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オンリー・ワン戦略でお客さまの心をつかむ
 
すぐに分かる! 注目の経営手法や市場の「今」 グリーンレポート

オンリー・ワン戦略でお客さまの心をつかむ

2013/4
1.特定業界に的を絞る
2.コア技術を多用途に応用
3.「期待以上」を粘り強く
■コラム
オンリー・ワン戦略の名企業
ウェブやイベントでお客さまと文化を育む
歴史ある日本酒醸造元の付加価値づくり  -小西酒造株式会社-

  ●双方向のやりとりで情報をつかむ
  ●市場の指示を集める文化を楽しむお酒

[画像]オンリー・ワン戦略でお客さまの心をつかむ

1.特定業界に的を絞る
外食産業界の標準機といわれるスライサーを次々開発

 キャベツのせん切りから鮭のスライス、鱧の骨切りに至るまで、外食産業には欠かせない食材用スライサー分野で高く評価されているリーディングカンパニーが吉泉産業(大阪府枚方市、佐々木啓益社長)です。
 同社の前身は、一般の機械部品や刃物など、さまざまな金属製品を硬く仕上げる熱処理加工の専業会社でした。ところが、熱処理は下請け仕事であるため、メーカーとしての主体性を打ち出しにくいのが難点。そこで同社は、自社の強みであり、得意分野である刃物(丸刃)を使って、自らが機械メーカーになることを決めました。
 こうして同社は、丸刃を最も生かせる外食産業の食材用スライサーの開発・製造に参入。競合社が「外部調達の部品やユニットを組み立てて製品を作っていた」のに対し、同社は「最重要部品の刃物をはじめ、部品の大半を自ら手掛けていた」ので、技術力と性能の差は歴然としていました。技術力も性能も、社内で苦労してノウハウを積み重ね、磨きをかけてきたからこそ、おのずと高いレベルを保つことができたのです。
 同社製品は切れ味の良さで好評を博しました。大手うどんチェーンの依頼を受けて世に送り出したねぎ切り機は、今や事実上の業界標準となり、外食産業界に広く普及しています。

特定業界のお客さまの何気ない声に直接耳を傾ける

 吉泉産業の徹底した自前主義には、「お客さまの話を直接聞き、その要望にきめ細かく応える」(佐々木社長)という側面もあります。同社は、機械の設置先をこまめに訪問することで現場での自社製品の使い勝手を聞いたり、業務全般の困り事などを聞き取ったりしているほか、新製品発表会や業界団体の展示会などの場で、自社製品に直接は関わらないようなさまざまな外食産業の担い手の何気ない話にも耳を傾けます。
 また、お客さまから新製品の設計図面を受け取ったら、そのまま作るのではなく、最善の成果が得られるような提案を開発陣が積極的に行い、要望以上の製品を納めるように心掛けています。提案には、同社が外食産業の多様な声に耳を傾け、個々のお客さまがまだ言葉にしていないニーズを肌で感じていることも、役立っているようです。そんな製品が、同じお客さまからのリピートや、評判を聞きつけた新たな企業からの商談などにつながっています。
 同社は自前開発・製造ならではの対応力と業界の傾向を敏感に察知するアンテナを生かし、「既存の機械では対応できない分野に狙いを定めたものづくり」(同)を推進。2枚におろした魚の半身を、頭から尻尾まで3gの誤差で瞬時に70gに切りそろえる「切り身スライサー・スーパー魚やさん」など、業界のニーズに応える独自製品開発につなげました。

