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海外展開で市場を広げる!
 
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海外展開で市場を広げる!

2017/10
重光産業株式会社
熱意ある現地パートナーと熊本ラーメンを世界へ。

天池合繊株式会社
海外ブランドの評価を 足掛かりに生地も会社も進化

日本の印刷会社による海外展開のポイントとは

重光産業株式会社
熱意ある現地パートナーと 熊本ラーメンを世界へ。
最初の海外進出の失敗をヒントに、「変えるもの・変えないもの」を明確化

「味千ラーメン」中国店舗のサイドメニューの一例。鶏の手羽焼や鰻など、ラーメンと意外な組み合わせのものも
 熊本市の重光産業株式会社は、1968年に創業、豚骨ベースの熊本ラーメン「味千ラーメン」の店舗経営と製造販売などのほか、約100店のフランチャイズ店を率いています。1996年に中国に進出し、2011年には「中国ファストフード企業トップ50」に選ばれる人気に。サイドメニューなどの展開は各国本部に任せつつ、ラーメンは自社の味と品質を守る戦略で、シンガポールやオーストラリア、アメリカ、イタリアなど、海外店舗を700店近くにまで広げました。
  実は、現在の戦略には、最初の海外進出における失敗の教訓が生きています。1994年、創業者が台湾出身だったことから台湾に出店。しかし、パートナーとなった現地企業が、お客さまから「少し塩辛い」と意見があると塩度だけ薄くするなど、本来はスープや調味料など全体でバランスよく調整すべきところをバラバラに変えていったため、味のバランスが崩れ、味千ラーメンとはかけ離れてしまったのだそうです。「結局うまくいかずに約2年で撤退しました。海外では『日本らしさ』をある程度守り、個性や珍しさを残さなくてはいけないと分かりました」と話すのは、副社長の重光悦枝さんです。

お話を伺った代表取締役 副社長の重光 悦枝さん

  その後は、熊本県や国などが日本文化を発信する取り組みに協力し、百貨店が香港で開催した日本の物産展などに参加。あるとき、それがきっかけで香港の若い起業家が「香港で熊本ラーメンをやりたい」と訪ねてきました。「市場のリサーチもしっかりしていて、ビジョンも明確でした。何より、彼の『味千ラーメンの味を、リーズナブルな価格で香港の地元の人たちに楽しんでほしい』という思いに当時の社長が共感して、彼となら出店しようと決断したんです」(重光さん、以下同)。
  しかし、香港は店舗賃料が高い上、日本から材料を輸入するとラーメンの価格が目標より高くなることが判明。味と品質を守りつつ、価格を抑える方法に悩んでいたところ、香港で食品輸入をしているある女性社長が、日本企業を見学するツアーで同社を訪れ、新たに味千ラーメンをやりたいと申し出たのです。3者で話し合い、その女性が重光産業から設備を導入して麺の製造を、最初のパートナーが店の運営を、重光産業が味と品質の管理をする、という役割分担で、ビジョンどおりのビジネスを進められることになったのです。
 中国のほか、現在はタイ、アメリカにも重光産業がスープの工場を建設して直営。麺は各店舗が同社指定の設備を使い、自国の小麦粉で製造。主要店舗には日本から派遣されたスタッフが常駐し、スープの塩分や野菜の鮮度といった品質をチェックしています。
現地でパートナーと話し、街の変化も体感 本部への満足度の維持も常に意識

熊本市にある本社・工場。 各国のパートナーが集まる会議を定期的に開催
 2人のパートナーを得て、味千ラーメンは中国沿岸部を中心に次々出店。その後のアジアやアメリカへの出店でも、同社は熱意のある現地のパートナーが現れ、信頼関係ができてはじめて展開するようにしています。
 新拠点の立ち上げでは、「毎回、日本の店舗や製造のスタッフをそのまま派遣し、何カ月も入ってもらい、工場・店舗づくりの支援のほか、製造・接客についての研修をしています」。教育が日本と同レベルの内容なので、現地スタッフやサービスを受けるお客さまに好評で、その分、他社からの人材の引き抜きも多いといいます。海外では日本人ほど会社への帰属意識がなく、一時は半分以上が高い給与条件で他社に移ってしまうことも。「そこで、お皿洗いなどどんな職種からでも、実力をつければ誰でも幹部候補になれる制度にし、頑張れば上に上がれることを示すことで、定着率が高まっています」。

