CLUB GC
表紙へ グリーンレポートへ 技術情報へ Q&Aへ アンケートへ
社員を育て、会社を育てる
 
すぐに分かる! 注目の経営手法や市場の「今」 グリーンレポート

社員を育て、会社を育てる

2018/04
清川メッキ工業株式会社
社員満足度の高まりとともに 世界で注目される品質の高さを実現

社員の満足度は、日々の細やかなコミュニケーションで確かめる
学んだら必ず人に教える仕事は自ら分解して理解する
ルーティン型の仕事の中でモチベーションを高めるために
印刷業界の人材育成は?

社員を育て、会社を育てる

清川メッキ工業株式会社
社員満足度の高まりとともに 世界で注目される品質の高さを実現
 スマートフォンや自動車などに使われる半導体などの電子部品。その接着や保護、あるいは特殊な機能を与えるために欠かせないのが「めっき」です。福井県福井市の清川メッキ工業は、めっき加工のトップランナー企業です。ナノ(100万分の1ミリ)レベルのめっき加工技術と、月間数十億個を処理しながらも不良品はほぼゼロという品質管理を実現。文部科学大臣による科学技術分野賞や全国発明表彰など、数々の賞を受賞しています。国内外のメーカーが高難度の仕事を頼みに来る「駆け込み寺」となっています。
  注目されるのはそれだけではありません。2014年「おもてなし経営企業選」や2015年「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」の中小企業庁長官賞を受賞するなど、人材育成に力を入れ、人を大切にする経営姿勢についても各方面から高い評価を得ています。
新入社員の3年以内離職率0%
 同社では売上高や利益を経営の目標に掲げたことはなく、対外的にもそれらの数値を公表していません。ただ、社員数の推移を見れば、順調な成長ぶりが分かります。同社の社員数は25年で3・5倍の250人ほどに増加。採用は全て「地元福井で一生を終える覚悟のある人」に限っています。社員数増加と逆行するかのように、新入社員の3年以内退職率は下がり続け、ここ数年は5%以下で推移し、女性の産休取得率は100%、出産で退職した社員はゼロ。社員満足度の高さを示しているといえます。
 同社が経営目標に掲げてきたのは、「それぞれのお客さまの一番になる」ことや「地域活性化」です。そして後者には「社員を育てる」ことが含まれます。しかし、かつては長年、社員の定着に悩んでいました。専務取締役の清川卓二さんはこう語ります。
  「めっき屋はキツい・汚い・危険の3K仕事というイメージがあり、若い人が来ないし、入ってもすぐに辞めていました。そこで20年ほど前から、独自の方針管理手法を導入し、人材育成に力を入れてきました。その結果、徐々に離職率が下がり、現在の状況になったのです」。社員のやりがいを引き出すために、同社が試行錯誤の末にたどりついた現在の取り組みを紹介します。
社員の満足度は、日々の細やかな コミュニケーションで確かめる
 社員満足度を重視する同社ですが、社員アンケートは一切とっていません。「社員の満足度をアンケートでしか測れないのでは、経営陣や管理職は失格。日々のコミュニケーションを心掛け、自ら丁寧に見ていくことが大切です」と清川さんはいいます。

清川メッキ工業が手掛ける多彩なめっき加工技術の一部。スマートフォン用の高集積実装はんだ付けめっき(左)、難易度の高いチタンへの金・プラチナめっき技術(右)

社員による目標管理で人材育成

めっき加工企業として初めて、2002年に研究開発拠点も設立。
製造だけでなく、「めっき診断」も世界中から受注
 同社が人材育成の中心に据えるのが、「Iビジョン・キャンパス活動」です。これは、各部署の壁に設置した「Iビジョンボード」に、会社・部門・チーム・自己(個人)がそれぞれ策定した方針や計画を掲示するというもの。 「自己ビジョン」を見れば、各社員の目標だけでなく、その達成状況も一目で分かります。全員分を貼り出しているのは、周りと目標を共有し、いい意味でのプレッシャーを感じてもらうためです。その人の目標や達成状況を見て、周りの人はアドバイスやサポートもできます。年度の終わりにはIビジョンボードを基に、上司との面談を行い、自己評価を行います。Iビジョンボードがコミュニケーションツールの役割を果たしているのです。
 また、社員が自分で目標を立てて達成度合いを管理することで、自ら能動的に考え、行動する意識が育ち、仕事への満足感も得やすくなります。さらに、毎年Iビジョンの作成では、仕事のキャリアだけでなく、プライベートも含めて自身が目指すライフプランも記入します(公開・非公開は自由)。社員の人生の目標や成長を支援する会社の姿勢がうかがえます。
よさこいで社員コミュニティを強化

