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シニアの需要をつかまえよう
 
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シニアの需要をつかまえよう

2017/04
湘南くらしのUD商品研究室
アクティブシニア自身の目で、使いやすいUD商品を提案!

■コラム
業界範囲外のシニアの困り事にも徹底対応
「高くても買いたい!」電気店
株式会社ヤマグチ

  ●シニアに「お隣さんに助けられる安心」を
  ●シニアの細やかなセグメントで効果的に対応
  ●印刷会社のシニア市場への挑戦は

湘南くらしのUD商品研究室
アクティブシニア自身の目で、使いやすいUD商品を提案!
 「人と環境に優しいユニバーサルデザイン(UD)」を研究・開発・普及する一般社団法人湘南くらしのUD商品研究室(SUDI・今井啓子室長)の皆さん。メンバー自身がさまざまな経験や技術を生かして社会と関わる「アクティブシニア」であり、その視点でUDのPR活動やUD商品の企画、大手小売やメーカーなどに向けた商品開発のコンサルティング、新聞などでシニアマーケティングのコラム執筆などを行い、その活動が注目されています。そんなSUDIの皆さんが考える、商品企画で陥りやすい間違いやシニアの心をつかむ商品についてのポイントを聞きました。
シニアは十人十色。「思いやり」もセグメントを分けて展開
 SUDIが提唱しているのは、「不安を安心に変え、諦めを希望に変える、“オヤノタメ商品”」。“オヤノタメ”とは、自分の親のためになるものであり、さらには世のため、人のため、将来の自分のためでもあり、ヒットする商品に共通して感じられるのは、「思いやり」の心だといいます。
 「思いやり」の心を持つためには、その相手となる具体的な対象がいなくてはいけませんが、「企業の商品企画者の中心は30代などの若い世代で、シニア自身が加わっていることが少なく、シニアの声の収集やニーズの理解が不足しているケースも多いようです」とSUD Iの塩崎世志子さん。加齢により求められる新たな使い勝手がさまざま存在するにもかかわらず、それらを具体的につかむことなく画一的なシニア像に基づいた企画になってしまい、実際のニーズに応えきれない商品・サービスになりがちだといいます。
  「一口にシニアといってもライフスタイルはさまざま。現在は趣味・嗜好が多様ですし、社会と積極的に関わるかどうか、働いているか、孫がいる・いない、介護をする人・される人など、生活環境や価値観、健康状態も多様です。そのため、かつてのシニアよりもニーズがずっと多様化しています」と語るのは、UD生活道具研究を担当する鈴木弘恵さんです。体や生活の不自由さが増える点は前提としつつ、ライフスタイルや趣味・嗜好を具体的にイメージしてセグメント化し、それに合った提案をすることが大切です。
 シニアをセグメント化し、ニーズをよくとらえた例として、早くからシニア向け企画に注力してきたある旅行会社の事例が挙げられます、音楽・美術・写真など趣味をテーマにした旅や、「おひとりさま」限定の旅、世界の秘境やスポーツ・アクティビティを楽しめる旅など、ニーズに細やかに応えたテーマのツアーを数多く企画。介護資格を持ちお客さまの介助を行う「トラベルヘルパー」の同行などで本人や家族の安心・安全も確保し、好評を博しています。
 ファッションジャーナリストの柳原美紗子さんは、「年を取ると、普遍的な価値があって、流行に左右されないものを好む人が増えます。特に今は『シニア』とくくられたり、年齢で区切られたりすると嫌がられる場合が多いですし、社会への感度が高いシニアも増えていますね。そのため、シニアに売れる商品には、今後ますます、シニアに限らず幅広い年代、健康状態の方に使いやすいUDの視点が不可欠になっていきます。そうしてシニアに喜ばれるものができれば、多くの年代に売れるロングセラー商品になる可能性がありますよ」と言います。
 シニア向けというと、カラーやデザインが「いかにも高齢者向け」なものになりがちでした。しかし、SUDIがある通販会社と共同開発したトラベルコートは、若い世代にも似合うおしゃれなデザイン、きれいなカラーで、シニア層に評判だったといいます。実は、ひじや肩の動きが不自由になっても着やすいよう、アームホールが通常よりも大きくなっており、ひじを曲げたままでもスムーズに脱ぎ着できる設計で、まさにUDになっています。リフレクター付きで、夜間も安心です。

