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社員を育て、会社を育てる

2018/07
株式会社ワニブックス
人気ブログやSNSを書籍化! ヒット連発の理由

日本2.5次元ミュージカル協会 漫画やゲームの魅力を広げ、 世界のエンターテインメントへ
業界内だけを見ずに、業界を「広げる」発想を

社員を育て、会社を育てる

株式会社ワニブックス
人気ブログやSNSを書籍化! ヒット連発の理由
 1979年に設立したワニブックスは、芸能関係の雑誌や書籍、アイドルの写真集などで成長した出版社です。ところが近年、「人気ブログやSNSを発祥とするコンテンツの書籍化」で、ビジネスや食、暮らし、美容などの実用書やエッセイ・小説・絵本など、多様なジャンルのヒット作を送り出すようになりました。
 このような書籍には、極力物を持たずに暮らす人を指す「ミニマリスト」という言葉を世に広めた『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』(発行部数16万部、以下同)をはじめ、『だから、そばにいて』(10万部)、『arikoの食卓』(6万部)、『なんでも解決! もひかん家の家族会ぎ』(2万部)、などがあります。なかにはヒットを受けてシリーズ化された作品も多くあります。
あえて紙の世界で勝負する
ワニブックス書籍編集部 編集長の青柳 有紀さん。「できあがった本を見て、著者と一緒に喜びを分かち合えるような質の良い本作りを心がけています」
 全国出版協会が発表している出版市場調査によると、2017年の紙の出版物(書籍・雑誌合計)の推定販売金額は前年比6.9%減の1兆3701億円と、13年連続でのマイナスとなりました。
 「出版業界は一方では厳しい時代と言われていますが、そこには焦点を当てていません」と話すのは、書籍編集部の編集長、青柳有紀さんです。青柳さんがネットに目を付け、ネット発コンテンツの書籍化を進めるようになったのは、インスタグラムやツイッターなどのSNSが登場する前でした。「看護師さんや、自衛隊員の奥様といった人たちの書いたユニークなブログを読んだりしていました。こうした魅力あるブロガーさんたちに、ぜひ本を書いていただきたいと思ったんです」(青柳さん、以下同)。
 LINEやフェイスブック、ツイッターなどの代表的なSNSを利用している人の割合は2016年には71.2%にまで達しました。「今こそ出版はネットと手を組むと面白いと思います。現在、SNSの世界では、何十万人ものフォロワーを抱える人気の発信者たちが大勢います。彼らに本を依頼した場合、既存の読み手がいる上に、ネットでも自著を広く宣伝してもらえます。ネットとの連動により、出版はその価値や可能性を広げることができます」。
ネットで原石を探す
 「ブログのアクセス数やSNSのフォロワー数の多さは、魅力あるコンテンツの目安にもなります」と青柳さんは言います。ただし、ネットで集客力がある文章やイラスト、写真も、ネットでは無料で見られるので、そのまま紙に載せるだけでは必ずしも売れるとは限りません。同社ではこうした素材について、ネットとは違う構成を練ってデザインし、伝わるタイトルを付けることはもちろん、著者に書籍用として新たに書き下ろしてもらったり、新たにイラストを付けたりして、紙の本としての価値を創っています(詳しくは下の囲みで紹介)。
 「編集者がネットで探しているのは、ブログやSNSのコンテンツそのものではなく、優れた才能を持つ人たちなんです。著書はなくても、独自の感性のイラストや文章表現、写真撮影の能力を持つ原石のような人たちです。特に、そうした人が初めて本を出そうとするときは、強いエネルギーがあります。そこに、読者が惹かれるのだと思います」。
 また、売れる書籍は、写真やイラストの魅力による場合も多いため、「インスタ映え」などの言葉に代表されるように、センスある画角を意識した画像が多数アップされる今、ネットで著者を探すメリットは多いと言います。

高い重版率も実現! 売れる本を作るには
 「ブログのアクセス数やSNSのフォロワー数は、必ずしも書籍化の判断材料にはなりません。そういった数字はあくまで参考にとどめておきます。一方で、コンテンツを読み、編集者自身が本当に面白いと感じ、作り手の書籍化への熱量も感じたのであれば、書籍化を前向きに考えたいと思っています」。
  また、ブログやSNSのコンテンツは、書籍化されると読み手からは異なるコンテンツとして映るようになります。読者層も変わったり、広がったりしています。