味千ラーメンのローマ空港店の様子。北京空港や上海万博などにも出店し、国際的な認知度を高めていきました

 サイドメニューや出店・広報戦略などは、「その国のことはその国の人が一番分かっている」と考え、パートナーが主導できるようにしているそうです。「ちなみに、こまめな相談・報告を受け、アドバイスもしますが、各国の食習慣や文化を理解し、よいメニューを作るのは大変です。中国でも北と南で全く違いますし、欧米もオリジナルメニューが満載です。一方で、ローカライズしすぎると個性がなくなるので、バランスが難しいです。『その国の国民にとっての日本らしさ』は壊さないように気をつけていますね」。
 また、歩合制のロイヤルティもとっておらず、出た利益は加盟店のものになる仕組みです。「あれこれ言われ、やらされ感があるよりも、自分たちの裁量で進められ、頑張った分がすべて返ってくる方がモチベーションが高まりますよね。このことがブランドの維持にもつながっていると思います」。

左が同社代表取締役社長の重光 克昭さん。香港のパートナーとともに
 重光さんは、海外展開で特に大切なのは、パートナーとの信頼関係づくりだといいます。「社長が毎月のように各国に行ってトップ会談を行い、密にコミュニケーションしています。定期的に足を運ぶのは、その地の文化や、情勢の変化を肌で感じるためにも重要です。最近はお客さまの好みの変化も激しくて、メニューもどんどん変わっています。今後もお客さまの新たなニーズに応えながら、パートナーとのよい出会いを基に、味千ラーメンの味を世界に広げていきたいです」。

  • 海外進出においては、現地の文化、風習を尊重しつつも、自社の強みの中で変えてはいけないものを明確にし、守ることが大切。日本の印刷会社の強みとしては、例えば、印刷品質(見当精度・色差など)の管理方法などが挙げられる。
  • 現地のパートナーと役割分担を明確化し、自社の負担を軽減しながら、ブランドや品質をうまく管理する同社の事例は参考になる。切れ目のないコミュニケーションは、現地の状況の変化の把握や、何か起きた際に早めに対策を取るためにも重要。
天池合繊株式会社
海外ブランドの評価を足掛かりに生地も会社も進化
背水の陣で出た海外展示会が大きな転機に
「天女の羽衣」を舞台衣装に使ったパリ・オペラ座の公演ポスター
 石川県七尾市の天池合繊株式会社は、1956年に服飾用の織物メーカーとして創業した従業員約40人の会社です。中国などの安価な製品に押されて国内の生地メーカー数がピーク時の約2割に減っていた2004年、原糸メーカーから、極細の糸を使ってプラズマディスプレイの電磁波シールド用に「世界一薄い生地」作りを依頼されます。細さは髪の毛の約5分の1、織るのが非常に困難な7デニールというクモの糸のような糸で、見事同社は生地を織ることに成功しました。
 しかし、突如そのメーカーが倒産し、売却されたことで、この市場への販売が不可能に。同社はその設備投資の負担から、倒産の危機に陥ります。そこで社長の天池源受さんは、「この世界一薄い生地をファッション用に訴求しよう」と決意。もう後がないというときに出たある展示会がきっかけで、その生地が欧州の世界的なハイブランドのオートクチュール(1点ものの高級注文服)にも採用され、現在も国内外から高い評価を集めています。
 始まりは、大手原糸メーカーや産元商社の依頼どおりの生地を作るのが専門の中小生地メーカーとして、従来にない挑戦を行ったことでした。織り職人たちで構成された同社は、営業経験が皆無だったにも関わらず、「百貨店やアパレル企業など、全く接点のなかった会社に売り込んで回りました。業界を知らず、最初は話が全くかみ合わなかったです(笑)。デザイナーさんにお願いして展示会用に洋服などの最終製品まで作り、生地・製品・インテリアなど、あらゆる展示会に出ました」(天池さん、以下同)。
 そうした中で2006年、「世界一薄い生地」がJETRO(日本貿易振興機構)の目にとまり、日本企業12社が出展し、ミラノで技術や商品を紹介する展示会に招待されます。「来場したバイヤーは2日間でわずか6社で、交換した名刺は6枚。これではイタリアまで来た経費がムダにならないか不安でした」と言う天池さん。しかし、そのすべてから生地サンプルを求める連絡があり、その中にイタリアの世界的な名門ブランドなどが含まれていたのです。

