廃業まで考えながらも補助金活用へ 新市場を開拓した下町の印刷会社
株式会社扶桑は1964年に東京都葛飾区で創業した印刷会社です。設立当初はスキー板などにロゴマークを印刷するアルコール転写が主な業務で、自転車のフレームに貼るロゴのシールは、約8割の国内シェアを誇った時期もあったそうです。
その後、メーカーの生産拠点が海外へ移行するなど産業構造の変化があり、扶桑は新たな主力製品の開発に取り組む必要が出てきました。そこで、転写シールの技術を活かしたキャラクターグッズやノベルティ制作などの分野に進出。しかし、「私が入社した2015年ごろは経営が行き詰まっていました」と語るのは、同社取締役の富田成昭さんです。
「何年も赤字が続いており、父である現社長から会社をたたむという言葉が出たほどです。経営を立て直すために何をすべきか考え、東京商工会議所などにも相談した結果、補助金を利用することを決めました」
補助金を活用した販促で知名度を上げ自社ブランド確立へ
当時の扶桑は、大手の下請けの立場で注文されたものだけを印刷していました。経営の改善には、自社名が出せるオリジナル商品が必要だと富田さんは考えました。そこで、日本商工会議所の「小規模事業者持続化補助金」を利用し、アイロンを使わず布に転写できる特殊印刷シールの販促用サンプル制作や、自社ホームページのリニューアルを行いました。
小規模事業者持続化補助金は補助率3分の2、上限50万円と額としてはあまり大きくないものの、用途の自由度が高いという特徴があります。
「販売促進に関わる事業であれば基本的に認めてもらえるので、小規模のチャレンジに適しています。当社のような中小企業は一気に変革するのは難しい。一歩一歩、段階的に進めていかなければなりませんし、次のステージへ向かうたびに資金の調達が必要です。そのような実情に合った補助金だと思います」(富田さん、以下同)
扶桑では、小規模事業者持続化補助金を、2016年から4年連続で受けています。その他、東京都中小企業振興公社の「販路拡大助成事業 展示会への出展等に関する助成」、全国中小企業団体中央会の「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」、サービスデザイン推進協議会の「IT導入補助金」など、通算で現在まで10回ほど利用しているそうです。
補助金を活用して販路を開拓した結果、企業としての認知度が高まり、メーカーや広告代理店と直接取引するケースが増加。さらに、自社ブランドとして立ち上げた、布用ノンアイロンステッカーの「irodo(イロド)」は、全国規模のスーパーや大手雑貨店から次々と引き合いが来るまでに成長しました。
申請書を書くことが現状の把握や将来ビジョンの具体化に役立つ
補助金を受けるには申請書を提出し、採択されなければなりません。公募要領をしっかりと読み込み、対象となる事業の内容や効果、自社の強み、市場規模、経営方針などを記入するのは手間がかかります。しかし、「申請書を作ることが経営改善の重要なプロセスになる」と富田さんは言います。
「会社の状況を正確に把握できるからです。主軸の事業が生み出すキャッシュフロー、収益性の低い事業の負担など、経営戦略に必要なデータが見えてきます。書き方が分からなければ、商工会議所などから中小企業診断士を派遣してもらい、指導も受けられます」
補助金の申請で特に重要なのが将来への展望です。単なる資金不足などでは受け付けてもらえません。今後、収益の柱としたい製品作り、市場開拓のための広告販促活動など、予算面も含め、新事業への取り組みが具体的に進んでいることが求められます。
「補助金で何をするのか、どう変えることを計画しているのかを審査員に説明するためには、将来のイメージができていなければなりません。申請書を作ることは、事業計画書を作るのとほぼイコールなのです」
先の見えにくい時代だからこそ補助金を上手に活用したい
最後に、補助金の活用を検討している印刷会社に向けてアドバイスをお願いしました。
「補助金はハードルが高い、手続きが面倒という印象をお持ちの方もいらっしゃることでしょう。まずは、商工会議所などに相談に行くことをお勧めします。相談は無料ですから。社内で新しい事業にチャレンジするというと、『そんな資金はない』という話になりがちですが、補助金を受ければ会社の出費は最小限で済むので、社内的なコンセンサスも取りやすいと思います」
国や自治体、団体などが、さまざまな補助金制度を設けています。先の見えにくい時代だからこそ、自社の継続、そして発展のために、補助金を上手に活用することは成長戦略の一つといえるでしょう。
- 販促用のアイテム作りやホームページ作成といった、「小さなチャレンジ」に活かしやすい補助金や、設備投資をサポートする補助金など、さまざまな種類がある。
- 資金の調達だけでなく、事業計画を立て、今後の目標を明確にする意味でも、補助金の活用は有効。
株式会社扶桑 https://kkfusou.co.jp/
熱を加えず布に貼れる「NDシール」をはじめ、BtoB・BtoCいずれのニーズにも応える製品を提供。2019年、「irodo」が安全で創造性を育む製品として第13回キッズデザイン賞を受賞。
「補助金対象に採択されると公的機関の成果事例に載る。それが信用にもつながると思います」と扶桑 取締役の富田 成昭さん
エム・ビー・エス株式会社
40番の感圧紙をオンデマンドで安定印刷!
