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品質と生産性を両立させる
 
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品質と生産性を両立させる

2016/10
株式会社山田製作所 倒産危機の乱雑な工場から、生産性2倍の「日本一きれい」な工場へ。
  ●前社長やベテラン社員が反発した改革
  ●徹底して続けたら社員が変わった!
  ●一番の狙いは「会社の現状を全員で共有」
  ●遠回りに見える品質向上活動が生産性向上に!

株式会社山田製作所
倒産危機の乱雑な工場から、生産性2倍の「日本一きれい」な工場へ。
前社長やベテラン社員が反発した改革
 大阪府大東市にある山田製作所は、プレス加工・板金などを行う、社員20人ほどの町工場です。1959年に創業後、ステンレスや鉄、アルミ素材の精密部品から大きな製造装置まで、多能工の社員が何でも作り、業績を維持してきました。ところが1999年1月、バブル崩壊の影響で月商が従来の95%もダウンする事態に。94年に入社、社長である父の下で専務を務めていた現社長の山田茂さんは、倒産の強烈な危機感に襲われます。「飛び込み営業もしたものの、会社のセールスポイントが言えず、ショックでした」(山田社長、以下同)。そこでわらをもつかむ気持ちで、大阪府の関連団体が主催したセミナーに参加、そこで紹介された成功企業事例に触発され、すぐに3S(整理・整頓・清掃)活動を始めます。
 しかし、当時の山田製作所は、「装置や物が乱雑に置かれ、汚れや土で床が見えないほど。ものづくりも社員がそれぞれのやり方で行っていました」。山田さんは、朝礼もしたことがない職場で、毎朝始業後30分間を全員での3S活動に当てようと宣言すると、ベテラン社員を中心に戸惑いや反発の空気が広がりました。
 中でも「整理」のため、6カ月以上不使用のものは徹底的に廃棄すると、社長と大喧嘩に。「父が創業時苦労して手に入れた工作装置も、思い入れの強さを知りながら苦渋の思いで捨てたんです。上が徹底してやらなければ、社員がやるはずがないからです。当時の父には、朝の活動も『稼げる30分に掃除なんかするとは、金を捨てることだ!』という感覚。顔も見たくないと言われました」。
徹底して続けたら社員が変わった!

年に2度行っている「床塗装」。今では社員の手際がよくなり、150坪ほどの工場も5時間ほどでピカピカに
 「整頓」では、消耗品や材料の在庫数を定め、ごく最少に。保管は、「定位置・定量・定方向・表示(物の名前と個別番号を表示)・標識(物を置く場所に、その物の表示と同じ名前・番号を付ける)」を厳守しました。
 これらを徹底して10カ月続けたところ、「それまでは工具を何時間も探すこともありましたが、60秒で出せるように。金属材料は在庫の山から複数人で取り出し、作業後片付けるのに計30分かけていたものが、今は作る分しか置かないので、出し入れ時間はほぼゼロ。明らかに生産性が上がりました」。
 現場社員たちはその効果を実感。率先して3Sを進めるようになり、その年になんと工場を1カ月止め、天井から床まで塗装を自分たちで塗り替える「工場丸洗い」も敢行しました。「自分たちで会社を変えたことがうれしかったんですね。何度も父とぶつかる私を見て本気度が伝わったことも、変わってくれた要因かもしれません。今では前社長も私の一番の理解者です」と山田社長は語ります。

そのとき必要な装置や道具以外は出さず、すっきりとした作業場。台や設備には大小問わず全てキャスターがついていて、レイアウト変更や掃除が簡単にできます

消耗品の在庫は常に最小限。最小数・最大数・発注数が保管場所に書いてあり、最小数になると、発注書が現れます。送り先、書き方などが一目で分かる発注書なので、発注数を書き、サプライヤーにFAXするだけ。新入社員でも対応できます
一番の狙いは「会社の現状を全員で共有」
 同社では、目立った設備投資をせずに、8年後には生産性が2倍以上に伸び、現場の就業時間が減ったにもかかわらず、利益は以前の最高額を超えました。現在は、品質管理力や正確な納期、高い生産性による低コストで定評を得ています。また、工場見学を積極的に推進。「当社がしたことの95%は尊敬する企業の真似。当社も少しでも役立てば」という思いからです。年間の見学企業は200〜300社、世界52カ国から来訪を受け、「日本一きれいな工場」と言われるほどになりました。
 同社工場の整然としたレイアウト、社員の効率的な動きに感銘を受けて仕事を頼むお客さまも多く、新規顧客の獲得や既存顧客の満足度アップにつながっています。
 しかし、その競争力を支えるのは、今では単なる「モノの3S」ではありません。毎朝の3S活動は10分に短縮、代わりに情報共有の朝礼を30分実施。一番の狙いだった「情報の3S」を進め、会社で起きていることと課題を全員が共有し、社員が会社のルールを決める「経営の主体」となったことです。具体策を囲みでご紹介します。