同社は、ハイファッションの世界でも限られた会社しか出展できない見本市「プルミエール・ヴィジョン・パリ」に毎年招待されて出展
 後日、イタリアのトップブランドのコレクションで中量オーダーが決定。「その後、そこのバイヤーから次のシーズンには、『同じものは使わないので、必ず新しい提案をしてください』と言われました。そこで、『世界一の薄さ』は変えずに、柄や加工などを少しでも工夫して変えた生地を持って行くと、大変喜ばれ、そこから信頼関係ができました。毎シーズン、新しいサンプルを持って現地へ行き、提案することで量産にもつながり、現在では得意先となっています。彼らは他と差別化すべく常に新しいものを求めているので、下請けの職人を大切にし、素材の特徴や技術などあらゆる話を真剣に聞いてきます。価値ある技術を皆で守ろうとする風土など、学ぶことが多いです」と天池さんは言います。
 また、特に欧州で営業をする際、日本人というだけでアポイントに応じてくれる場合が多いそうです。「この業界に限らず、日本のものづくりへの信頼と期待が大きいのでしょう。『日本』というブランドの力をいつも感じます」。
 一方で、その後は新しいものを創り続けるプレッシャーが常にあるそうです。デザイン担当の新卒社員も参加させ、新作のプリント柄も開発、製造も含めた従業員の皆で最終製品のアイデアも出しています。自分たちの企画が形になるため、仕事に向かう従業員の目の色が変わってきたそうです。

世界一薄い生地「天女の羽衣」を使ったスカーフやストール。柄や加工が多様な生地の型番は2,000以上に。この蓄積が新しい生地の開発にも大いに役立っているそうです

「ブランド」を持ってものづくりが変わった
 同社の「世界一薄い生地」は日本名では「天女の羽衣」、英語名では「Super Organza」と名付けられ、パリ・コレクションやミラノ・コレクションなどに採用、毎年、パリ・オペラ座の衣装にも使用されています。この状況を知った国内の大手百貨店が、「日本の高い技術を守る」という理念の下、国内のアパレル企業などに採用を呼び掛け、「天女の羽衣」のブランド名を掲げて販売したことから、消費者への知名度も一気にアップ。1万円以上のスカーフから、伝統工芸とコラボした10万円以上の高級スカーフまで、国内の取引も急増しました。「自社ブランドを持つことの大切さを実感しましたね」。

