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意識を変えて、会社を変える。
 
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意識を変えて、会社を変える。

2016/04
株式会社藤原電子工業 状況を正確に捉え、正しく 学ぶ「素直さ」を育てる

株式会社藤原電子工業
状況を正確に捉え、正しく 学ぶ「素直さ」を育てる
バリの出ない、奇跡の金型を開発。不良率も業界平均の100分の1!
 大阪府八尾市で電子部品用プリント基板のプレス加工・金型製作を行う藤原電子工業は、社長の藤原義春さんがかつて勤めていたプレス工場から独立し、1993年に設立した社員26名の町工場です。2000年頃までは強みを持てず、日々単価の低い加工に追われ、倒産の危機にもさらされました。
 しかし、藤原さんは金型に特殊な工夫をすることで、基板の型抜きの際に出るのが当たり前だったバリ(加工工程ではみ出た余分な材料)を、全く出なくする「SAF工法」を開発。最終製品の不良率低下や生産性向上につながると高く評価され、自動車や電機などの大手メーカーから直接、単価の高い基板加工を指名されるまでになります。
 さらに近年では音声認識技術や発話機能を持ち、会話に合わせた動作もできる接客ロボットを開発するなど、全く新しい分野でも注目されています。
 金型加工の不良率は、業界平均が3%のところ、現在同社では0・03%。社員一人ひとりのミスが大幅に減った結果です。しかし、SAF工法をはじめた当初の不良率はそんな水準ではなく、社員には遅刻と無断欠勤の常習犯や、居眠りをする人もいたのだそうです。同社の社員は、一体どうしてここまで成長したのでしょうか。
 「それまでも、どの社員も見放すことなく、全員に成長してもらいたいと丁寧に育てていたのですが、やはり成長できない人はいました。そんな頃、大阪の中小企業家同友会で企業づくりを学び、『うちには経営理念がないから、社員に方針が見えていなかったんだ』と実感したんです」(藤原さん、以下同)。
 藤原さんはまず、すぐに「技術力を磨いて日本一の会社になろう」という経営理念をつくります。 「社員全員が業務として参加する月1回の勉強会を開いていましたが、その内容も具体的なものに変わり、経営理念をどう実現するかを皆で議論するようになりました」
 藤原さんは、社員と議論を深める中で、あらためて経営理念を捉え直します。
 「『あの会社は日本一だ』と決めるのは、お客さんや地域の人たち。技術がすごくても、あそこの社員は横柄や、人があかん、と言われたら日本一ちゃうで、社員の人間性が素晴らしい会社にならなあかんのちゃうか、と社員に提案しました」
皆で目指す「素晴らしい人間」とは?
社員が考え、自分で毎日チェック。
 藤原さんは、『素晴らしい人間』とはどんな人間なのか、6カ月かけて当時14名の全社員にアンケート。「朝、大きな声であいさつをする」「新聞を毎日読んでいる」「話題が豊富である」といったことから、「上司の指示を正しく理解できる」「相手の立場で考えている」「自分の目標、ビジョンが明確」など、挙げられたのはなんと約2000項目!それらを整理して、新入社員から経営陣まで6段階に分類し、「各レベルの社員が実現するべき項目」として設定しました。
 同社ではこれを基に、その項目を実行できたかをリストで社員が自らチェックし、その日に気づいたことや学んだことも書き込み、毎日レポートとして提出する活動を10年前から始めました。同社のレポート活動の特徴は、生産性や技術力ではなく、「仕事への向き合い方」をチェックするという点です。レポートはチームリーダーが毎日チェックし、さらに1週間分から特記事項をまとめて経営会議に提出するので、経営陣も現場の状況の変化や課題をつぶさに捉えられるようになっています。
 このレポートで見いだされた課題は、そのまま月1回、全社員が参加する勉強会の議論のテーマになります。レポートを中心とするこれらの活動には、社員の成長を狙ったユニークな工夫が光ります(詳しくは2面下の囲みで紹介します)。

右の写真は藤原電子工業の社員の皆さん(写真は創立15周年パーティーのもの)。現在は26名が所属しています。左は同社のプレス工程の様子
トラブルを責めず、
客観的な原因をフラットに問い続ける