保管場所には、モノと同じ名前と識別番号、形の姿絵があり、すぐに定位置・定方向に戻せる

社員が主体者になる! 山田製作所の情報共有
1.全ての経理情報を社員に分かるまで解説
 同社では、役員報酬、接待・交際費など、社員の報酬を除いた年間・毎月の決算結果を全て社員に公開。月に1回、全員が参加する「YMS(ヤマダマネジメント)会議」で、月決算を発表、対前年比などを経営陣が説明します。「こうした数字には不慣れな社員がほとんどでしたが、会社の現状を知り、経営を自分ごとにしてもらいたくて始めました」。全員が月替わりで必ず質問担当になり、数字に対する質問、用語の意味や時事ニュースへの素朴な疑問なども口にします。「中でも、社員がどれだけ付加価値を生んだかが分かる粗利率については、丁寧に解説します。これを始めて、自分たちの成果として数字を意識してくれるようになり、仕事の工数目標、効率化について自ら考えてくれるようになりました」。

2.30分の朝礼で進捗・課題・対策を明確に
 同社には、全ての案件ごとの進捗と現場一人ひとりの進捗を、全員が把握・共有できる、独自開発の「工程管理ボード」があります。これを見ながら行う毎朝30分の朝礼が、「P(計画)・D(実行)・C(評価)・A(改善)を毎日回すための大事な時間」です。計画どおりの進捗か、そうでなければなぜか、残業・外注・他の社員のフォローなど何で解決するのかなど、課題・対策を共有します。朝、全員のやるべきことが明確になれば、その日の作業に集中できます。
 また、同社では毎回作る製品が変わるので、「生産前会議」にも時間をかけます。事前にチームで最適な手順を議論し、困難な箇所・問題の起きそうな箇所の対策を練ることでトラブルを防ぎ、品質を確保します。

3.経営計画、職場ルールも全員で決める
 「方針策定会議」は、年に1度、1月に1泊2日で開催。経営陣が前年の決算結果を解説、その年の経理計画を発表するのを受けて、全員が議論して3カ年の経営方針とその年の経営計画を決めます。さらに、社員がチームを組んで「情報の共有化」などのプロジェクトを作り、12カ月の行動計画を決定。これらの進捗・繰り越し課題は、毎月のYMS会議で検証、行動改善につなげます。
 また、3S開始当初は経営陣が職場のルールを決めていましたが、現在は、社員が事あるごとに、「ここをこうしたら?」と提案し、皆で決定しています。例えば、現場が持つべき技術を定めた「スキルマップ」について、現在271ある項目内容も社員が定めています。

4.お客さまに好評!「加工進捗お知らせサービス」
 個々のお客さまのみが見られるウェブサイトに、作業中の現場の進捗と納品予定を現場写真付きで3日ごとに発信するもので、納品後も履歴が残ります。「お客さまからは、納品までの状況が分かってとても安心だと好評です。もしお客さまの想定と違うものを作ってしまった場合も、早く気づいて修正できます。また、お客さまに生産現場の今を見ていただけることは、社員の品質意識の高まりや自信にもつながりますね」。

5.現場が作る作業標準書で作業方法を統一
 同社では全員があらゆる工程をこなす多能工。学校を卒業したての人からベテランまでが、OJTをしながら一緒に仕事をします。以前は、前社長がその都度、作業概要を各社員に指示していましたが、作業する人の思い込みが入り、順番や仕上がりのバラツキや失敗が出ていました。現在は、誰もが同じやり方と品質を実現できるよう、若手の現場社員が中心になって、詳細な「作業標準書」をデジタルデータで作成、全員がすぐ見られるようにしています。「標準書は教わる人ではなく、教える人のためにあると考えています。A先輩とB先輩のやり方が違うことはよくあるけれど、それを一つにしたい。標準書に書かれた全てを完璧に伝えなくても、意識しながら教えるだけで効果があります。もちろん日々方法は改良しますが、必ずYMS会議で公開して変えます」。
 また、給与につながる社員の評価項目と評価のウエイトを数値で示した「成長シート」を公開。社員は自分の評価も各項目の数値で把握でき、「どこを向上すればいいか」を自ら考えることができます。
遠回りに見える品質向上活動が生産性向上に!

