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令和時代の印刷・出版ビジネス
 
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令和時代の印刷・出版ビジネス

2019/10

令和時代の印刷・出版ビジネス

「令和」改元による日本企業への影響
 2019年5月1日から、大化以降248番目の元号となる新元号の「令和」の時代が始まりました。新元号の発表は2019年4月1日。天皇の生前退位は約200年ぶりのことです。
 改元は企業活動にとっても大きな意味を持ちます。元号が変わって、刷新が発表された貨幣関連で紙幣や硬貨の読み取り機械や処理関連、情報システム関連では元号による管理システムや元号表示改修のためのアップデートが必要になります。改元による恩恵がある業界として、このような直接的に関連した印刷や印章、貨幣、システム関連が代表的です。また、印刷関連では、請求や納品に関する商取引に用いられる書類や、経理や税務など各種帳票類、ゴム印や社内や対外的に用いられる印刷物の修正や更新作業が多くの企業に求められています。
「令和」への書体対応
 令和への改元発表の直後から、書体について関連団体や書体メーカー各社が続々と対応を発表しました。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は4月下旬、商用・非商用や媒体の種別を問わず利用できるIPAexフォントに令和の合成文字を追加した最新バージョンを公開しました。また5月末、IPAは住基ネットワークや多くの行政機関で標準的に利用される書体である「IPAmj明朝フォント」に「令和」を追加実装したバージョンを無償公開して、ダウンロードや利用ができるようになっています。
 株式会社モトヤは「令和」発表の際に示された墨書きの「令」の字形の印刷要望に応じて、無償で楷書体のフォントを提供。その他の書体メーカーも4月初旬には株式会社SCREENグラフィックソリューションズがヒラギノフォント66書体への合字追加を発表。ダイナコムウェア株式会社は、4月にDynaSmartシリーズのTrueTypeの全書体に「令和」合字を対応させ、5月下旬には同シリーズのOpenTypeフォントに新元号の合字を追加しました。株式会社モリサワも順次、新元号を追加することを発表しています。
手帳/カレンダー/パッケージ
パッケージ市場で紙器需要の底上げに期待
 平成を通じて文具やビジネス用品をはじめとする紙製品を素材とした業界は変化しました。紙の需要は1990年に1639万トン、2000年がピークの1925万トンで、2013年は1616万トン、2018年は1407万トンと、平成の終わりにかけて年々少なくなっています。直近の紙についてのデータは、日本製紙連合会によると2017年の製紙メーカーの紙と板紙を合わせた国内出荷量が前年比0.2%マイナスの2489万トン。この内、紙は同1.8%マイナスの1350万トンと11年連続の減です。