[写真]特定業界に的を絞る

吉泉産業の「切り身スライサー・スーパー魚やさん」。
CCDカメラとマイコンの働きで、同じ重さに切りそろえる

2.コア技術を多用途に応用
「できない」とは言わず、できるまで挑戦を続けて技術を高める

 単純な構造でありながら、軽くて丈夫な段ボール。モリシン工業(岐阜県下呂市、森昭人社長)の主力製品であるアルミハニカムパネルは、ちょうど段ボールの素材を紙からアルミニウムに置き換えたような部材です。蜂の巣に似た六角形の「ハニカムコア」という構造物を、表裏2枚の面板が挟む仕組み。当初は構造材の軽量化のために海外で開発されたものです。
 同社は元々、接着加工業を行っており、学校の黒板や印刷機用作業台などの製造に関わっていました。アルミハニカムパネルの製造事業に本格参入したのは1984年。単純な構造の同製品は、ハニカムコアを面板で固定する際の「接着技術」が品質を左右します。また、パネルをさまざまな用途に応じて製品化していくためには、細かい「加工技術」が必要ですが、この加工には大変手間が掛かります。「採算が合わず他社が手を付けない分野だろうと感じた。市場規模は小さいものの、軽量で高剛性という特性に将来性があると確信。当社の接着と加工の技術が生かせると考え、接着加工業から方向転換しました」(石田達矢常務)。
 同社はアルミハニカムパネル製造とそれを応用するための加工技術をコア技術として、顧客層を拡大。同製品専門の製造・加工業者として、国内販売シェア90%を占めています。
 石田常務は、圧倒的なシェアの要因を「一点物や試作品など、同業他社がやりたがらない仕事を率先して受注してきた結果」と分析。「ほとんどの商談は、お客さまが現在お使いの素材をアルミハニカムパネルに置き換えたいという要望から。それがどんなに困難な案件であっても、できないとは言わず、お客さまと一緒に考え、できるまで作り続けます」と、問題解決型のビジネスに徹している点を強調しています。

知名度向上と新規市場開拓に戦略的にウェブを利用

 アルミハニカムパネルの応用製品で私たちが最も目にするのは、駅ホームに設置されている防護壁(ホームドア)でしょう。「しかし、この技術が使われているのを知る人はほとんどいない。まずは技術の存在を知ってもらわねば」(同)との考えから、ウェブを利用した広告宣伝や営業活動に力を入れています。
 例えば、昨今の製造業で切実なキーワードとなっている「コストダウン」と「軽量化」で検索してヒットするウェブサイトなどにアルミハニカムパネルのバナー広告を掲載。「問い合わせには親身に対応し、受けた注文は決して断らないので、クリックされた数の30%がなんらかの商談につながる」(同)ほどの手応えがあるそうです。
 そうして得られた新たなお客さまとの商談は、家具やインテリア・印刷機・医療機器・半導体製造装置・太陽電池など、これまでにない市場への参入へとつながりました。

[写真]コア技術を多用途に応用

モリシン工業のアルミハニカムパネル。六角形の「ハニカムコア」を面板に接着する技術と、
パネルを加工する技術が同社のコア技術。写真のソファはこのパネルを部材に使用したもの

3.「期待以上」を粘り強く

 日本最古の清酒銘柄「白雪」の醸造元である小西酒造(兵庫県伊丹市、小西新太郎社長)は、独自の付加価値をつけた商品づくりに取り組み、これまでになかった商品を世に送り続け、地道に売上を伸ばしています。
 その商品づくりを支えているのは、お客さまの声を、実際に喜ばれる味として形にすることができる高度な醸造技術。そして、日本酒づくりの圧倒的な歴史がありながら、かつての特級酒・一級酒を求めるヘビーユーザーばかりに目を向けるのではなく、業界が手薄気味だった若者や女性の声を真剣に集めるマーケティングです。

[写真]「期待以上」を粘り強く

小西酒造がゆっくりとお酒を楽しみたい女性に狙いを定めて開発した日本酒。
「チーズとよく合うお酒」、スイートな味わいのお酒「和かろん」

 これら3社に共通しているように、自社の強みを確固たる軸とする姿勢は、一見大きな需要がないと思われる場所のニーズの種を探り当てるのに役立つことがあります。他社の追随を許さないオンリー・ワンの製品やサービスの価値は、期待を上回る改善、お客さまが考えてもいなかった価値を、柔軟に、粘り強く形にしようとする中で生まれてくるのではないでしょうか。

