【1】「動物介在療法」とは
動物介在療法への取り組みは、1970年代の米国でいち早く始められました。刑務所などに収容されている受刑者への矯正プログラムなどで実践されていて、一定の効果も上げています。動物介在療法は、英語ではアニマル・アシステッド・セラピー(Animal
Assisted Therapy)といいます。これは、医師や心理士、理学療法士、作業療法士がイヌやウマといった動物とともに行う治療法のひとつです。例えば、イヌと散歩することで身体機能を向上させる、協力してイヌの世話をすることで社会性を高める、イヌを抱っこしたりなでたりすることで精神的ストレスを和らげるなど、精神科、高齢者ケア、作業療法、理学療法などのさまざまな場面での活用が期待されています。
実際に、動物と触れ合うことは、私たちの健康にどのような影響を与えるのでしょうか。イヌに限定した事例ではありますが、米国での研究では、イヌを飼っている高齢者と飼っていない高齢者について、病院への年間通院回数を比べてみると、前者が約8.6回で後者が約10.4回という結果が出ています。また、日本国内での研究も少しずつ増えてきていて、認知症の高齢者が集まるグループホームで動物介在療法を取り入れた結果、参加者がより積極的に活動するようになるなど、一定の成果が確認されています(岡山県立大学
太湯好子ほか「認知症高齢者に対するイヌによる動物介在療法の有用性」より)。
動物介在療法は治療を目的とする医療行為ですが、残念ながら日本では治療を受ける環境が十分に整っているとはいえません。その一方で、老人ホームやさまざまな施設でアクティビティーのひとつとして行われている、動物に触れ合うレクリレーション活動のことを動物介在活動(Animal
Assisted Activity)といいます。動物介在活動は、老人ホームや病院、学校などで積極的に取り入れられるようになり、誰でも気軽に参加できるようになってきています。
【2】動物と触れ合い、心を癒やし、はぐくむ「動物介在活動」
ブナ林に覆われた自然豊かな山間の町、山形県最上町にNPO法人 あにまるにーずが運営する「アニマルセラピーパーク」という動物ふれあい広場があります。アニマルセラピーとは、和製英語で、動物介在活動とほぼ同じ意味で使われています。この広場は、子どもからハンディを持つ人や高齢の人まで誰もが楽しく遊べる場所を作りたいというコンセプトで開かれました。約3,300坪という広い敷地には、スタッフの訓練士やアニマルインストラクターによって訓練を受けたイヌやウサギ、モルモット、ニワトリ、ヤギ、ポニーなどの動物たちが元気に駆け回り、自由に遊べるようになっています。また、精神的な障害やストレスを抱える人たちのために、スタッフの心理士によるアニマルセラピーも行われています。
このほかにも、乗馬を利用したアクティビティーを行っている団体などもあり、動物介在活動は取り組む団体の数も活動内容の幅も広がっています。動物になかなか近づけなかったり、毛や皮ふの思わぬ感触にびっくりしたり、思うように動いてくれなかったりなど、動物との触れ合いは人間社会にはない発見の連続です。だからこそ、誰もが夢中になって遊ぶことができるといえます。動物たちと一緒に、自然の中で体を動かすことは心地よいものですから、積極的に参加してみましょう。
【3】動物介在療法・活動について学ぶ
最後に、動物介在療法や活動について学び、積極的に参加したいという人のための資格について簡単にご紹介します。
動物介在療法は医療行為ですので、医師や心理士、作業療法士など医療の専門家だけが行えるものです。一方、動物介在活動は医療行為ではないので、動物介在療法のように限定的なものではありません。ただし、その分、きちんとした公的な資格はなく、職業としては確立していないのが現状です。動物介在活動はその大半がボランティアスタッフによって支えられています。現在は、動物介在療法や活動に関する講座を開設する専門学校も増えつつあり、講座を修了すると、民間資格を取得することもできます。アニマルセラピーコーディネーター、アニマルカウンセラー、動物介在福祉士、日本乗馬療育インストラクターなどがそれに当たります。
動物介在療法と活動は、病気を抱える人だけではなく、介護をする家族や健康な人も一緒に取り組むことができます。今後は、日本でも欧米のように動物介在療法や活動について、より専門的な知識が求められるのではないでしょうか。
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