●お茶にはどのような成分が含まれているのか?
鎌倉時代から室町時代にかけて、お茶は禅宗の興隆とともに庶民の生活にまで広がりました。当時の禅僧は、睡魔や食欲を遠ざけて長い座禅に集中するために、それらを抑える薬効を求めてお茶を飲んだといいます。それはとても理にかなったこと。お茶には、覚醒作用があり疲労感を減少させるカフェインや、リラックス効果のあるテアニンなどが含まれています。ヒトはリラックス状態にあると脳からα波が出ますが、テアニンを摂るとその回数も、また出ている時間も長くなることが実証されています。
また、畳を掃除するときに茶殻をまいたり、風邪をひいたときにお茶でうがいをしたりといった古くからの習慣もよく知られていることです。これはお茶に含まれているカテキン(乾燥させた茶葉100g中に10〜18gほど含まれているお茶の主要成分で、お茶の渋みのもと)の作用を上手に取り入れた生活の知恵といえます。カテキンは抗菌作用や消臭効果、また体脂肪の増加や血圧上昇などを抑制する効果などを持つことが分かっています。さらに、日本の企業と米国立がん研究所と共同で緑茶を使ったがん予防薬の研究も進行中。つまり栄西禅師の言葉どおり、健康を保つためにお茶を“摂る”ことは有効といえるのです。
では、健康のためには毎日どのくらいお茶を飲めばいいのでしょうか? 緑茶研究の第一人者である浜松大学の小國伊太郎教授は、1日に湯のみ(100〜120cc)10杯のお茶を飲むことを推奨しています。毎食それぞれ3杯(2.5〜3gの茶葉で3煎まで入れる)、休憩や間食時にプラス1杯…。これは少しハードルが高めですね。そこで次の章ではもっと手軽に、効果的にお茶を摂取できる方法をご紹介します。
【緑茶に含まれている成分とその効能】
緑茶の主な成分 |
含有量※ |
生体調節機能 |
カテキン |
10〜18g |
発がん抑制作用、活性酸素消去作用、老化抑制作用、抗酸化作用、血中コレステロール低下作用、血圧上昇抑制作用、血糖上昇抑制作用、抗インフルエンザ作用、抗菌作用(食中毒予防、抗ピロリ菌作用)、抗肥満作用など |
カフェイン |
2〜4g |
覚醒作用(疲労感や眠気の除去)、利尿作用、強心作用 |
ビタミンC |
100〜500mg |
ストレス解消、かぜの予防 |
β-カロテン |
10〜50mg |
発がん抑制作用 |
γ-アミノ酪酸 |
100〜200mg |
血圧降下作用 |
ビタミンE |
25〜70mg |
抗酸化作用、老化抑制 |
テアニン |
0.6〜1.9g |
精神安定、リラックス、脳神経細胞保護作用、カフェインとの拮抗作用 |
乾燥茶葉100g中の含有量
出典:小國伊太郎編著『緑茶革命』(女子栄養大学出版部) |
●便利な粉末緑茶を上手に取り入れる
お茶の入れ方といえば、急須に茶葉を入れてお湯を注ぐ、これは常識です。しかし、最近粉状の緑茶を湯飲みに直接入れてお湯を注ぎ、クルクルッとかき回して溶いている光景を見たことはありませんか? 一見すると横着な振る舞いのようにも思えますが、“健康”で考えるなら後者の方が実は賢い入れ方といえます。
その理由は簡単。茶葉をお湯で入れても、貴重な成分の多くは水に溶け出さず茶殻に残ってしまうためです。お茶には、水溶性成分のカテキンやテアニン、ビタミンCなどの一部、成分全体でいえばわずか3割程度が溶け出しているに過ぎません。β-カロテンやビタミンE、食物繊維など不溶性のものをはじめ、約70%の成分は茶殻として捨てているのです。茶葉をお湯で入れた「お茶」には、水溶性とはいえカテキンはごくわずかが含まれているだけ。そのため1日10杯というややハードな目安となってしまうのです。
それにひきかえ、お湯で溶いて飲めるように加工された粉末状の緑茶であれば、茶葉の成分を余すことなく摂取することができます。粉末状であれば溶いて“飲む”だけではなく、例えば炒め物にひと振りしたり、ヨーグルトやクッキーの生地に混ぜたりと“食べる”こともできて便利です。もちろん抹茶でも同じことがいえますので、高価な抹茶を使って少しリッチな気分を味わうのもまた一興です。
さて、このように粉末状の茶葉を使えば、前章で挙げた飲む量も変わってきます。さっそく通常の茶葉と粉末状のものとで見比べてみましょう。
【お茶を健康のために飲む際の1日の目安量】
1日当たり700〜1000mg程度のカテキンを摂取するのが目標です。
粉末緑茶の場合、グラム数でいうと1日5〜6g程度でOK。メーカーによって異なりますが、湯のみ1杯分に対して茶葉はティースプーン1杯を目安量にしているものが多いので、1日だいたい湯のみ2杯のお茶を飲めば、目安を達成できるということになります
※注意:緑茶はカリウムを含んでいるため、カリウム摂取に制限がある人は緑茶の摂取量について専門医に必ず相談してください。またお茶は薬ではないため、必ず効果が現れるというわけではありません
●安心なお茶を選ぶ基準
ところで、毎日飲むからこそ少し気になるのが、農薬や化学肥料に関することではないでしょうか?
ごく最近まで、一般的に農薬を使わずにお茶を栽培するのは非常に難しいとされてきました。それでも、30年以上前からいくつかの産地にはコツコツと有機農法でお茶を栽培する人がいたことも事実。最近は「食の安全」が叫ばれていることもあり、有機農法によるお茶も脚光を浴び、自然食品の店やデパート、スーパーなどで手軽に買えるようになってきました。
そこで、購入する際にぜひチェックして欲しいのが「有機JASマーク」です。このマークが付いていないものは「有機●●」といった表示はできないことになっていますから、大切な判断基準のひとつになります。また、お茶の品質は収穫時期とも密接に関連しています。お茶の収穫は、新芽が成長する中で行われ、時期が遅れるとカテキンやテアニンなどが急速に減少して品質が低下しますので、涼しさが残る早いうちに収穫されたものを選ぶのも、賢い買い方といえます。
最後になりましたが、お茶は季節や産地、さらには栽培方法、製造方法によって味も香りもさまざまで、それが大きな魅力ともいえます。ですから、まずは自分好みのお茶をじっくり探してみてください。そして忙しいときにこそ、お気に入りのお茶で一服すると、日々の疲れやストレスが解きほぐれていくことでしょう。
<参考文献>
谷端昭夫著『よくわかる 茶道の歴史』(淡交社)
『日本食品大事典』(医歯薬出版)
野口潤子著、小國伊太郎監修『食べるお茶の本①』(大空出版)
春日一枝著、小國伊太郎監修『食べるお茶の本②』(大空出版)
『Coyote』2008年1月 No.24(スイッチ・パブリッシング) |