同社が加工したプリント基板
 同社では、不良品や作業ミスを出した社員をしかったり、罰したりすることは一切しません。その代わりに原因を追究する報告書を本人に提出させ、上司は納得できる原因が明らかにされるまで、何度も何度も書き直させ、徹底的に考えさせます。
  「誰もが最初は、自分が起こしたトラブルを『仕方がないもの』と考えます。例えば、不良品の原因として『納期が厳しかったから』など、いわゆる『言い訳、ぐち』を挙げます。実は根本原因は『遅くまでゲームをして寝不足で、集中力がとぎれたから』だったりするのですが、なかなか自分で素直には捉えられません。しかし、最後には、自らそこまで踏み込んで考え、原因と実効性のある対策を書いてきます。上司がフラットに『どうして?』と聞き続けるからです。社員は、自分の頭で内面をさらけ出すまで問題をつきつめることになり、仕事の課題が“自分ごと”になる。そこではじめて成長するんです」
 毎日のレポートやこうした活動を3年続けた頃、不良品は激減。藤原さんのSAF工法をさらに高度化した新工法も、社員が自ら開発しました。藤原さんがこれらの活動で狙ってきたのが、「素直さの醸成」です。
 「素直でないと正確に学ぶことはできません。思い込みや都合のよい見方をせずに状況を客観的に捉え、課題の本質を正しく問えなければ、経営を誤るし成長もありません。経営者も社員も全く同じ。人は誰でも、問題を自分以外のせいにする『防衛本能』が強いので、素直になる訓練を皆で毎日するんです
従来金型(左)とSAF工法の金型(右)の断面比較。SAF工法は、刃物でカットしたような断面。ホコリのように散らばって最終製品の不良の原因となるバリが出ません
素直さを引き出す!藤原電子工業のチーム活動
チェックを形骸化せず皆でツッコミを入れる

社員は現在、自分の役職でなすべき項目の中から、自分が重点を置く項目を絞り込み、それができているかを毎日チェックし、その日に気づいたこと、学んだことを記述
 勉強会では主に、数人のチームに分かれ、一人ひとりが毎日のレポートで見つけた自分の課題とその改善策を皆に発表します。「リーダーや経営陣からは、内容に疑問があると、『その対策はちょっと違うんちゃう?』とか容赦なくツッコミが入ります(笑)」。
 レポートを毎日書くと、社員はあまり考えずに、なすべき項目を「実行できた」として適当にチェックしてしまうことも、往々にしてあるそうです。「『今日気づいたこと』の記述内容が的外れだったりして、すぐに分かります。そのときは、勉強会で、『言ったことと行動が違っているよ』とか、『自分の仕事の責務を果たしていると書いているけど、あなたの責務って何?』とリーダーや上司が聞きます。うまく答えられなかったりする中で、社員は問題点に気づきます」。

チームは異なる部署でミックス
 同社の勉強会と日々のレポート活動は、チームで行います。チームは同じ部署、工程ごとではなく、あえてミックスして編成し、メンバーも定期的にシャッフルしています。話題や発想が偏らず、互いの仕事や立場への深い理解にもつながります。
 さらに、リーダーは全員がローテーションで担当。1年目の若い社員も、ベテラン社員が書いたレポートにリーダーとして評価コメントを返します。これにより、「早くから経営的な視点やリーダーシップを養うことを狙っています」。

作業の意味や背景を理解し、改善する楽しさを手に入れる
「勉強会では、

勉強会の様子
決まった技術的な手順などは話題にしません。それらにはマニュアルがあり、覚えると何も考えずにできるようになります。でもそれではだめなので、レポートや勉強会で『なぜその仕事をその手順でやるのか』、意味や背景の理解を深め、自分の中で消化させるようにしています。そうすると『もっといい方法があるのでは?』と、常に楽しんで追求できるようになります」
経営理念が表す思いを共有し
会社の夢と社員の夢を重ねる
 

同社が開発し、商店向けに提供している接客ロボット。お客さまに対して話しかけたり、腕や足の動きであいさつやダンスをしたりする接客機能、レーザーセンサーで侵入者を探知し、メールで連絡する留守番機能などを持っています。同社ではほかにもさまざまなロボットを開発中です
 仕事が急増し、社員が土日出勤や残業続きになった頃、藤原さんは「趣味も家族との時間もなく、社員は幸せなのか」と疑問を感じます。いつもの勉強会で社員と理想的な働き方について議論を重ねると、ほぼ全員が「特別裕福でなくていいので、残業せずに標準的な生活ができる働き方」を望んでいました。
  「その結果、標準的に8時間働く中で利益をきちんと出して社員に還元し、皆が安心して暮らせる会社にしよう。そのためには、皆が日々業務を改善し、効率的に働こう」という結論になったんです。レポートや勉強会もこの目的のもとに行っているので、納得感が高いかもしれません」
 また、藤原さんは近年、経営理念についてさらに考える中で、「社員の人間性が素晴らしい会社になろうという理念を掲げているが、社員にとっては押し付けやおせっかいになっていないか?」と考えるようになりました。「会社が目指すものと、社員の夢が重なる部分をもっと広げたい」と、藤原さんは自分の10年後の夢を作文に書いて発表しました。
 「分散していた工場をまとめて本社を新築。そこにはプレス工場と金型工場、事業化を目指していたロボットの工場とショールーム、勉強会がゆったりできる会議室や食堂がある……という内容です。そして社員に、会社とからめて自分が愉快になるような10年後の夢を書いてほしいと言いました」