 「ツイッター発信の癒やし系のイラストを書籍化したことがありました。ツイッターでのフォロワーの多くは、20代の若年層でした。ところがこの本のアンケート調査では、60代の読者が多くいることが分かったのです」。
 同社が出版する人気ブログやSNSを元に生まれた本の重版率は半分を超えています。現在、書店での書籍返品率の平均は約4割で、平均的な重版率も下がっていると考えられるので、これらの重版率はかなり良いと考えられるでしょう。
 「単純に話題のSNSを書籍化したとしても、おざなりに作れば長くは売れません。売れる本を作るには、その著者の持つ魅力を生かすために手間をかけ、工夫をこらすことが大切だと思います」と青柳さんは言います。
  「長く愛される質の良い本を作ることが、編集者としての醍醐味」と語る青柳さんは、さまざまな角度からコンテンツの質を深め、段々と読者を増やしていくネット発祥の書籍作りに、その魅力を強く感じているようです。
株式会社ワニブックス
http://www.wanibookout.com/
  • デジタルコンテンツに押された出版市場の縮小を逆手に取り、ネットから素材を見い出し、編集の力でその魅力を深めたり盛り上げたりする新しいアプローチが確立されつつある。
  • デジタルコンテンツをそのまま紙の書籍にするのではなく、書籍ならではの独自性や付加価値を創り出すことで、デジタル版の読み手だけでなく、さらに読者を広げ、ヒットに結び付けることができる。
日本2.5次元ミュージカル協会
漫画やゲームの魅力を広げ、世界のエンターテインメントへ
日本2.5次元ミュージカル協会広報の遠田 尚美さん。「観劇が初めての方も、原作を知らない方も楽しめます。千秋楽に映画館でライブビューイングを行う演目が非常に多いので、まずはそこからでもぜひ一度ご体験ください」
 「2.5次元ミュージカル」とは、漫画・アニメ・ゲームなどを原作とした舞台化作品の総称で、ストレートプレイ(歌唱を含まない通常の演劇)も含みます。2次元の原作の世界観が3次元に変換されることから来ているネーミングです。2016年の年間上演作品数は133作品。年間総動員数は150万人にも達しました。原作となる出版、ゲーム業界はもちろん、演劇業界を盛り上げるとともに、多様なグッズ販売や映像作品としての2次利用など、新たな市場を生み、昨今注目されています。
 「日本2.5次元ミュージカル協会は、国内外における2.5次元ミュージカルのジャンルとしての認知度の確立を目指し、作品のプロモーションのお手伝いや市場調査・分析などを行っています」と、協会広報の遠田尚美さんは言います。

出版社との新しい関係
 もともと漫画を原作としたミュージカルには、宝塚歌劇団の『ベルサイユのばら』などがありました。今のように2.5次元ミュージカルとして人気が高まったのは、2003年の初演から今まで15年間シリーズが上演され続けている、ミュージカル『テニスの王子様』がきっかけといえます。
 協会が設立された2014年頃は、出版界でも漫画雑誌や単行本の部数が伸び悩みつつあり、漫画やアニメのドラマ化もやや飽和状態になりつつありました。そうした中で出版界でも、原作の舞台化、つまり2.5次元ミュージカルの企画に積極的に向き合うようになり、作品数も増えています。最近ではスマホアプリゲームが原作の舞台作品も多くなっています。『刀剣乱舞』はミュージカル、ストレートプレイの両作品が存在し、どちらも人気が高く、実写映画化も予定されています。
舞台芸術の一ジャンルとして新しいファンを獲得
 2.5次元ミュージカルのファンの中心は、20〜30代の女性で男女比は女性が約8割。年齢層が現在の一般的な演劇市場より比較的若いため、演劇業界からの期待も高まっています。
  「漫画・アニメ・ゲームが原作の2.5次元ミュージカルは、舞台の観劇経験がない方にも入りやすいジャンルです。また、最近では原作を知らなくても純粋な演劇として楽しむファンも増えています」(遠田さん、以下同)。
  「2.5次元ミュージカルはキャラクターが主役ですので、ファンの方は、それぞれ好きなキャラクターがいるのです」と遠田さん。一般の演劇での販売グッズは、パンフレットやTシャツ、タオルなどですが、2.5次元ミュージカルの場合は、出演キャラクターが多く、それぞれのキャラクターにファンがいるので、グッズの種類も増え、売上も大きくなります。
日本発世界標準ミュージカルとして世界へ
世界初、メガネ型字幕システム「字幕メガネ」をAiiA 2.5 Theater Tokyoに常設。最大4カ国語から選んだ言語の字幕をリアルタイムに表示する
 「協会発足の目的の一つは、海外への展開です」。近年は2.5次元ミュージカルを観劇するために来日する外国人も増え、海外からの注目度が高まっています。協会公式サイトでは各プレイガイドと協力して海外からも直接チケットを購入できるサービスを導入しています。2015年には専用劇場の運用も始まり、世界初のメガネ型多言語字幕システムも常設して、外国人の観客から好評です。
 「日本では海外から舞台作品の権利を購入し、上演するケースが多いのですが、私たちは、それとは逆に日本の作品が原作である2.5次元ミュージカルの権利を、海外に向けて販売し、世界中で上演されることを目指しています」。今年、フランスのパリで開催される「ジャポニスム2018」では、ミュージカル『刀剣乱舞』と「美少女戦士セーラームーン」のパフォーマンスショーが公式演目として採用され、上演予定です。
AiiA 2.5 Theater Tokyo
「いつでも2.5次元ミュージカルに出会える」をコンセプトにした専用劇場(東京・渋谷区)。国内外からたくさんのファンが訪れる

