CLUB GC
表紙へ グリーンレポートへ 技術情報へ Q&Aへ アンケートへ
老舗ファミリー企業に学ぶ競争力の継続
 
すぐに分かる! 注目の経営手法や市場の「今」 グリーンレポート

老舗ファミリー企業に学ぶ競争力の継続

2015/10
1. 株式会社ヒラカワ 「お客さまのために」を追求 画期的なオーダーメイドへ
2. 株式会社セラリカNODA 変化を恐れない経営者と自ら考える社員で技術革新
■コラム
競争力を継続する老舗ファミリー企業
20年計画に基づいた人材育成で、 社員自らが誇りを持って技術を継承

  ●導入前後のサービスでお客さまを知る
  ●社員の現在の強みと今後の育成を見える化
  ●印刷会社の競争力継承のポイントは

1. 株式会社ヒラカワ
「お客さまのために」を追求 画期的なオーダーメイドへ
 
 従業員約250名、大阪市に本社を置き、「MPボイラ」のブランドでボイラーの開発・製造・販売を行う株式会社ヒラカワは、創業100年余のファミリー企業です。汎用品が当たり前の業界で、お客さまの用途に合わせた「オーダーメイド品」の提供を実現。2004年には世界で初めて、お客さまの前で製品を稼働させ効果を確かめてもらえる「ボイラ技術開発センター(B–TEC)」の開設など、先進的な取り組みで売り上げを伸ばしています。
 現社長の平川晋一さんが4代目社長に就任した1997年、安定したシェアがあったものの、新規参入企業やボイラーの代替技術も現れ、平川さんは大変な危機感を持っていました。いかに現在の会社の姿へと変えていったのでしょうか。
商品を納めていても「お客さまを知らない」
 あるとき平川さんは、たまたまお客さまから「この食品をボイラーで加工したいが、難しい。よい方法がないか」という声を聞き、営業担当者に相談しました。ところが、現場の話をよくよく聞いてみると、ボイラーメーカーは受注どおりの汎用品を納め、その先の使い方についての知見がほとんどないと分かり、がくぜんとします。そこで、まず社内でお客さまの環境を再現し、要望にあった加工を試すことに。しかし、装置がなかなか動かず、所望の加工に適した蒸気を作れるまでには、大幅な時間を費やしたといいます。
  「何万ものお客さまにボイラーを納品していたのに、それぞれの導入目的や動かし方など、何も知らなかったんだと、目の覚める思いでした」。
 
ボイラーの効果をお客さまに見える化する「ボイラ技術開発センター(B–TEC)」。ここでお客さまのニーズを聞き出すことで、要望にあったボイラーを作っていくソリューション型提案ができます
平川さんは急きょ社内チームを作って、あらゆる業界のユーザーを調査し、「ボイラー用途マップ」を作りました。
  「例えば、全く同じ食品を製造しているお客さまでも、ボイラーの使い方は十社十様で、必要な温度や湿度もまちまちでした。しかし、ボイラーは各社に同じ温度・湿度しか提供していない。お客さまではなくライバルを見て、画一的な製品のスペックや機能を競い、厳しい競争を招いていたのだと気づいたのです
会社は社員のために、社員はお客さまのために
同社の社是。毎朝欠かさず唱和するほか、日ごろの具体事例による分かりやすい説明で社員の心にしみこませています
 同社はその3年ほどの間で、営業で重きを置く成果指標を、従来のシェアや売り上げから、「『これがしたい』というお客さまの要望をどれだけ集めたか」にシフト。訪問先のお客さまの部門も、調達部門ではなく、上流の生産・開発部門へ通う方針にし、お客さまごとにボイラーを作るようになりました。
 営業担当者は活動内容を大転換することになったわけですが、「やってみれば意外とできるものですよ。できた理由を強いて言えば、『お客さまのために全力を尽くそう』という社風がしみ込んでいるからでしょう」。同社の社員は、会社が何も言わずとも、阪神淡路大震災などの災害時は「費用が回収できなくても、被災したお客さまを支援する」、お客さまのトラブル時は「徹夜してでもサポートする」などの行動を自然にとっていました。その行動を支えているのは、お客さまと同様に社員のことも会社が全力でサポートしてきた歴史です。例えば社員が災害に遭えば、会社から必要物資を何でも送り、生活を全面的に支援してきました。
同社のボイラー製品。ボイラーは乾燥・加熱・滅菌・加湿・濃縮・冷暖房・溶解・ろ過・脱臭などさまざまな用途に使われます

