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リスクに備えを!今こそBCP
 
すぐに分かる! 注目の経営手法や市場の「今」 グリーンレポート

リスクに備えを!今こそBCP

2021/03
東京都のBCP策定支援事業に参加 非常時でも供給を止めない体制へ
オンデマンド印刷機+感圧紙安定走行キットによる販路拡大事例

リスクに備えを!今こそBCP

 新型コロナウイルスが猛威を振るう中、非常時に備えた計画をあらかじめ策定しておく「BCP(事業継続計画)」が注目されています。自然災害や感染症拡大等のリスクに対し、企業はどんな準備をすればいいのでしょうか。東日本大震災を機にBCPを策定した音羽印刷株式会社(東京都文京区)でお話をうかがい、不測の事態への備えを考えます。
東京都のBCP策定支援事業に参加 非常時でも供給を止めない体制へ
 働き方を大きく変えつつあるコロナ禍の現在、BCPに関心を持つ企業が増えてきました。2020年5月の帝国データバンクの調査※では、16・6%の企業が策定していると回答。策定中9・7%、策定を検討している26・6%を合わせると50%を超え、2016年の調査開始以降で最も高くなっています。
 しかし中小企業では、スキルやノウハウがないなどの理由で取り組む企業はまだ多くありません。今回お話をうかがった音羽印刷株式会社の土屋 勝則 代表取締役社長も、最初は何のノウハウもなかったといいます。
「当社がリスクに対する備えの大切さを痛感した東日本大震災直後は、BCPという言葉もあまり知られていませんでした」(土屋社長、以下同)
 同社は震災で千葉の工場が被災し、フォーム輪転機のシリンダー15本が棚から落ちて機械1台が完全に止まってしまったとのこと。
「運よく被災を免れた機械もあり納品に影響は出ませんでしたが、お客さまから非常時の納品についてお問い合わせを受け、事業継続にはリスクを想定した体制を作る必要があると考えました」
 そこで土屋社長は東京都のBCP策定支援事業に参加することから始めました。この事業は、首都直下型地震や集中豪雨、感染症拡大などの緊急事態下で、中小企業が業務を続けるための計画作りを東京都がサポートするもので、策定のプロセスを学ぶセミナーやコンサルティングが受けられます。
「セミナーには同業者も数社参加していて、グループで議論しながら各社でプランを策定しました。BCPでは目的の明確化が重要で、当社では従業員の安全確保とお客さまの業務に支障をきたさないことを目的としました。全国展開の金融機関のお客さまが多い当社は、たとえ関東の工場が被災しても九州などは平時ですから、印刷物の供給を止めるわけにはいきません」
 同社には70年以上取り引きしているお客さまもあり、供給停止で長年築いた信頼を失うことは許されません。
※帝国データバンク事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査 (調査期間2020年5月18日〜31日・有効回答企業数11,979社)
協力会社と連携して非常時に対応 従業員には行動指針カードを配付
 音羽印刷では、策定に当たって社内にプロジェクトチームを作り、議論を重ねながら進めたそうです。
「まず、私が自ら東北、関西、中国地方の印刷会社3社に訪問し、有事の際には当社よりデータを送って印刷を代行してもらう契約を結び、製品の供給がストップしないように備えました」
 自社の工場が稼働できなくても、印刷、納品が可能なネットワークを構築して全国区のお客さまの不安を解消したのです。そして営業本部にリチウムイオン蓄電池を3基設置。停電時でも印刷データを協力会社へ送信できるようにしました。印刷データの管理は、全日本印刷工業組合連合会のクラウドバックアップサービスを活用して情報セキュリティを強化。こうして非常時でも印刷業務の川上から川下まで代行できる体制を整備していきました。
 また、被災した千葉工場ではリフォームを実施。自家発電装置の導入をはじめ、耐震性の高い梁や柱への交換、さらに非常時でもスムーズに行動できるよう全面バリアフリー化するなど、大規模な改修工事を行いました。
「従業員には非常時の行動指針を記載した『セーフティーカード』を配付しています。また、災害時に自動的にメールが従業員に送信され、返信の有無で安否を把握する安否確認システムも導入しました」
 こうした取り組みで従業員一人ひとりの防災意識も向上したそうです。