最初は踊りを恥ずかしがる社員がほとんど。練習するうちに「チームの恥」とならないよう息を合わせるようになり、本番では観客を楽しませ、感動させる「おもてなしの舞い」になるという
 地元で毎年夏に行われる「よさこい祭り」も、同社にとっては大切な教育の場です。対象は、新入社員と入社3年目までの社員で、他の2企業と共に参加し、合同チームを結成。2〜3カ月間にわたり練習し、8月の本番に臨みます。
 狙いの一つは、社内のコミュニケーションの活性化です。練習を始める5〜6月頃は、新入社員にとってストレスがたまり、気持ちが沈みがちになる時期。踊りの練習の中で年齢の近い先輩や同期とコミュニケーションをとることで、不安が解消され、相談しやすい同世代のコミュニティが形成されるといいます。
 リーダーは2年目社員が務め、後輩への気遣いやリーダーシップを育てる絶好の機会になります。また、他企業との合同チームなので、スケジュール調整力や文化の違いを越えたチームワークづくりの勉強にもなります。
  • 若者を中心に、仕事を通して「夢や希望をかなえたい」「達成感や生きがいを感じたい」「人とのつながりを強めたい」と考える人が増えているといわれる。「Iビジョン・キャンパス活動」やチーム活動で社員の成長と満足度向上を図る同社の取り組みは参考になる。
学んだら必ず人に教える 仕事は自ら分解して理解する
 先述の「Iビジョン・キャンパス活動」の「キャンパス」には、「働くこと自体が学びの場であり、成長するために働く」という意味が込められています。同社では、社員の業務管理でも学びを起点とする「SAPD」を活用しています。「自ら率先して学ぶ」、さらには「考えて、教えて、仕事の意味を考える」仕組みで、やりがいや達成感を持たせることに成功しています。
学んでから計画する「SAPD」
 「SAPD」とは、Study(学ぶ)、Action(試す)、Plan(計画を立てる)、Do(実行する)の頭文字。新技術を試す、新しい工程を作るなど、新たな取り組みをする際は、まず新しい知識を学ぶことから始まります。
  「外部のセミナーや講習など、自分の好きなものを申請でき、たいていのものは許可されます。そして、学んだことを必ず実践させる。実践すれば、失敗か成功かを経験するので、それに基づいて計画を立てるのです。一度結果が出ているので、ちょうどよいレベルの計画が立てられますし、実行した時にスピーディーに成果が得られます」。
 また、何かを教わったら、今度は自分が講師となって、学んだ内容を別の社員に教えなければならないというルール。「3人以上の社員に1時間以上の授業を行う」という細かい決まりまであります。「教えるために学びに行く、という考え方です。また、人に教えるためにはその周辺のことも大きく理解しなくてはいけないので、自然と多くを学ぶことになります」。
子ども向けめっき教室も学びの場

小学生向けめっき教室の様子
 同社では、入社10年未満の若手社員が講師となって、小学生に「めっきとは何か」を説明する「めっき教室」を年間数十回開催しています。「小学生にも分かるレベルで説明するのは、実は非常に難しい。しかも、あえてマニュアルを作っていないので、授業内容を毎回自分で考える必要があります。若手社員の重要な学びとなります」。
 さらに授業では、めっきの仕組みや科学的な面白さだけでなく、「働く喜びとはなにか」「仕事とは何か」を伝えるのが決まり。「子どもたちの前で語るために、無理にでもこれらについて真剣に考えなくてはなりません。なかなか大変ですよ(笑)」。普段はあまり意識することのない、働く意義を再確認することで、日々の仕事への動機付けにつながる効果が期待できるのです。
今のやり方を超えるためのマニュアル作り

