●マングローブを知っていますか?
「マングローブ」というと、どんな植物だと思いますか? マングローブ(Mangrove)は、熱帯や亜熱帯地方の海岸線や河口域で、潮の満ち干にさらされる潮間帯(ちょうかんたい)、とくに真水と海水が混じりあう汽水域(きすいいき)に形成される植物群落の総称で、特定の植物のことではなく、「高山植物」とか「湿原植物」と同じ意味あいの呼称です。
世界では、アジア、アフリカ、アメリカ、南太平洋などの海岸地帯に分布し、総面積は約1,810万haで、熱帯林の総面積(約13億ha)のわずか1%にすぎません。
マングローブを構成する植物は、約100種類あるといわれ、大きく分けると「高木(こうぼく)類」「潅木(かんぼく)類」「ヤシ類」「シダ類」の4つに分類されます。
日本では、亜熱帯に属する沖縄県の西表島、石垣島、宮古島、沖縄本島や、鹿児島県の奄美大島、屋久島などで、代表的な植物である「ヒルギ科」の「メヒルギ」・「オヒルギ」・「ヤエヤマヒルギ」や、「ヒルギダマシ」、「ヒルギモドキ」、「マヤプシキ(ハマザクロ)」「ニッパヤシ」などが自生しています。
日本のマングローブ林の約70%が集まる西表島では、7種類の植物すべてを見ることができ、マングローブの生態系を観察するエコツアーなども行われています。
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マングローブは潮の干満がある潮間帯上半部に形成されます。
また、樹種によって帯状に分布し、日本では、海側にヒルギダマシ、陸側にメヒルギの群落やオヒルギの高木などが見られます。 |
●海と陸に適応するマングローブの特殊な生態
陸からは真水が、海からは海水が流れ込むマングローブは、変化の激しい環境に適応するため、通常の地上植物には見られない特徴をもっています。たとえば、地上植物は、水分を求めて地中に根を伸ばしますが、マングローブは、満潮になると冠水してしまうため、地上にさまざまな形状の根を伸ばし大気中から酸素を吸収しています。この複雑な呼吸根や青々と茂る樹木が川や海からの激しい流れをやわらげ、栄養分を多量に含んだ土砂や落ち葉などの有機物を沈殿させて多様な生物や生態系を育てます。
落下した葉や種子は、水中でカニや貝などの底生動物の餌となります。また、一部は沈殿・分解して微生物や藻類を発生させます。これがプランクトンやゴカイなどの小動物の餌となり、その小動物を捕食しようとして昆虫類や魚介類が集まります。これを鳥類・爬虫類・哺乳類が捕らえて食べるなど、さまざまな「栄養摂取」と「食物連鎖」の関係を見ることができます。
■マングローブの主な特徴
1 塩水に浸かっても枯れない
2 大気中に根を出す呼吸根を持つ
3 果実が枝についたまま根が伸びる胎生種子植物である
4 海と森の2つの生態系をあわせ持つ |
●環境を守り、暮らしを支えるマングローブの恵み
マングローブは、陸地からの土砂や汚水が海に流出するのを防ぎ、堆積した土砂や有機物を分解して水質を浄化し、さらに台風や津波などから人々を守る「みどりの防波堤」の役割も果たしています。そして、その葉や種子は薬や家畜の飼料となり、樹木は燃料や紙、合板、建築資材などの材料に、そして集まってくる魚やエビなどは水産資源として暮らしと産業を支えてきました。
このように何世紀にもわたって豊かな恵みをもたらしてきたマングローブが、エビの養殖池や農地の開拓のために伐採されたり、薪や炭の原料として乱伐されたりして、ここ20〜30年間で急速に減少しています。このマングローブを守っていくことは、多様な生物を育む地球環境を維持するためにとても大切なことではないでしょうか。
地球温暖化による環境への影響はますます深刻になっています。こうしたなかで、地上の植物と比べて二酸化炭素を吸収する能力が数倍あるといわれるマングローブの役割が改めて見直されています。次回は、マングローブの新しい可能性と、森の再生をめざす活動について見ていきましょう。
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