お話を伺った一般社団法人湘南くらしのUD商品研究室の皆さん。前列左から、柳原 美紗子さん、鈴木 弘恵さん、後列左から、島田 ひとみさん、塩崎 世志子さん、宮園 真理さん、若松 暁子さん
親や自分が使ってうれしいものは?
 「シニアのためのものづくりなら、まずは、自分の親のためになるもの、親が喜ぶものを、と設定すると考えやすくなります。自分の親を観察したり、悩みを聞いたりすることから始めてみては」と話すのは、元広告会社プランナーの宮園真理さん。一見当たり前のようですが、先述のように、ともすれば想像だけで設定しがちなシニアのニーズを、リアルにとらえるために有効です。
 例えば、高齢になると増える転倒事故時の骨折を防ぐため、ヒップの部分に衝撃を吸収するパッドなどが入ったパンツタイプのプロテクターが長年ヒットしています。特に寝たきりの原因となる大腿骨頸部骨折を予防するヒッププロテクターをいち早く開発・販売したのがSUD Iです。メンバーの一人が近しい高齢者の骨折を経験、それが本人や家族の生活に与えるダメージの大きさを知っていたそうです。
 また、ある大手セキュリティ会社の高齢者向け自宅見守りサービスは、シニアが非常時に呼び出すとすぐ駆け付けるのに加え、電話による健康相談や買い物代行、家事などを支援するといった日常のサービスもセットにして、好調に契約数を伸ばしています。家族や近所の人の代わりになるような安心・安全を提供し、日々を楽しく前向きに暮らすための応援になっていることが、功を奏しているといえます。
 若松暁子さんは、「親が喜ぶものは、将来年をとった自分が使いたい商品であると考えます」と言います。
 「団塊世代など、趣味や学びに意欲的なシニアが増えており、その気持ちを応援すべく、シニアへの間口を広げたことで、ヒットしているものが多くあります」と教えてくれたのは、島田ひとみさん。ある大手スポーツジムは、一般的なジムと変わらないスタイリッシュな見た目の介護予防専門のジムを運営。デイサービスなど「老人」をイメージするところには行きたくないというシニアにも好評で、楽しく通い続けるうちに筋力がアップして、要介護度が「要支援」から「非該当(自立)」になったケースもあるそうです。また、ここ20年ほど、本格的な楽器レッスンに音楽を生かした健康エクササイズも合わせた「大人の音楽教室」や、大学のオープンカレッジがシニアに人気だそう。これらは、シニアの友達作りやコミュニティー作りにも役立っています。
 今若い世代で、趣味や新しい経験への意欲を持つ方なら、将来もアクティブに人生を楽しむ自分を想像し、こうしたシニア企画を立てると楽しいのではないでしょうか。
印刷物はシニアの消費欲を引き出しやすい
 さまざまな経験を重ね、本質を見る目を持つシニアに対し、商品を訴求するときのポイントについても教えていただきました。「シニアの“リアリティ”に訴求するのが大事。アラカン(60代前後のシニア)などは、ネットやデジタル機器を上手に活用している方がかなりいらっしゃいます。iPadなどUDのインターフェイスを持つ機器が増えていることも大きいですね」と塩崎さん。そうしたシニアの暮らしの中からニーズを探り、欲しい情報をデジタルを活用して発信することが、新たなビジネスチャンスを広げそうです。
 柳原さんは、「シニアは、どんな人がどんなふうに作っているかといった、立体的な物語のある商品に引かれ、物語のリアルさや商品を通した人とのつながり、商品が持つ“本物感”などを求めます。そういう意味では、ストーリーを読みやすく、手に取れて人にも見せて共感を広げられる印刷物のポテンシャルはこれからも高く、印刷物での訴求をしないとチャンスロスになります」と語ってくれました。
 また、鈴木さんは朝日新聞のコラムで、UDの視点からシニアに勧めたい商品を紹介し、新商品だけでなく、従来ある商品を取り上げ、これまで訴求されてこなかった魅力を捉え直して伝えています。すると、その商品がシニアの評判を集めて、新たに大きなヒットとなったことが何度もあり、時には品薄状態になることも。「取り上げる商品には、スペックの高さや多機能なものではなく、シンプルな中にちょっとした思いやりや工夫が感じられるものを選んでいます。シニアに対しては特に、使い手の言葉、消費者の言葉で伝えることが重要です。といっても、決して大きなことではなく、使いやすさを実現したちょっとしたアイデアや気付きをきちんと伝えることです。掃除機なら、『吸引力がこれだけある』というより、『軽くて2階にもラクに運べる』をうたったほうがシニアには受けます」。どの部分を語るかの選択もポイントといえそうです。
 「シニアには使いやすさって本当に重要ですよ。印刷物では、例えば血圧を記録するノートがたくさん配布されていますが、紙の滑りが良かったり、記入欄が十分大きい、簡単なグラフ化で長期的な血圧の変化が見られるなどで、断然使いたくなります。楽しい気分を応援することも大切で、エンディングノートもいいですが、もっと前向きに100歳までにしたいことの計画を立てるノートなんかあったらいいなと思います」(鈴木さん)。
 SUDIの皆さんは、企業へのコンサルティングを行う際、実際にその会社の商品・サービスを体験し、消費者の視点で意見や提案をしています。今後の活動では、このようにシニアのリアルな声を取り入れながら、多様なシニア像の中から、商品を訴求したい相手をできるだけ明確にし、それぞれのニーズをUD視点の工夫とともにカタチにすること、その工夫をきちんと伝え、広めていきたいそうです。
←シニア向け商品を企画するためのポイントについて詳しくは、SUDIの皆さんが2012年に出版した『オヤノタメ商品 ヒットの法則』(今井啓子+SUDI著、集英社)でも鋭い考察とともに紹介されています!