BCPは社長と従業員が共同で策定することが大事
 政府が7都府県に緊急事態宣言を出した翌日の2020年4月8日、同社は「新型コロナウイルス感染症(COVID 19)対策に関する音羽印刷の対応について」という基本方針をホームページで公開しました。そこには、従業員やその家族の健康維持を優先しつつ、感染防止に努めながら、継続して製品を供給するためにBCP対応を準備すると書かれています。
 そのひとつとして同社ではオンライン校正システムの活用を進めています。
「コンタクトレスのビジネスをどう展開するかが課題の今、オンライン校正システムは重要なツールのひとつです。まだ調整すべき点はありますが、お客さまや関係者に必要性をアピールして整備していきたいと考えています」
 ウェブ上でお客さま、制作者、印刷会社が、校正を確認できるこのシステムは、ウィズコロナにおける印刷会社の新しいインフラとして今後広く普及していくことでしょう。
「当社では、東京の営業部門と千葉の生産部門はオンラインで会議を行っています。従来と比べ移動にかかる時間的なロスがなくなりました」
 働き方を変えざるを得ない状況になった現在、さまざまなITツールの活用はBCPの重要なポイントといえるでしょう。
 最後に、BCP策定を検討している企業に向けて土屋社長からアドバイスをお願いしました。
「各自治体のBCP策定支援事業に参加するなど、まず一歩踏み出すことです。そして、社長がひとりで考えず、営業、生産、総務など、各部門が課題を出し合い、チームで取り組むことで実践的なBCPが策定できると思います。設備投資が必要なら助成金を活用してもいいでしょう」
 印刷会社が新しい働き方を模索する中、事業活動のベースにBCPを置き、従業員共通の認識として浸透させていければ、企業体質の強化へつながっていくことでしょう。
  • 各自治体のBCP策定支援事業等を利用する。
  • オンライン校正システムなどITツールを積極的に活用する。
  • 社長だけでなく従業員とともに策定することで実践的なBCPとなる。

音羽印刷株式会社
http://www.otowa-printing.com/

1927年(昭和2年)創業。お客さまに金融機関が多いことから、プライバシーマークの取得など情報管理を徹底し、お客さまと確かな信頼関係を築いている。


「BCP策定は経営者の使命だと思います」と土屋 勝則 社長


オンデマンド印刷機+感圧紙安定走行キットによる販路拡大事例
富士ゼロックス機と感圧紙安定走行キットを活用して独自のビジネスモデルを構築
1冊からの名入れ伝票印刷ニーズに応えニッチのトップを目指す
富士ゼロックス「VersantTM 3100 Press」で 1冊からの名入れ伝票印刷通販「フロムワン」を展開
 印刷ニーズが多様化する中、伝票印刷の通販を手掛ける株式会社和歌山印刷所では、2020年4月より1冊からの名入れ伝票印刷通販「フロムワン」を開始しました。40番のノンカーボン紙を用いた極小ロットでの商材展開は他に例がなく、問い合わせも増え始めるなど需要が広がっています。このビジネスモデルを実現したのが、「感圧紙安定走行キット」を搭載の富士ゼロックス「VersantTM 3100 Press」です。“伝票1冊からのニーズ”に着目し、新たなサービスを展開する同社でお話をうかがいました。
エム・ビー・エスの紹介で感圧紙安定走行キット搭載の「VersantTM 3100 Press」を導入
 和歌山印刷所は、データ制作から納品までの一貫体制を完備し、事務用伝票をはじめ、各種パンフレット、看板まで幅広い分野の印刷物を制作しています。2013年には、伝票印刷に特化した通販サイト「伝票王」を立ち上げ、全国展開を始めました。
「伝票は単価の低い商品ですが、ニーズは安定しています。そこで、販路を拡大するため通販を採用しました。そうして全国展開するうちに、50枚綴の名入り領収証を1冊だけ欲しいというお客さまの声が耳に入りました」
 そう話すのは、同社の百合川 壮 専務取締役です。