株式会社藤原電子工業
大阪府八尾市南木の本2-51
http://fdk-ltd.jp/
 ロボットの事業化に携わっていた社員は、「プレス加工のロボットを自社開発する」という夢を書き、そのとおりにロボットを開発、大きな生産効率化とコスト削減で利益率アップを実現しました。ほかにも、「若い社員を育てながら勉強し、ペットショップを社内で開く」「会社で介護施設を経営し、自分の親、将来は社長の面倒もみたい」など、全員から個性的な夢が発表されました。
  「どれが実現できるかは分からないですが、『藤原電子工業ならではの強み』が出せるものにしたい。ただし会社からやらされた形では意味がないので、社員がやりたい!と主張するまでは私は動きません。まだまだ社員の主体性が足りず、そこに至っていませんが、実は私は十分事業化できるものがあると思っています」と藤原さん。自身の書いた夢は早くも3年で実現しましたが、今度は、社員が自分の夢に本気で取り組んで事業化し、第二・第三の柱へと育て、経営基盤の強化を実現するのを楽しみにしています。


株式会社藤原電子工業 代表取締役社長の藤原 義春さん。

 「クレームやトラブルが起きたら、ありがとう!と思おう。自分の防衛本能を取り払って成長できるチャンスや」
。藤原さんが日々社員にかけている言葉です。SAF工法は、お客さまも金型業界も、長年「どうしようもない」と思っていたバリを、課題と捉え直したから実現したもの。「企業の防衛本能を取り払った取り組み」です。クレームがあったとき、お客さまが満足していない様子のとき、それは何が原因なのか、当たり前だと思っていたものの中にないのか。「防衛本能」を取り払い、本質を素直につきつめることが、社員が成長し、会社が変革する大きな一歩といえそうです。

プリント基板のプレス加工・金型製作に加え、近年では消費者向けロボットの製造の事業化にも着手。現在、教材としての利用を目指し、子どもでも作ることができ、リモコンで動かせるロボットキット(写真左)を販売したり、「製造業と商店街とのコラボから互いに新しいビジネスを生み出そう」という新しい試みも進め、地元・八尾市の商店街のサービス用にコミュニケーションロボットを提供するプロジェクト(写真右)を進めたりと、事業の幅を広げています
 
  • 仕事の改善活動を、職場単位ではなく、職場・年代をまたいだ多様なメンバーで行い、全体の視点やリーダー性を育てる同社の取り組みは、各部門の専門性が高く、部門間の連携が課題となりがちな印刷会社にも大いに参考になる。
  • 会社変革には、経営理念や働き方について、従業員の率直な意見を聞き、互いに理解できるまで語り合うことが鍵になる。それにはまず、経営陣が会社の方向性を従業員に理解できる本音の言葉で明示することが必要。
 
●印刷会社の変革活動事例
 藤原電子工業の例のように、会社の変革には、社員が業務を自身の課題解決や成長の喜びに結び付け、主体的に業務を行うことや、経営方針への共感、会社全体を多角的に見る目を持つことが鍵となります。
 ある印刷会社では、係長職以上を経営幹部とし、業績情報などを共有して経営参画意識を促しているほか、経営理念と各部署の活動が一致しているかを定期的に議論しています。
 また、別の印刷会社では、環境やCSR活動への注力を経営方針に掲げ、環境配慮のPRに使えるエコノベルティグッズや災害対応マニュアルなど、企業向け製品を開発、自社ブランドとして提供。若手の営業部員に、開発中のこうした製品を持って企業を回り、意見・感想をヒアリングし、改良を加えるという製品企画活動など、経営方針の具体化の主要部分を担当させることで、社員への経営方針の浸透を図っています。
 別の印刷会社は、製造現場の多能工化を推進。複数の印刷機を全員が使えるようにし、ローテーションで担当することで、属人化を防ぎ、多様な視点による改善が活発になり、大きく生産性を上げています。
 
 
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