 日本2.5次元ミュージカル協会には現在、ネルケプランニング、ホリプロ、マーベラス、バンダイナムコライブクリエイティブ、ぴえろ、エイベックス・エンタテインメント、ゴーチ・ブラザーズ他、観光業や専門学校など多種多業種の75団体が加盟しています。「企業が力を合わせることで、ビジネスをより大きく展開し、世界規模のチャンスをつかむことができるのです」。
一般社団法人 日本2.5次元ミュージカル協会
https://www.j25musical.jp/

ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」
-Le Mouvement Final-(ル ムヴマン フィナール)
社会現象にもなった人気漫画が原作。2.5次元ミュージカルの代表的なタイトルとして、海外でも公演し、多くのファンを獲得
©武内直子・PNP/ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」製作委員会2017
ミュージカル『テニスの王子様』15周年記念コンサート
Dream Live 2018
人気漫画『テニスの王子様』が2003年に初めてミュージカルに。当時漫画の舞台化は珍しかったものの、口コミで爆発的な人気となってシリーズ化された
©許斐 剛/集英社・NAS・新テニスの王子様プロジェクト
©許斐 剛/集英社・テニミュ製作委員会
ミュージカル『刀剣乱舞』
〜阿津賀志山異聞2018 巴里〜
ゲーム原案のミュージカル作品。海外でも人気を博し、2017年に中国公演も実現
©ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会
  • 漫画やゲームのアニメ化、テレビアニメのDVD化などの流れに、ミュージカルや舞台という古くからのエンターテインメントとの融合も起こり、新市場として急成長している。
  • 2.5次元ミュージカルという新ジャンルは、さらに、世界的な人気を持つ日本の漫画・アニメの強みを生かし、作品輸出による市場開拓も進行。外国人ファン向けの関連グッズの需要なども期待できる。
業界内だけを見ずに、業界を「広げる」発想を
 書籍出版物の部数や売上低下の一因に、SNSやブログなどのネットコンテンツの爆発的な普及が挙げられています。しかし、ネットを脅威と捉える見方を変えたとき、優れた出版物を生み出す素材の宝の山に変わりました。
 日本の少子高齢化の波は将来、演劇市場にも及ぶことは明らかです。そこに2.5次元ミュージカルで若い客層を取り込む可能性が見えてきました。新たなグッズ販売はさまざまな印刷需要も生んでいます。従来の演劇業界では難しかった作品輸出も実行段階に入ってきました。
 これらの事例に共通するのは、属する業界や自社の事情にとらわれず、さまざまな業界との連携やコンテンツの応用を大切にしていることです。また、市場を固定化されたものと考えずに、それぞれの関係者が意欲的に市場開拓の取り組みを行っているのも注目すべき点です。見過ごしているものを確認することが、現在の印刷業界にとって新たな一歩になるかもしれません。
 
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