紙出版と電子出版の制作・販売のフロー

 文具・事務用品市場を見ると、景気後退期に大きく落ち込んだ後、一時期は個人需要の筆記具のヒット商品などが底支えして維持してきたものの減少傾向です。国内では文具や事務用品は成熟市場のため、人口減少を背景に市場全体の減少傾向は続くと見られます。なかでも手帳やノートを含んだ紙製品の減少は続き、改元需要で一時的に歯止めがかかるかどうかは現時点で不透明です。手帳に関するアンケート調査によると、手帳を購入しない人の理由として、スマートフォン・パソコン・タブレットで管理するという回答が4割近くあり、利用者のデジタルへのシフトも見られます。
 個性的な手帳で熱心なファンを持つ「ほぼ日手帳」。同手帳を販売する株式会社ほぼ日の2019年1月の発表によると、同社の今四半期の売上は23・7億円。そのうち16億円が手帳の売上で、全体の69・2%となっています。ほぼ日の業績は手帳の販売に依存していますが、前年からの売上成長率は13・9%です。こうした一定の「指名買い」を持つ商品は市場動向に関わらず堅調な動きを見せているといえます。
 カレンダー市場は1991年頃をピークに毎年減少が続いています。バブル期は年3億部でしたが、2013年には2億部にまで減りました。金額では、800億円から600億円ほどに市場規模が縮小しています。
 パッケージ印刷市場は、矢野経済研究所によると、2017年度の国内パッケージ印刷市場規模が前年度比1.2%増の1兆3704億5700万円。2018年度に入ってインバウンド需要は落ち着きつつも食品分野を中心に依然として各需要分野は堅調に推移し、同年度の市場規模は前年度比0.9%増の1兆3825億5000万円、2019年度の国内パッケージ印刷市場規模は前年度比0.3%増の1兆3869億円と、引き続き堅調な需要を背景に拡大が予想できます。しかしユーザー企業のコストダウン要請が強まり、省包装化の動きが活発化すると考えられることから、伸び率は小幅にとどまるとみられています。
 世界規模で急速に関心が高まったのが、直径5ミリ以下に砕けたプラスチックごみが海洋汚染を引き起こすマイクロプラスチック問題です。この対応のために今後、紙器需要が底上げされると考えられます。
印刷業界と電子出版
一般印刷市場は微減。電子書籍需要が急増
 2017年度の国内一般印刷市場(事業者売上高ベース)は、矢野経済研究所によると前年度比1.1%減の3兆4922億円で、これは出版印刷分野の減少と、大型のビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)案件縮小の影響を受けたデータプリントサービス(DPS)の減少が主な要因です。2018年度の国内一般印刷市場規模(事業者売上高ベース)は前年度比0.7%減の3兆4680億円と減少幅は小幅な推移の見込みです。
 一方で、平成の終わりに本格的に市場が誕生した電子出版の市場については、『電子書籍ビジネス調査報告書2019』(インプレス総合研究所)によると、2018年度は3122億円と前年度比12・2%増でした。このうち電子書籍市場は2826億円と同26・1%急増し、電子雑誌市場は296億円と同6.0%の減少傾向と推計されています。電子書籍市場の急増要因について、社会問題化していた違法サイトが2018年4月に閉鎖され、多くの電子書店が多額のマーケティング予算を前倒しして投入したことのほか、違法サイトにより結果的に電子書籍の認知向上につながったことも遠因とされています。
 無料でマンガを読めるアプリやサービスの利用も拡大し、インプレス総合研究所によると2018年度のマンガアプリ広告市場規模は167億円。動画リワード広告(ユーザーが動画を最後まで視聴すると、アプリ内で報酬を獲得できるフルスクリーン動画広告)と読了後に表示する静止画・動画広告が主流で、特に動画リワード広告が拡大しました。2019年度は1.5倍の250億円程度に達すると予測されています。
 全国出版協会・出版科学研究所が2019年7月に発表した出版市場の統計によると、2019年上半期の電子出版市場は前年同期比22・0%増の1372億円となりました。
出版各社は紙と電子の併用で売り伸ばす
 一方で紙の出版物は、前年同期比4.9%減の6371億円にまで落ち込みましたが、出版各社は紙と電子の併用による売り伸ばしを図っています。同発表による2019年上半期の電子書籍の売上の内訳は、コミック27・9%増の1133億円、書籍8.5%増 の166億円、雑誌15・1%減の73億円。書籍はライトノベル、ビジネス書、写真集などが堅調に売上を伸ばしています。雑誌はNTT docomoの定額制雑誌読み放題サービス「dマガジン」の会員数の減少が続き、その比率を下げています。
 電子雑誌のデメリットのひとつが「付録」の扱いです。平成の後半になると雑誌やムックの各誌が小物類やバッグなど大型の付録付きを頻繁に発行するようになり、書店でも平台で大きく取り扱うようになりました。しかし、こうした付録を持つ雑誌は電子で流通させることができません。
ハイブリッド型総合書店「honto」。電子書籍、通販、書店のどの購入でも共通のポイントがたまり、使用できる。アプリで書店の在庫検索、来店でのチェックインポイント付加など、書店への来店を促進する仕組みも
https://honto.jp/
 こうした紙と電子の使い分けという意味では、大日本印刷提供のハイブリッド型総合書店「honto」があります。hontoは電子書籍配信と同時にオンライン書店でもあり、さらに丸善やジュンク堂書店などの実店舗とも連携。電子書籍と紙書籍をシームレスに選んで購入でき、購入ポイントは相互に使えます。大型店舗との連携で在庫の少ない本や希少な本も購入しやすいといったメリットを打ち出し、注文した本の書店での取り置き、受け取りも可能など、実店舗の利用も促進しています。
 そのほか紙の本の付加価値を高める方法として、例えば旅行ガイドを購入した人に、同じ内容の電子書籍や誌面で紹介した店舗・スポット情報を登録した電子マップを無料でダウンロードできるようにしている出版事例も見られます。
 また、近年では紙書籍の出版と同時に電子書籍を配信する「サイマル出版」も活発になっています。消費者の側でも、同じ本を電子と紙で購入し、自宅と出先とで使い分けるといった行動も見られるようになりました。
PODの普及により高まる個人出版需要
 平成の後半からは出版に対する書き手のアプローチにも変化が出てきました。インクジェット印刷によるプリント・オン・デマンド(POD)出版が一般的になり、少部数で初期コストを抑えた出版が可能となって印刷製本の敷居は低くなっています。
 2017年度のデジタル印刷の市場規模は、前年度比1.4%増の3273億7000万円の見込みで、フォトブック市場、オフィスコンビニ市場などの拡大が見込まれるPOD市場全体の見通しは比較的明るいようです。今後の課題としては、日本印刷産業連合会とデジタルプレス推進協議会の調査報告会によれば、小ロットかつ短納期の印刷物を、人手をかけず効率的に行うことが挙げられています。
 一方、2018年9月には、インプレスグループで電子出版事業を手がける株式会社インプレスR&DがAmazon.co.jpのプリント・オン・デマンド(POD)サービスを活用した個人向け出版販売支援サービス「著者向けPOD出版サービス」の累計販売冊数が3万冊を超えたことを発表しました。このサービスでは、印刷可能なPDFファイルを用意すれば、登録料や使用料はかからず、だれもが無料でAmazon.co.jpで出版できます。さらに同社はAmazonのPODで出版する個人を対象に「ネクパブPODアワード2019」を開催。Amazonで販売実績のある書籍を対象に、233点のエントリー作品から、最優秀賞を含む計13点の受賞作品が選定され、個人出版の需要の盛り上げに一役買っています。
 令和時代に入り、紙による出版、PODによる出版、電子出版という大きく3つの手段の使い分けが書き手や出版社にとっても大きな選択肢になり、またそれらとの連携次第で商業印刷に関わる印刷会社のビジネスも大きく変化すると思われます。電子媒体へのニーズは今後も高まり続けるとみられ、印刷会社での書籍印刷では、電子化にあたっての印刷最終データの提供や電子データの制作などの対応は不可欠になるでしょう。
 帳票や伝票印刷の業界でもクライアント企業に合わせた多品種、小ロットの注文への柔軟な対応が求められています。書類の保存義務を企業に課した2014年の税制改正後、一部の印刷会社では、在庫管理や帳票類の機密文書の保管業務サービスを提供しています。
 こうした事例のように印刷業界でも新時代の新たなビジネスが生まれるかもしれません。
 
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