代表取締役社長の天池 源受さん。「今後は、国内外の若い人向けに、気軽に買えるアクセサリーや髪飾りなども開発していきたい」。今も生地の開発依頼は絶えずあり、海外ファッションブランドはもちろん、産業用のハイテク生地なども手掛けています
 また天池さんは、「市場の今を知るため、自社の生地の良さを発信するためにも、ただものづくりをするだけではなく、消費者や小売店などとの信頼関係づくりが大切」と考えるようになりました。研究を重ね、織りの後の染色工程を取り込んだのを皮切りに、お客さまの声を聞いてさらに要望に応えるために縫製、加工の設備も導入。スカーフやドレスなどの最終製品作りも手掛けるようになりました。さらに、2017年には試験的に、ニューヨークやパリで日本の書店などが営む日本文化のアンテナショップの中でも製品を販売しています。ブランドへの信頼に応えるべく、従業員たちは、「どんなものが喜ばれるのか」「どのチャネルで売れば響くのか」などを真剣に考え、ものづくりをしています。
 最後に、天池さんにとっての海外進出のポイントを伺いました。「JETROや経済産業省、県、自治体などとの相談は心強く、ぜひ活用してほしいです。英語も話せない私ですが、通訳も紹介いただき、そこは何とかなりました。大切なのは自分の技術の良さを伝える、相手の要望に応えようとする姿勢を持って、お客さまと信頼関係を作ることです。また特に海外では、相手が何に喜ぶかは、こちらも技術を見せていかないと分からないなと思います。まずは自分からの発信が大切だと思います」。

本社および工場は金沢から電車で約1時間、田園が広がるのどかな場所に。その技術力を頼って東京や海外から頻繁に人が訪れます

  • 常識にとらわれず新たなお客さまと接点を持つことで、知らなかったニーズに出会うチャンスが増える。海外のお客さまのニーズもその一つ。自社の製品や技術を発信、お客さまの反応を直接見られる展示会への継続的な出展は有効。
  • ブランド力の高いユーザーへの採用は、自社の価値を高め、対応力の向上につながりやすい。同社のように海外からの評価が国内での評価につながることもある。
日本の印刷会社による海外展開のポイントとは
 日本の印刷会社は、製造設備や人材教育が充実しているほか、海外と比べ設備メンテナンスの実施度合いが高い、色調管理や製版技術の品質基準が高いなどの特徴があります。トータルでの印刷品質の高さは世界的に定評があり、現地企業との差別化が期待できます。
 最近では、大手ばかりでなく地方の中小印刷会社が海外へ進出する例も増えています。
1.日系企業の海外進出に追随
 日系企業の海外進出に合わせ、アジアの複数拠点に工場を作った印刷会社では、日系企業の化粧品パッケージや家電製品の説明書、店頭広告用の印刷物を受注しています。現地ではあまり見られない、企画・デザインからプリプレス、印刷、製本・後加工、梱包、発送までの一貫生産体制を構築。加えて、最新鋭の生産設備を導入して品質・納期・コストの競争力を高め、現地企業と差別化しています。
 また、当初は日系企業からの受注を中心としていた印刷会社が、現地人材の採用を強化し、現地企業の印刷物の受注に成功している例も出てきています。
2.独自の大量ロット対応体制で国内生産し、海外へ納品
 カタログや出版物はオフセットで印刷されることが 多い中、ある印刷会社では、あえてグラビア印刷を用い、これらの大量ロット印刷に対応しています。この点が色にこだわる欧州の大手家具メーカーに評価され、カタログ印刷を受注。日本国内で生産し、このメーカーのアジア太平洋地域の各拠点に輸出しています。
●企業の海外展開を支援する公的機関
 主にJETRO(日本貿易振興機構)や中小企業庁、商工会議所が助けとなります。JETROは海外展示会・商談会への出展の支援(JETROブースへの出展)のほか、海外コーディネーターによる無料の輸出支援相談などを実施。中小企業庁は、世界に通用するブランド力の確立を目指す企業の取り組みに対し、経費の一部を補助金として支援する「JAPANブランド育成支援事業」を進めています。
 自社の技術がどんなお客さまに喜ばれるかは、自社だけでは分からない場合も多いかもしれません。自社の技術が海外で活用できないか、少しでもイメージしておき、ある程度まとまったら、JETROや商工会議所などの無料相談を活用することが考えられます。海外からの来訪者が期待できる国内展示会に出展し、手応えがあればJETRO等に協力を仰ぎつつ、海外展示会への出展を試してみてはいかがでしょうか。

 
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