■コラム
ウェブやイベントでお客さまと文化を育む
歴史ある日本酒醸造元の付加価値づくり −小西酒造株式会社−
小西 新太郎社長
小西 新太郎社長

 「清酒白雪」の製造・発売元として知られる小西酒造の創業は1550年。460年の歴史があり、日本酒醸造としては日本最古です。同社は自社で代々所有している江戸時代の古文書を研究し、元禄時代のレシピを忠実に再現した日本酒の復刻に成功するなど、伝統的な技術や文化をすぐに役立たなくても大切に残し、素直に学びながら、日本酒づくりの技術を進化させてきました。
 しかし、その圧倒的な歴史に捉われない斬新な手法の実践こそ、同社の真骨頂です。日本に初めてベルギービールを紹介(輸入・販売)したり、女子会に狙いを定めた日本酒ベースのリキュールを提案したりと、付加価値の高い数々のオンリー・ワン商品を発表しています。
 清酒という看板商品にこだわらない柔軟な商品づくりの根底には「食事を楽しむためのコミュニケーションツールとして、お酒を愛してほしい」という小西社長や従業員の熱い思いがあります。
 ワインやビール、焼酎の人気など、日本酒の売上が振るわない理由はたくさんありますが、それに甘んじるのではなく、「お客さまに支持されていない、価値が伝わっていないという危機感を持つこと」(小西社長、以外同)を徹底した結果でもあります。そのぶれない思いを反映した商品づくりの取り組みは、大別して2つあります。


●双方向のやりとりで情報をつかむ
 第一は、清酒業界全体が掘り起こしを狙う若者や女性の声を真剣に集め、開発にしっかり生かすことです。同社は、マーケティング部門の3分の2に女性を採用し、開発部門にも女性を入れています。「市場(マーケティング)が分かった上で商品を開発することが重要」との考えで、開発、マーケティング両部門の一体性も重視しています。また、マーケティングに興味をもつ複数の大学の女子学生とのコラボによる商品開発も実現させています。
 近年普及してきたSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)については「本音を聞くには格好の手段」との判断から、Facebookに切り口の異なる4つのファンページを開設し、消費者との相互交流を推進しています。社内の女性社員が部門横断的に集まり、マーケティングを行う「酒ガールプロジェクト」もファンページを持っており、楽しいお酒の飲み方などを消費者と語り合っています。今日的な商品開発には、売り手と買い手の境を意識させない双方向の情報収集が役立っているといいます。

[画像]双方向のやりとりで情報をつかむ

小西酒造がFacebook上に開設しているファンページの一つ「酒ガールPJ」

●市場の支持を集める文化を楽しむお店
 第二は、ストーリーや文化を楽しめるお酒をつくることです。例えば、古文書に基づいて再現した日本酒や、ゴジラ生誕55周年を記念して特殊デカンタの開発まで手掛けた本格焼酎などには、それぞれに固有のストーリーが息づいています。
 小西社長が、つくり方が日本酒に似ているという面白さにひかれて取り入れた本邦初のベルギービールは、当初、すっぱくて日本では誰も飲まないと言われたそうです。しかし、商品の宣伝を兼ねたイベントを重ね、メーカーの立場で一方的に押し付けるのではなく、消費者に試飲してもらいながらコミュニケーションを通して文化を伝えることで、市場にゆっくりと浸透させました。
 酔うためだけではなく、秘められたストーリーや文化まで楽しむことに重点を置いた同社のお酒は、確実に市場の支持を集めています。このことは、商品の魅力や文化を伝える役割を担ってきた印刷会社の力が、今も求められているということを意味するのではないでしょうか。印刷会社が培ってきた多彩な媒体での表現力やコンテンツ力を武器に、付加価値のある提案を続けることで、印刷文化は、出来の良いお酒のように着実に後世に伝えられるのではないでしょうか。

[写真]市場の支持を集める文化を楽しむお店

小西家代々の酒造技術がつづられた「酒永代覚帖」(元禄十五年版)

[写真]市場の支持を集める文化を楽しむお店

東宝株式会社の「ゴジラ」生誕55周年を記念して手掛けた、
大人のゴジラファン垂涎の本格麦焼酎「破懐王SAKEゴジラ」。
写真は、映画のゴジラの再現にこだわったデカンタ

 
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