■コラム
業界範囲外のシニアの困り事にも徹底対応
「高くても買いたい!」電気店
株式会社ヤマグチ
 創業50年余の「でんかのヤマグチ」は、町田市に密着したいわゆる「町の電気屋さん」。しかし、大手家電量販店に囲まれた立地で、「大型テレビなら量販店より数万円高い」といった価格設定にもかかわらず、21年間連続で黒字経営を続けている異色のお店です。
●シニアに「お隣さんに助けられる安心」を
 21年前、量販店に対抗する方法として同社が選んだのは、驚きの「高売り戦略」でした。それは、「価格を下げても量販店にかなわず淘汰される」と、数値目標を売り上げではなく粗利額で考え、粗利を高めるために商品価格を高く設定するというもの。そのために、付加価値の訴求がしやすいシニア層を中心に、お客さまの困り事の解決に対応すべく家を訪問し、通常の電気店では考えられないような細やかな「御用聞き」を実践しているのです。
 「高い商品を喜んで買っていただくためには、あらゆる要望に徹底的に応えなくてはなりません」と、同社の山口勉社長は言います。部屋の模様替えの手伝いやペットの散歩、宅配便の預かり、街を歩くお客さまを営業車で拾って送るといった「裏サービス」を、全て無料で行っています。ほかにも、商品が短期間に複数回故障した場合などは、同店が修理代金を負担するか、新品を提供するなど、商品保証も徹底。電球1つでもその日に無料で配達・取り付けを行ったり、商品の購入前検討のためや購入後に、使い方の説明を求められて何度もお客さまの家を訪れたりします。
  「社員には小さなことほどすぐとんでいくよう教え、お客さまが何でも言えて、ピンチの時には安心してサポートしてもらえる、お隣さんのような関係作りを重ねています。その中でお一人おひとりを知り、本当のニーズを知るんです。お客さまが雑談のために店を訪れ、無料のコーヒーだけ飲んで帰ることもしばしばです。ただし、こうしたサービスは地域への貢献として行うことが大切です。すぐにお客さまに買っていただくことに結び付けようとすれば、薄っぺらな対応になり、特にシニアのお客さまにはすぐ見破られますね」(山口社長、以下同)。
●シニアの細やかなセグメントで効果的に対応
 同社の「御用聞き」に欠かせないのが、一定額以上の購入歴があるお客さまの情報をまとめた「お客さまカード」。所有する電化製品の一覧のほか、家族構成や趣味、日頃の対話や訪問時に気付いたことなど、多彩な情報が書かれています。このカードで営業担当者はお客さまやその家族が欲しいもの、足りなくなるものが分かり、「かゆいところに手が届くのではなく、かゆくなる前に提案する」営業が可能になります。
 また、購入頻度や累積金額でセグメント化し、それぞれの層に合ったきめ細かい

