(1)中国茶あれこれ
日本の抹茶、イギリスの紅茶、インドのチャイ、モロッコのミントティーなど、お茶は世界各地で多種多様なスタイルで飲まれていますが、その発祥地は中国とされています。中国の南西部にあたる雲南省から四川省、貴州省にかけて広がる雲貴高原が茶の樹の原産地とされていて、雲南省の大黒山には樹齢1700年を超える野生の茶の樹が現存しています。また、諸説あり、確かなことは分かっていませんが、お茶は、紀元前から薬や飲料としても重用されていたといわれています。ただ、『三国志』にはお茶を飲む場面が描かれていて、この時代(紀元180年頃〜280年頃)にはすでに喫茶の習慣が広まっていたようです。
ところで、中国のお茶というと烏龍茶を思い浮かべる人が多いでしょうが、中国で飲まれているのは圧倒的に「緑茶」です。緑茶は、茶葉を摘みとったら熱処理をするという製茶法で作られた不発酵茶です。ちなみに、日本の緑茶も不発酵茶です。日本では茶葉を蒸して加熱しますが、中国の緑茶の多くは釜で炒って熱処理します。蒸した日本の緑茶に比べて、中国の緑茶はやや香ばしく、後味はすっきりしています。そのため、中国では緑茶を大きなビンに茶葉とお湯を入れて、水筒のように持ち歩き、ごくごく飲みますが、この大胆な飲み方もすっきりとした中国緑茶だからこそといえます。
中国茶は製茶法によって大きく6つに分類(下表参照)でき、発酵の進み具合を色で表した呼称があります。先に紹介した「緑茶」のほか、「白茶」(弱発酵茶)、「黄茶」(弱後発酵茶)、「青茶」(半発酵茶)、プーアール茶で知られている「黒茶」(後発酵茶)と「紅茶」(完全発酵茶)があります。ちなみに、烏龍茶も青茶のひとつで、本来は「烏龍」という品種の茶樹から収穫された茶葉から作った青茶のことを指します。
このように、お茶は同じ茶の樹の葉であっても、どのタイミングで、どの程度発酵させるかによって、香りも味もまったく異なるお茶ができあがります。この幅広さが、中国茶の最大の魅力といえます。
(2)中国茶をおいしく入れるコツ
中国茶の入れ方も、日本の緑茶や玄米茶を入れるのと同じ要領で、急須やポットに茶葉を入れてお湯を注ぐだけで構いません。おいしく入れるポイントは、茶葉に合った温度のお湯で入れることです。不発酵や弱発酵の緑茶、白茶、黄茶はやや低めの75〜85度ぐらい、半発酵の青茶は90〜95度ぐらい、しっかり発酵させてある黒茶、紅茶が100度となります。茶葉の量は、好みで調節しますが、小さな茶碗2杯分で5グラム前後が目安です。
いつもの急須やポットで入れても十分おいしくはいりますが、もう少し中国茶のムードを楽しみたいという場合には、専用の茶器を少しずつそろえてはいかがでしょうか? 中国には、「工夫茶」というお茶の楽しみ方が古くからあります。これは明朝から清朝にかけて、現在の福建省あたりで始まった青茶の入れ方です。手のひらにすっぽり入る小さな急須(正しくは茶壷)と数口で飲み干せてしまう小さな茶碗を、こぼれたお湯を受ける茶盤の上に並べて、熱いお湯をたっぷり使って入れます。熱いお湯を急須にもかかるようにたっぷり注ぎ入れるため、蒸らしている間にも湯温が下がりにくく、その高温が青茶の香り高さをより引き立ててくれるのです。小さな急須で何度も何度もお茶を入れて、ゆっくりとお茶の時間を過ごすための味わい方です。
一方、やや低い温度で入れる緑茶や白茶、黄茶は、蓋碗を使うのがおすすめです。蓋碗は、蓋付きの茶碗で、そのまま口をつけて飲むことも急須がわりに使うこともできる便利な中国茶の茶器です。茶碗の3〜4分目まで茶葉を入れ、そこに適温のお湯を注ぎます。蓋を閉めて、茶葉がしっかり開くまで数分蒸らします。急須がわりなら、蓋を少しずらしてすき間をつくり、そこからお茶を銘々の茶碗に注ぎます。もちろん蓋で茶葉を抑えながら、すき間に直接口をあてて飲んでも構いません。工夫茶の道具は、基本的に青茶以外の茶葉にはあまり向きませんが、蓋碗はどの種類のお茶にも使えますので、とても便利です。
(3)お茶がよりおいしくなるお茶請け選び
中国茶は、味も香りもとても個性的です。個性に合ったお茶請けと一緒に味わえば、茶葉のおいしさがより引き立ちます。発酵の軽い黄茶や白茶は、甘さ控えめのフルーツゼリーや薄い麩煎餅など、お茶請けも優しい味わいのものがおすすめです。逆に、黒茶や紅茶など味の強いお茶は、前者なら点心、後者ならクリームを使ったケーキなどやや重めのものと合わせてもおいしくいただけます。特に、黒茶は脂っぽい食後に飲むと、すっきりします。黒茶は、熟成年数が何十年と長ければ長いほど、まろやかな味わいになり、飲みやすくなります。
一方、不発酵茶の緑茶は、日本の緑茶と同じ感覚で、和菓子ともよく合います。また、青茶は、銘柄によって発酵が弱く緑茶に近く仕上げてあるもの、逆に紅茶に近いものとさまざまです。香りがよく、味もマイルドなものが多いので、お菓子とも食中のお茶としても、合わせやすいのが特徴です。
最後に、中国茶の大きな魅力は、香りも味も幅が広いことです。蓋碗を使って、6種類をまんべんなく飲み比べてみてはいかがでしょうか? 好みのお茶が見つかったら、さらに道具にこだわってみたり、お茶請けを探してみたり、自分なりの楽しみ方をどんどん広げていきましょう。
■中国茶分類一覧
種類 |
製法 |
製法の特徴 |
代表銘柄 |
入れ方 |
味わい |
緑茶 |
不発酵茶 |
茶葉に含まれる酸化酵素の働きを熱処理で止めて、発酵させずに仕上げる |
龍井(ロンジン)茶 |
蓋碗 |
苦みがかすかにあり、フレッシュな味わい |
白茶 |
弱発酵茶 |
茶葉を摘んだ後に天日もしくは室内に置いて、少しだけ発酵 |
白牡丹(ハクボタン) |
蓋碗 |
さわやかですっきりとした味わいと香り |
黄茶 |
弱後発酵茶 |
加熱処理をして、6割ほど水分を飛ばした後に放置して、軽く発酵 |
君山銀針(クンザンギンシン) |
蓋碗 |
繊細な甘み |
青茶 |
半発酵茶 |
かなり発酵が進んだ後に、釜炒りして仕上げる |
凍頂烏龍茶(トウチョウウーロンチャ) |
工夫茶
蓋碗 |
香りがよく、マイルドな味 |
黒茶 |
後発酵茶 |
加熱処理後、細菌で発酵 |
プーアール茶 |
蓋碗 |
土のような香りと濃い風味 |
紅茶 |
完全発酵茶 |
完全に発酵させて製茶 |
祁門(キーマン)紅茶 |
蓋碗 |
やや味の強いエキゾチックな紅茶 |
※参考文献
菊地和男『中国茶入門』講談社
『エスクァイア』2006年 vol.20 エスクァイア マガジン ジャパン
小菅陽子『中国茶とお菓子』保健同人社 |
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