 また、代々の社長が技術継承のため「一般的な会社に比べ2〜3割人員を多く配置」(平川さん)するなど、 人材育成の手厚い体制を整えてきました。さらに、社是は毎朝の唱和に加え、社長が朝礼や各営業所を訪ねる際など、事あるごとに具体例を引き「社是を反映した行動とは何か」をストーリーとして話してきました。
  「唱和だけでは実感がわかず、理想論になる可能性があります。経営者教育も同じで、幼少期より私も先代社長の父も、自分の祖父から具体的な事例を交えて教育されました。社員にも、社内外での事例で良かったこと、反省すべきことを挙げながら、当社の優先順位は何か、何を目指すかを伝えています」(同社の人材育成の取り組みは下記で詳しく紹介します)。
  • 「製品・サービスを利用するお客さまの目的」は、意外と見えていない。旧知のお客さまのニーズも常に意識的に問い直すことで新たな可能性が生まれる。
  • 他社を意識するより、「お客さまのために自社ができること」にフォーカスすることが重要。
  • 社員とお客さまを大切にし、具体的な行動規範を繰り返し従業員に刷り込む地道な取り組みは、変革時に自社の強みとなる。
 
2. 株式会社セラリカNODA
変化を恐れない経営者と自ら考える社員で技術革新
 
 神奈川県愛甲郡で180年以上も天然ロウの精製・ロウ製品の開発・製造・販売を行う従業員約20人の株式会社セラリカNODAは、長年ロウソクやびんつけ油を製造してきた技術を生かし、コピー機用や住宅内装用のワックス、食品加工などの異分野で独自の製品を次々に開発。大手メーカーからも高い評価を得て成長し続けています。
強みの本質だけを守り、他はこだわらない
株式会社セラリカNODA 代表取締役社長の野田 泰三さん
 現社長の野田泰三さんは、1970年代に同社へ入社し、びんつけ油やポマードが石油系整髪料に置き換わる中、成長が見込めると考えた情報産業で、自社技術が生かせないかと思案。複数の企業へ飛び込み営業をかけ、天然ロウの特性や特殊な製造技術をアピールしました。
 「用途の見当をつけていたわけではないのですが、相手も欧米との競争に勝つべく新しいことを探しており、喜んで話を聞いてくれました。ただ、びんつけ油を情報産業に活用する発想は、誰にもなかったと思います」と野田さん。足しげく通ううちに「すぐに溶けてすぐに乾く」天然ロウの特性が評価され、ワープロの感熱紙用インクやコピー機用トナーに採用され、大きなシェアを得たのです。
 先々代社長である野田さんの父親も、ロウソクを作る際の「脱臭技術」に着目。「脱臭とは裏を返せば良い匂いを集めること」と発想を転換し、にんにくやたまねぎからエキスを抽出する技術に応用して同社の食品加工事業の礎を作りました。
 長く継続している事業があると守りに入りがちですが、「父も私も過去にこだわりがなく、考え方がオープンなところは同じ。新しいことに挑戦したいという強い気持ちがあります。こだわっているのは、『天然ロウ』を事業の核にすることだけ。環境や人の体に優しく、気候の厳しい環境でも作れるため途上国の人たちの生活向上にも役立つからなのですが、それも長年、愛情を持って製品を作り知見を深めたから分かったことです」と野田さん。
 「次の時代に事業を継続させるポイントは」と尋ねると、「効率やコストの追求も必要ですが、その中で経営資源の10%、5%でも社員に裁量を与え、『奇想天外に考える部分』を確保することも重要だと思います。海外の技術力も高まっていますし、多くのことはロボットに置き換わり、ますます『人が頭と心を使うこと』が差別化の鍵になるからです」と強調します。
「意志を持った人」を育てる
その実から、同社の原点であるロウソクやびんつけ油の原料「木ロウ」が取れるハゼの木。同社ではほかにも、米ぬかやサトウキビから取れる天然ロウの開発に取り組んでいます
 野田さんは、そうした差別化の成否を決める一番の要素を人材教育だとし、会社も社会と自社のために、効率性にこだわらずに人を育てるべきだと考えています。
  「今は新卒社員に『人からどう思われるかを一切気にするな、自分を客観的に見て、自分の意志で仕事を決めて実行せよ』と教えています。例えば、まずは朝何時に起きると決め、目覚まし時計に頼らず起きることから始めさせています」と明かします。日常の小さな意志の達成から徐々にレベルを高めた、その究極のものが開発であり、「新しいものは、意志がなければ創れない」という考え方です。
 社員が意志・意見を持つための訓練として、野田さんは昨年の新卒社員に、各新聞から自分が自社に重要だと思う記事をスクラップするという課題を出しました。短期間のつもりでしたが、彼らはスクラップに自分の意見も加え、独自の編集など創意工夫するようになり、現在も毎週これを「セラリカ知識新聞」として自発的に発行し続けています。
 同社では社員への評価も、若手では成果の多寡よりも「難しい課題に逃げずに取り組んだか」を重視。中間層には、「部下の育成」を重要な評価項目とし、教える際には自分の過去の失敗についても積極的に話させています。
食品用のロウ原料だけで作られた住宅内装塗料ワックス「セラリカコーティングピュア」。シックハウスの原因となるホルムアルデヒドを全く出さず、現在の主力製品の一つとなっています