新鮮な野菜や果物がとても安いと評判で、幅広い世代が買いに来ます
サービスと努力目標を設定しています。社員の評価など、全ては売った商品の粗利額で決まる同社では、社員は粗利率の高い商品を買ってもらうために、時に別の商品をプレゼントするなどの裁量を持ち、効果的な施策が打てます。
 またお店では、お得意様施策とは別の、お店のブランド認知や地域貢献のための施策も実施。 野菜や果物、地方の名産品、生活便利グッズなどを販売し、こちらは儲けがほとんど出ない価格にしています。ほかにも無料の落語会やマグロの解体ショー、さんま無料食べ放題、新年の現金つかみ取りなど、週末は家族で楽しめるイベントを開催しています。「家電はネットや量販店で買う若い世代も、これらだけを目当てに来てくれますが、それでいいのです。地域全体に愛されることで、シニアのお客さまに一層認められ、若い世代を将来のお客さまへと育てるのです」。

経験豊富なシニアに認められるためには、サービスの徹底がポイント。同社のビジネスが短期的な売り上げアップではなく、継続的な高利益体質の強化、シニアを中心とした家族や地域全体の安心・安全につながっていることも成功の要因といえそうです。
●印刷会社のシニア市場への挑戦は
 今回分かったシニア向けビジネスの成功のポイントとしては、消費意欲のあるアクティブシニアのリアルな声の聞き取りや、細やかなセグメント化、「シニアに限らずどの世代にも喜ばれる」をデザインで実現するUDの視点、シニアを取り巻く地域社会への貢献などがありました。
 印刷業界ではシニア向けの日記やノートの開発、自分史・大活字本の印刷などを行ってきました。今後は可読性の良さ、手ざわりや使い勝手の良さなど印刷物の品質を高める努力や、毎日使いたくなるようなおしゃれさとUDを兼ね備えた趣味用手帳など、人生の楽しさを引き出す商品づくりのほか、商品のUDへの工夫を分かりやすく伝える表現の提案も重要といえそうです。例えば、自分史の自費出版サービスを行うある印刷会社では、定期的に自分史制作のセミナーを開催し、満足度の高い自分史づくりを支援してシニアの評価を得ています。また別の印刷会社では、さまざまな上質用紙や色、デザインなどが選べるこだわりの名刺・レター用品の専門店を開設。万年筆店のような高級感のある店舗で、書き心地や手触りなども実際に確かめられるサンプルも多数展示、選ぶ楽しさを演出し、シニアを中心としたユーザーの支持を受けています。
 いずれも手間やコストはかかりますが、シニアには、「でんかのヤマグチ」の例のように、本当に良いと思えば金額が高くても納得して購入する傾向にあります。口コミ力も強いといわれ、ヒット商品を生みやすいといわれます。また、一度評価したものを心変わりせず支持し続けてくれる傾向もあり、投資に見合った収益を獲得しやすく、本気で取り組む価値があるといえるのではないでしょうか。
 
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