写真付きで詳細に「分解」された仕事の記録「作業分解シート」
 同社では、既にルーティン化している仕事についても、プロセスを細分化した「作業分解シート」を社員たちが作成しています。中には、工程を2000ものポイントに細分化しているものも。若手社員は、これを作業前の確認、作業後の復習に活用しています。しかし、作成の目的は、作業を覚えることや標準化だけではありません。「真の狙いは、今を超える仕事の仕方を創造してもらうことです。仕事を変えるには、現状をよく理解しなければなりません。そのためにこのシートを使って自分の作業を分解し、改めて意味を考えてもらうのです。そこから創意を展開することで、より良い仕事が生まれます」。
  • 新しいことを学び、それが計画や評価、自分や他の人のスキルアップなど、前向きなアウトプットに結び付ける同社の仕組みは、社員の自発的な成長を促す上で有効。また「作業分解シート」のように、知的資産を記録して業務改革につなげる取り組みは、企業の競争力向上のためにも、今後増える熟練社員の退職への対応においても重要になる。
ルーティン型の仕事の中で モチベーションを高めるために
お話を伺った専務取締役の清川 卓二さん
 「毎日同じ場所、同じメンバーとものづくりを行う日々の中では、なかなか変化を感じにくく、モチベーションを高く保つのは難しい。しかしビジョンや目標が明確になっていれば、何かに挑戦しようという動機になります。一年を振り返ってみると、結果的にその人は大きく成長しているんです」と清川さん。さまざまな切り口で、目標に向かう活動を仕掛けるようにしています。

戦略的に「賞」の獲得にチャレンジ
 先述の「おもてなし経営企業選」のほか、同社は経営・技術・教育・品質の分野で数多くの賞を受賞してきました。最近では2017年12月、経済産業省の「地域未来牽引企業」に。今後、国から人的・金銭的なサポートを受けることができます。
 これらは、戦略的な取り組みの結果です。同社では2〜3年に一度、主に政府や自治体などが主催する賞の、特に1回目を狙って応募しています。こうした賞はその時々のトレンドに沿ったものであり、これに挑戦することで、社員は時代のニーズにマッチした先進的な取り組みをすることになるからです。「また、結果にかかわらず、応募して選考結果を見ることで、自社の強みや弱みが明確になります。そしてもちろん、受賞できれば、地元の新聞などに取り上げられてイメージが高まり、家族や地元にも喜ばれて社員の誇りになります」。

外的モチベーションより内的モチベーション
 同社では国家資格である「めっき技能検定」の資格取得を会社として支援し、取得者の名前を掲示してはいますが、資格手当などは出していません。にもかかわらず7割を超える社員が取得しています。
  「周りの多くの社員が取得すれば、『自分も取らなきゃ恥ずかしい』という気持ちになります。また、資格手当や報奨金といった外的な要素でモチベーションを高めても長続きしません。いつも目の前にニンジンがなければやる気が出ない人になってしまいます。本来は自分でやる気を奮い立たせ、積極的に挑戦する人になってほしいし、そういう姿勢を評価しています」。
  • 資格取得や目標達成に報奨金を出す例は多いが、社員の自発性や継続的な効果にはつながりにくい。金銭的な満足度とともに、仕事における達成感や名誉を得ることで得られるモチベーションに着目することも重要。
印刷業界の人材育成は?
 人材確保が難しくなる中、印刷業界でも自動化される工程も増えています。しかし、リピート印刷時や用途・業界に応じた色合わせ技術、美術分野などの高精細印刷、特殊材料への印刷、印刷機のトラブルへの対応といった技術・ノウハウは、今も人に頼る部分が多くを占めています。これらを持つ人材の育成や、人材流出を防ぐための評価制度の整備が重要です。そこには各部署の現場や人事担当者だけでなく、経営陣がかかわり、全社的な方針の下で一貫性を持って取り組むことが大切です。
 ある印刷会社では毎年、年間給与支給額の3%相当の金額を社員教育に充てています。改善活動も行い、毎月外部コンサルタントを招いてその効果を検証するなど、徹底して取り組んでいます。目標管理制度も導入。各部門の社員に求める能力を表したスキルマップを明示し、現状の力とのギャップを社員に把握してもらい、ギャップを補うための教育を年間計画で具体化して実行しています。これらの活動が、会社・工場見学に訪れたお客さまの満足度向上につながっています。
 また別の印刷会社では、就業時間の10%にあたる200時間を研修受講や自主勉強に充てることができ、外部のものを含め、本人が成長のために希望した研修はほぼ100%受けられるようにしています。ほかにも階層別(新入社員・若手・中堅・幹部など)の教育や、製本会社での製本作業の実地研修などを行っています。
 さらに、自分の特性の把握やコミュニケーション能力の開発のために、半日以上をかけたディスカッションで上司・同僚・部下から評価を受け、自己評価とのギャップをチェックするユニークな研修も行っています。

 
back
Copyright(c) FUJIFILM BUSINESS SUPPLY CO., LTD. All Rights Reserved.