なぜ、東京は暑くなったのか?
“ヒートアイランド現象”とはそもそもどのような現象をいうのでしょうか。環境省のホームページによれば、「都市の中心部の気温が郊外に比べて島状に高くなる現象であり、近年都市に特有の環境問題」とのこと。確かに表−1でも分かるように大都市部の平均気温の上昇率は突出していますし、ほかにも30度を超える状態が長時間化していたり、熱帯夜の出現日が増えていたりと、その現象は顕著に現れています。
ヒートアイランド現象の要因には大きく3つのことが挙げられます。ひとつは急激に都市化が進んだ結果、地表から気温の上昇を抑えてくれる緑や水辺が失われ、変わりにアスファルトやコンクリートで覆われてしまったこと。アスファルト化と緑や水辺の減少には、首都圏における夏の昼間の気温を2度程度上昇させてしまう効果があるといわれています。
次に、コンクリートの建物の増加があります。コンクリートの建物は表面の温度や周囲の気温が上がりにくく、かつ下がりにくいという特性があります。このため、昼にため込んだ熱が夜になってから大気中に放出されるため、夜間の気温の低下を妨げてしまいます。また建物があることで、地表付近が弱風化。結果的に、コンクリートの建物には、夏の夜の気温を2度程度上昇させる効果があるといいます。さらに、車や空調システムなど都市活動に伴って出される人工排熱も重大な要因のひとつになっています。つまり、ヒートアイランド現象を食い止めるには、都市生活者がライフスタイルそのものを見直す必要があるのです。
■表-1 日本の大都市の気温上昇量 (100年当たりの上昇量:℃/100年)
地点 |
使用データ
開始年 |
平均気温 |
日最高気温 |
日最低気温 |
年 |
1月 |
8月 |
年平均 |
年平均 |
札幌 |
1901 |
+2.3 |
+3.0 |
+1.5 |
+0.9 |
+4.1 |
仙台 |
1927 |
+2.3 |
+3.5 |
+0.6 |
+0.7 |
+3.1 |
東京 |
1901 |
+3.0 |
+3.8 |
+2.6 |
+1.7 |
+3.8 |
名古屋 |
1923 |
+2.6 |
+3.6 |
+1.9 |
+0.9 |
+3.8 |
京都 |
1914 |
+2.5 |
+3.2 |
+2.3 |
+0.5 |
+3.8 |
福岡 |
1901 |
+2.5 |
+1.9 |
+2.1 |
+1.0 |
+4.0 |
大都市平均 |
|
+2.5 |
+3.2 |
+1.8 |
+1.0 |
+3.8 |
中小都市平均 |
|
+1.0 |
+1.5 |
+1.1 |
+0.9 |
+1.4 |
[出典]東京都環境科学研究所ホームページ
※日最高気温・日最低気温;一日のうちの最高気温と最低気温
涼しくて楽しい! 校庭芝生化プロジェクト
ヒートアイランド対策の一環として、2005年から東京都では公立小・中学校の校庭を芝生化する事業が進められており、現在までに70校以上の校庭が芝生に生まれ変わりました。その効力はどの程度かというと、資料−1でも分かるように、芝生の校庭にすると従来のダスト舗装(細かく砕いた石灰岩(ダスト)などを敷き詰めて水はけを良くした舗装)の校庭に比べて、かなり地表温度が下がることが実証されています。また、学校の中でも広い敷地面積を占める校庭が芝生に変われば都市の緑地化にも大きな効果があるといえるでしょう。事実、東京都では2016年までに校庭の芝生化によって約300ヘクタールの緑を生み出すことを目標としています。
ほかにも芝生化の効果はさまざま。柔らかい芝生の校庭は安全面が向上し、外で遊ぶ子どもたちが増えたという報告も。また、課題とされている芝生の管理も、地域住民等との協同により学校と地域とのコミュニティの活性化につながる例もあるようです。
■資料−1 芝生(左)と従来のダスト舗装(右)の校庭における地表温度の違い
舗装に比べ、芝生は8.3度ほど低くなっていることが分かりました。2005年8月17日東京都環境科学研究所測定(資料提供:東京都環境局自然環境部緑環境課)
涼しい霧で冷却。ドライミスト
最近、街中で頭上から噴射される細かい霧を見かけたことはありませんか?ひんやりとした風のように霧が肌をなでるような感覚はあるものの、不思議とぬれることはありません。
これはドライミスト(またはドライフォグ)と呼ばれる冷房装置で、微細な霧を噴射しその気化熱によって周辺の温度を下げるというもの。これは2005年の「愛・地球博」で導入され注目を集めました。そのメリットは従来の冷房に比べ消費電力が少なく、排熱も発生しないという点では、まさにヒートアイランド対策の強い味方といえます。
現在は商業施設や公共広場などに実験的に設置されていることが多いようですが、個人住宅用の小型の装置も開発・市販されています。
新しい夏の風物詩。打ち水大作戦
道の土ぼこりを抑え、暑い時期に涼を得るために水をまく“打ち水”は日本古来の生活の知恵。この習慣を生かして、真夏のピーク時の気温を少しでも下げようという試みが「打ち水大作戦」です。
毎年大暑から処暑(今年は7月22日〜8月23日)までの毎日の正午、雨水やお風呂の残り湯などの二次利用水を使い、自宅や勤め先、学校などの気軽な場所で、みんなでいっせいに打ち水することを呼びかけています。
ちなみに、この運動の始まりは2003年。土木研究所(現独立行政法人)の研究員が水をまくことで発生する気化熱によって気温が下げられるのではないかと着目し、都内で散水可能なエリア1平方メートルにつき水1リットルをまくと、気温が2度下がるという試算を発表しました。この理論を実証しようと、Webでの呼びかけを中心に草の根運動として「大江戸打ち水大作戦」がスタート。そして、2003年8月25日正午に第1回目のいっせい打ち水が実行されました。その後、この作戦は全国に広がり、昨年の「打ち水大作戦2007」では全国で900万人の人が打ち水に参加しました。
ヒートアイランド現象は大きな環境問題です。そして、少しでも東京の夏を涼しくするためには、自治体の取り組みはもちろん、草の根運動を支えている一人ひとりの小さな努力も欠かせません。
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