「感圧紙は発色が良いので、4~5枚など複写枚数の多い伝票には最適です」と百合川 壮 専務取締役
  「例えば不動産業界では、取り引き件数は少なくても扱う金額は高額です。その数千万円以上の取り引きで、社印だけ押した市販の領収証では釣り合いが取れませんよね。そこに着目し、名入れ伝票が1冊から購入できる通販『フロムワン』を企画したのです」
 極小ロットでの名入れ印刷はオフセットでは対応できないため、必然的にオンデマンド印刷になります。しかし、複写枚数が多い伝票に使用する40番の極めて薄いノンカーボン紙では、シワ、斜行、見当ズレなどの問題がありました。
「複数のメーカーに相談して試し刷りもしましたが、いい結果は得られませんでした。そんな折、エム・ビー・エスさんが富士ゼロックスの感圧紙安定走行キットの情報をアナウンスしてくださったのです」
   感圧紙安定走行キットは、富士ゼロックスがお客さまのお困りごとに対応する個別ソリューションを提供するディーラーオプションのひとつです。オンデマンド印刷機で感圧紙を安定して印刷できるよう、印刷機に個別のソリューションとして組み入れ、そのお客さまの専用機として提供しています。エム・ビー・エスでは、このキット開発に感圧紙メーカーとして関わっていたことから、和歌山印刷所の取り組みをお聞きして導入をお勧めしました。
「印刷品質にはマシンも用紙も重要です。さらには印刷会社のスキルやノウハウも関係します。そのあたりも含めてエム・ビー・エスさんに相談しながら導入を進めていけたので、とても助かりました」
 2019年11月、感圧紙安定走行キットを搭載した富士ゼロックスの「VersantTM 3100 Press」が和歌山印刷所に導入され、1冊からの名入れ伝票印刷ニーズに対応する準備が整いました。同社では、通常のオンデマンド業務を行いつつ「フロムワン」のライン構築を進め、2020年4月より通販展開を開始。40番のノンカーボン紙でもシワや斜行などの問題もなく安定した印刷が行われています。
伝票から商業印刷まで幅広い業務に活用 ノウハウを蓄積してさらなるチャレンジを

「このマシンは紙のセッティングのコツをつかむといい仕上がりになります」と津村 泰史 出力部部長

 
 現在、和歌山印刷所では、「VersantTM 3100 Press」をどのように活用されているのでしょうか。出力部部長の津村 泰史さんにうかがいました。
「伝票印刷は比較的早く軌道に乗りました。ただ当社は、このマシンで商業印刷も含めて複合的に使う計画があったので調整を行いました」
 別のオンデマンド機導入時に苦労した経験があった津村さんは、封筒をはじめ、同社で使用する用紙をすべて富士ゼロックスのショウルームへ持参し、担当者立ち会いのもと逐一チェックして検証を繰り返したそうです。現在は、伝票以外の業務も安定した印刷が行われています。
コロナ禍の今、業務中はマスク着用を徹底
 「ノウハウ蓄積のためにいろいろチャレンジしたい」とおっしゃる津村さん。導入して1年ほどたった現在、オペレーターは1名。徐々に人数を増やし、将来的には3名で担当する計画とのことです。
「オフセットでは一人前のオペレーターになるには最低5年は必要ですが、オンデマンド印刷機なら1年もかかりません。人材教育の点でも大きなメリットです」(百合川専務)
 同社では、小ロットや可変印刷のニーズが今後さらに増えるのは確実との判断から、オンデマンド印刷機の活用を積極的に奨励しています。
伝票を自社で一貫生産できる強みを発揮し、BtoBからBtoCへ進出
 デジタル化の進展やペーパーレス化など、印刷会社を取り巻く環境が大きく変化する中、同社の今後の展望について百合川専務にお聞きしました。
「『フロムワン』の事業開始に伴い、同業者に販売代理店になっていただく契約を結びました。伝票ならではの薄紙対応や品質管理などのノウハウがない印刷会社も、当社が印刷から丁合いまでを一貫して行って安価で提供できるので、安心して販売できますし、新規顧客獲得のチャンスも広がります」
 主に和歌山から大阪を結ぶ南海道エリアを営業圏としている同社ですが、より多くの同業者とタイアップすることで、さらなる販路拡大を図る計画で、販売代理店になってくれる印刷会社を募集中です。
「当社は、金融から流通、そして各種メーカーまであらゆる業種の印刷物を制作しています。基本的にBtoBがメインでしたが、『フロムワン』の展開でBtoC領域へも進出できました。伝票通販というニッチな市場で、1冊からの名入れ伝票印刷ニーズをさらに獲得、拡大して、リーディング・カンパニーを目指していきます」
 オンリーワンのビジネスによって自社の価値を高め、さらなる発展に向かって歩みを進める和歌山印刷所。感圧紙安定走行キット搭載の「VersantTM 3100 Press」は、今後、同社の大きな戦力として活躍していくことでしょう。
株式会社和歌山印刷所
http://wa-in.co.jp/

1945年(昭和20年)、県からの要請により、印刷、製本、製紙会社などが集結し、合弁会社としてスタート。以後、地域に根差した総合印刷会社として、商業印刷から伝票類まで幅広い業務を請け負っている。

現在、世界中で新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっています。感染症に罹患された皆様、不自由な暮らしを強いられている皆様に心よりお見舞い申し上げます。
また、世界各地で治療や感染予防に力を注がれている皆様に尊敬の意を表するとともに、深い感謝を申し上げます。
弊社は、感染拡大の防止とお客さま・従業員の安全確保に配慮しながら事業継続を図ってまいります。今後ともなにとぞ宜しくお願い申し上げます。
 
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