多様化するビジネスフォームのニーズに応える富士ゼロックスの「感圧紙安定走行キット」
左よりGCS営業部 森 良材部長、GCS営業部 マネジャー鎌形 明さん、GCS事業本部 技術営業 高橋 正光さん/富士ゼロックスショウルーム「グラフィック コミュニケーション サービス 東京」(六本木)にて
小ロットやバリアブル、カラーバリエーションなど、ビジネスフォームの印刷ニーズが多様化し、印刷会社は柔軟な対応が求められています。そこで強みを発揮するのはオンデマンド印刷ですが、薄紙ではシワやカール、角折れなどが発生することがありました。
それらの課題へ独自に取り組み、最も多く使用される40番という極めて薄い感圧紙のオンデマンドによる安定印刷を可能にしたのが、富士ゼロックスのプロダクションプリンター「Versant」シリーズの「感圧紙安定走行キット」です。今回は、このキットについて、富士ゼロックスの担当者にお話をうかがいました。
お客さまのお困りごとを個別に解決するディーラーオプション
感圧紙安定走行キットとは、どのようなものなのでしょうか。
「このキットは、2019年度から富士ゼロックスが始めたディーラーオプションの一つです」
「富士ゼロックスファンの特約店さんを増やすことを主眼に活動しました」と森部長
説明してくださったのはグラフィックコミュニケーションサービス(GCS)事業本部 GCS営業部 ビジネスパートナーグループの森 良材部長です。
「ディーラーオプションとは、お客さまのお困りごとに対応する個別ソリューションを提供する活動です。感圧紙安定走行キットは、オンデマンドで感圧紙を安定して印刷できるようにマシンに個別のソリューションを組み入れ、そのお客さま専用機としてご提供するものです。
当初は、販売会社である富士ゼロックス東京で始まった取り組みで、都内のお客さまを中心に対応してきました。しかし、ご要望が増えてきたことから、2018年10月に富士ゼロックス全体の取り組みへと広げ、各地のエンジニアや特約店様とも調整を進め、現在は全国のお客さまへご提供しています」
感圧紙安定走行キットは、「Versant 3100 Press」をベースに展開しています。開発の経緯について、担当したGCS事業本部 技術営業の高橋 正光さんはこう語ります。
「Versant シリーズには、非常に優れた定着力を発揮するベルトロールが搭載され、薄紙印刷にも対応できる高い可能性を持っていたことから、シリーズ初期の『Versant 80 Press』から、開発にトライしていました」
富士ゼロックスでは、感圧紙は平判のユーザーが多いので、オンデマンド化へのご要望が高まると考え、キットの開発を進めていたそうです。しかし感圧紙は薄紙であるため、熱を加えるオンデマンド印刷ではカールしやすく、打痕がつくなどの課題がありました。また帳票印刷は、A紙、B紙、C紙を丁合いしたときに罫線がピン1本分ズレてしまえば不良品となってしまうので、見当精度を高めることも必須です。
大胆な発想でお客さまのニーズに対応
エム・ビー・エスも感圧紙メーカーとして開発に協力
「そうしたトライを繰り返す中、大手の印刷会社から、40番の感圧紙で生保の申込用紙30万枚を1カ月で印刷できるようにしてほしい、という相談が舞い込みました」(高橋さん)
「Versant シリーズの定着ユニットは、もともとの性能が高いので、さまざまな応用を利かせることができます」と高橋さん
そのオーダーに高橋さんと共にトライをしていたGCS営業部のマネジャー鎌形 明さんは、「生保では、文字と量の可変、さらに色も付けたい、バリアブルでバーコードも印刷したい、という要望だったようです。となるとオンデマンドしかありません。約半年の開発期間をもらい、40番をプリントし続けました」と振り返ります。
高橋さんは、「シワ、カール、角折れは想定内で、問題点を一つずつクリアすることができました。ただ、40番の薄さゆえに最後まで課題として残ったのが小さなシワでした。そこで定着ユニットの先にあるデカーラーの使用をやめたのです」と語ります。