株式会社山田製作所 代表取締役社長 山田 茂さん。「お客さまに信頼されるために必要なことは、全て品質向上活動だと思っています。そして活動を進めるには、社員からの信頼が不可欠。だから会社の情報を社員に偽ることなく見せています。全員が主体者という、本当の意味で『全社一丸』の会社をつくりたいですね」と山田社長は語ります
 同社が重視するのは、「全員が主体者になること」です。「主体者とは自分で目標を決められる人。目標を立てるには、目指す方向と具体的な数字がないと難しく、何を頑張ればよいか分かりません。そのため、『誰でもいつでも今の情報を共有できる』ようにしたいんです。方向性を示す経営理念についても、日々事あるごとに皆で話しています」。
 「3S活動」や「情報共有」は、ともすると業務の合間にするものと捉えられがちですが、同社ではこれらを重要業務と位置付け、社長も含め全員が例外なく時間をとって行っています。その時間を生産に当てたほうが、生産性が上がりそうですが、実際にはこれらの取り組みで、迷わず、間違えず、素早く作業できる環境を維持でき、結果的に生産性向上に結び付いています。
 その根底には、「部分的・瞬間的な能率は二の次、全体や長いスパンでの効率を上げよう」という同社の考え方があります。毎日の3S活動や情報共有、経営理念の浸透により、目標や成果が明確で働きやすい「環境づくり」と、高い主体性とモチベーションを持つ「人づくり」を進め、品質と生産性の向上を両立する同社の取り組みは、同じく多能工化が求められる印刷業界でも大いに参考になりそうです。

企業理念を基にした「経営方針」「年度スローガン」も社員全員が議論して決定。また、経営陣が入らず社員のみで決めた「理想の社員(仲間)像」も掲げられています
●印刷会社の「品質と生産性の両立」とは?
 「作業の標準化」は、印刷会社で求められる多能工化に欠かせないものです。しかし、それに必要な「作業内容・スキルの定義」を行い、現状に合わせ更新することや、「作業標準マニュアル」の作成は、なかなか難しく感じられるかもしれません。しかし、山田製作所のようにマニュアル作りを重要な業務と位置付け、生産現場の従業員に日頃からの作成、更新を任せ、それをデジタルデータで共有することは有効ではないでしょうか。ある印刷会社では、標準化マニュアル作りを進めたことで、生産の従業員のローテーションが自在になり、効率化・生産性アップにつなげています。
 また別の印刷会社では、印刷不良があると生産現場全員で会議を開いて原因分析の議論を行い、その対策の「アクションプラン」を作って社内で共有、品質向上に生かしています。
 一方、生産でOKを出した色に、営業がNGを出して印刷しなおさせたものの、生産では納得がいかず不信感が残った、という印刷会社の例もあります。営業と生産との間でも、品質に対する認識を合わせるために、日頃からオープンに議論することは有効かもしれません。さらには今回紹介した「加工進捗お知らせサービス」のように、お客さまとの間で品質に関するすり合わせの機会を設ける取り組みも参考になります。
 また、ある印刷会社では、経理と生産管理を連動させたシステムを構築。強力なトップダウンで「収益性の向上」という目的を浸透させ、システムの徹底活用を従業員に意識付けたところ、損益をリアルタイムで確認できるようになりました。従業員が自主的にデータをチェックするようになり、営業は内製できる利益率の高い案件を受注しようとしたり、製造現場の繁忙度を見て早めにスケジュール調整をしたりするように。製造現場は、作業にかかわるデータを分析、ミスや無駄の原因を明確化するようになったそうです。
 いずれも、一見手間ひまがかかり、効率が落ちるように見える活動ですが、日々腰を据えて取り組むことで、長期的・継続的な品質向上・生産性向上の環境づくりにつながるのではないでしょうか。
 
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