおいしくいただく郷土料理としてよく知られているものの一つに、山形県の「いも煮」があります。しょうゆ味だったり、味噌味だったり、牛肉や豚肉を入れたりと、具材や味付けは地域によって異なります。共通しているのは、秋になると近所の人や友人で集まって、大きな鍋でいも煮を作って食べる「いも煮会」が開かれることです。いも煮の起源は諸説あり、一つが江戸時代、最上川の船頭たちが、サトイモと干し魚を煮て食べたのが始まりという説です。また、旧暦八月十五夜の「芋名月」に、サトイモをお供えする神事を由来とする説もあります。山形県にはほかにも、寒ダラの身のブツ切り、内臓、頭などをすべて鍋に入れてネギと一緒に味噌で煮込む「どんがら汁(寒鱈汁)」や丸いこんにゃくを串に刺してしょうゆ味で煮る「玉こんにゃく」といった郷土料理もあります。

【2】寒さを生かした伝統的な保存食
 全国各地には、食料品をより長く保存する目的で生まれたさまざまな郷土料理があります。東北地方では、氷点下の日が続く冬の寒さを利用しました。それが、凍み(しみ)豆腐、凍み大根、凍み餅、凍み芋といった保存食です。これらは適当な大きさに切った豆腐や大根、餅などをひもで縛ってまとめて軒下等に吊るし、天日干しにした食材です。夜は凍り、日中は日光を浴びて溶けることの繰り返しによって、食材の持つ味や栄養がじっくりと凝縮されながら徐々に乾燥していきます。まさにフリーズドライ製法で、例えば凍み豆腐なら10〜20日程度、凍み大根や凍み餅ならば1〜2カ月もかけてカラカラに乾燥させていきます。
 凍み豆腐は、製法が近い高野豆腐と同じように食べます。凍み大根は、身欠きニシンやタケノコなどを具材に、昆布だしで煮物にするのが一般的です。まだ食材に乏しい春の田植えの季節には、東北の農家の人たちにとって、凍み大根の煮物が重労働をこなすための貴重な栄養源となっていました。そのため、凍み大根の煮物は「田植え料理」とも呼ばれます。寒干しにすると、大根の甘みが凝縮し、また煮汁がよく染み込むため、生の大根を煮るのとは異なり、独特の甘さ、やわらかな食感になります。このように、東北の人々は厳しい寒さも巧みに利用して、限られた食材を大切に食していたのです。

【3】米どころならではの名物料理
 米どころ秋田の郷土料理といえば、やはり「きりたんぽ」でしょう。県北地方の木こりや猟師が、つぶしたご飯を棒に巻き付けて焼いて食べた携行食糧を山中でとったキジや山菜と一緒に煮込んで食べたのがその始まりといわれています。その形が短穂槍(先端にたんぽをつけた稽古用の槍)の穂先に似ていることから、きりたんぽと名付けられたとされています。
 ご飯をつぶして食べる料理というと、秋田の沿岸北部には稲の刈り入れが一段落したころに食べる「だまこもち」があります。新米のご飯をつぶして丸めたもので、お手玉(だまこ)と形が似ているため「だまこ」と呼ばれるようになりました。きりたんぽよりも簡単に作れるため、沿岸北部の地域では行事があれば「だまこもち鍋」が作られています。
 最後に、秋田の名物料理をもう一つご紹介します。白身魚のハタハタを、麹を混ぜた白米や野菜、昆布とともに桶に詰めて3〜4週間ほど漬けた「ハタハタ寿し」です。ハタハタの旬は晩秋から初冬にかけてで、その季節になると沿岸地域では保存食として、ハタハタ寿しが作られました。ちなみに、ハタハタは波打ち際が埋まるほど採れた大衆魚でしたが、1980年代になると急激に漁獲量が減ったため、一時はとても貴重になってしまいました。現在は、3年間の全面禁漁をへて、少しずつ海にハタハタが戻ってきたところです。郷土料理を受け継いでいくには、自然環境を守る必要もあるといえるでしょう。
 
 今回ご紹介した郷土料理は、多彩な料理のほんの一部です。東北にはまだまだおいしい郷土料理がたくさんあります。それらの料理には、地元の食材のおいしさを十分に引き出しながら自然環境を巧みに利用した調理法など、北国の人々の暮らしの知恵が凝縮しています。


<参考URL>
農林水産省「農山漁村の郷土料理百選」
→http://www.rdpc.or.jp/kyoudoryouri100/
 
   
 
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