カールを補正するためのデカーラーを使わないという、かなり大きな改造を行ったのです。
「マシンのスペックでは、用紙の薄さは坪量52g/m2です。それより薄い40番を通したいというご要望に応えるには、大胆な発想が必要でした」(鎌形さん)
「ディーラーオプションのメニューをいかに充実させていくかが私の役目」と鎌形さん
カスタマイズされたマシンにより、生保の申込用紙はオーダーどおり納品されたそうです。
エム・ビー・エスでは、感圧紙安定走行キット開発に際し、用紙の供給をはじめ、紙の特性や技術情報の提供、印刷現場の声のフィードバックなど、感圧紙のメーカーとして、富士ゼロックスと密にコミュニケーションを取って携わってきました。
「エム・ビー・エスさんと組んで良かったのは、例えば調整中のトラブルについて相談すると、スピーディーに回答を寄せてくれることです。さすが感圧紙のメーカーだと思います」(高橋さん)
未来を見据えた印刷会社の新たな戦力として
2019年にディーラーオプションとして全国展開されるようになった感圧紙安定走行キット。日本各地のお客さまからの問い合わせが急増しています。
昨年5月には、九州のお客さまが日本橋のショウルームまで足を運び、「Versant 3100 Press」による40番の3枚刷りだけでなく、50番と100番の組み合わせなどもテストし、その場で導入を決断。帰りの飛行機からすぐさまデモを見た感想までメールで送ってくれたそうです。その一部をご紹介します。
「デモでは、用紙の引っかかりの原因になりそうな箇所の隙間をなくし、ストレートに用紙が流れるように給紙トレイや送り出しのローラーのパーツが改良されているのが分かりました。テストでは、100セットを4分で詰まりもなくスムーズに出力していました。
今までのCTP版出力→オフセット印刷→オフセットナンバー→丁合作業という4工程が1工程で済みますね。今後、小ロットの依頼が増えるのは確実なので、ノウハウをしっかり作り込んでいきます」
クライアントから求められたロットや色に柔軟に対応し、さらに安定した印刷ができることは印刷会社の皆様にとって大きな強みになります。また、工程が減ることで、オペレーターなど将来懸念される人材不足への対応も見えてきます。
現在のユーザーは、最小構成でも幅3103mmという「Versant 3100 Press」の筐体サイズの関係から、大・中規模の印刷会社様が中心となっていますが、「Versant 180 Press」といった比較的小型のマシンでの対応も検討しているとのこと。ユーザーは今後さらに増えていくことでしょう。
封筒、はがき、名刺、冊子、フライヤーなど幅広い用途で活躍する「Versant 3100 Press」
多様化するビジネスフォームのニーズに応える感圧紙安定走行キット。その活用でビジネスチャンスは広がっていくことでしょう。富士ゼロックスでは、印刷会社の皆様により多くのチャンスをつかんでいただけるよう、ディーラーオプションのさらなる充実を考えているそうです。
「封筒の積載量強化アタッチメントや、中綴じ製本積載量強化キット、除電装置などは、すでにメニューにあります。今後もお客さまの細かなニーズにお応えできるよう、ディーラーオプションの品ぞろえをもっと拡充させていきたいと考えています。その中には、例えばホワイトトナーを活用した感圧紙減感印刷対応などの構想もあります」(鎌形さん)
感圧紙安定走行キットをはじめ、印刷現場に多様なソリューションを提供していく富士ゼロックスのディーラーオプション。期待を込めて、これからも注目していきたい取り組みです。
「感圧紙安定走行キット」に関するご質問、ご相談は
下記までお気軽にお問い合わせください。
「Versant 3100 Press」の前で高橋さん、鎌形さんと談笑するエム・ビー・エスの担当、勇崎 裕幸(左端)
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