  「今の若い人がよくないのは、『失敗は悪だ』と思っていること。成功するまで失敗していいと教えるのです」。
 また、研究開発担当者には、ある程度の長い期間、他部門の実務に従事させています。例えば営業では、値上げなどお客さまとの難しい交渉をやり通させ、経理では1年間は担当させます。
 「頭の中の想像とは違うお客さまの実像やお金の重み、ビジネス全体が見え、非常にプラスになる。課題解決まで当たらせ、成功体験をさせることがポイントです」と言います。
 印刷会社でも、新卒社員を最初に営業に入れ、会社全体やお客さまのことを実践で学ばせることや、生産を担当させ、自社の技術や強み、「できること・できないこと」を肌で感じさせることは、自分の頭で会社のことを考える人材を育て、会社を継続させる上で有効ではないでしょうか。
  • 自社の強みや商品の本質をつかんだ上で、歴史や従来の仕事にこだわらずに、あえて新しい領域への挑戦を続けることで事業継続の可能性が広がる。
  • 実務に直結した技術教育だけでなく、主体的に考えることに喜びを感じる人材を育てることが、長期的に自社の差別化につながる。教育の際には世の中の価値の変化などについても繰り返し教え、自ら変わるよう促すことが有効。
 
■コラム
競争力を継続する老舗ファミリー企業
20年計画に基づいた人材育成で、社員自らが誇りを持って技術を継承
株式会社ヒラカワ
 お客さまのボイラー使用目的を精力的に収集し、オーダーメイド製品を提供するという変革を図ったヒラカワ。ほかにも新たなサービスや人材育成の手法に取り組んでいます。
●導入前後のサービスでお客さまを知る

株式会社ヒラカワ
代表取締役社長の
平川 晋一さん
 同社は最先端の省エネボイラーを提供しており、先述の「ボイラ技術開発センター」でその稼働効果をお客さまに直接確かめてもらい、受注増につなげています。さらに、自社製・他社製問わず、お客さまが使用中のボイラーの稼働コストを、独自開発の計測システムで無料診断するサービスも実施。「ボイラーは使い方次第でコストが大きく変わりますが、自社での稼働コストを把握しているお客さまは少ない。これを見える化することで、最適なボイラーを提案でき、導入効果もより実感してもらえます」。
 また、「ビフォアサービス」として、省エネに関する最新の技術・対策を紹介するセミナーを定期的に開催。自社および他社のユーザー、電力会社、燃料会社なども参加しています。
 これら製品導入前後のサービスは、お客さまの生の声を聞く機会を増やすほか、お客さまの自社への理解も深め、親近感を高める絶好の機会になっています。
同社が開催している省エネセミナーの様子。省エネボイラーの実機見学も行っています
●社員の現在の強みと今後の育成を見える化
 同社では、お客さまごとのニーズに応じたボイラーを作るようになり、社員により深い技能が必要になったため、経営計画の範囲も従来の数年から、20年へと変更しました。
  「お客さまとの関係も、製品も、社員も、育てるには10年はかかります。数年の計画では目先の成果が最優先され、人材育成が十分にできないと考えました」。
 育成計画では、一人ひとりの持っている知識、経験を明記した「技能カルテ」を作り、「いつまでにどんな技能を身に付けさせるか」を決めています。
 また、人材育成の一環として月に1回、社内外で起きたあらゆるミスを、丸1日かけて全社で共有する「トラブル報告会議」を実施しています。
  「損害が大きかったものも、書類の小さなミスも同列に扱い、要約せずに共有して、当事者以外にもミスの体験を実感してもらえるようにしています」。報告をちゅうちょしたり、原因究明が難しくなることがないよう、ミスを罰することはしません。
  「社員のミスのほとんどは、その工程についての知識や経験がないのが原因で、やらせた会社の責任です。ですから、すべての作業は技能カルテに基づいて担当を選び、勤続年数が長い社員でも、初めての作業時は初心者マークを付けています」。
 こうして育った社員は、自分の仕事に誇りを持ち、「自分の後継者が欲しい」と言う人が多いそうです。同社では、あらゆる現場で後継者を育てるため、人員を厚く配していますが、「社員には、『会社が赤字になり、後継者がいなくなったら、育ててくれた先輩に申し訳ない。だから利益を出そう』という意識があります」。
 長年事業を続ける印刷会社も、自社の成り立ちや、必ずある自社と従業員の強みを明確にし、それを現場に時間をかけて伝えることで、技術に隠された背景や意志、誇りまでも受け継げるのではないでしょうか。
●印刷会社の競争力継承のポイントは
 今回の2社とも、経営者が時代の変化に応じ、変革にすばやく踏み切りました。ヒラカワは、お客さまのリサーチに一から挑みました。同社のようにお客さまとの相互理解を深め、ニーズを集める方策として、印刷会社では、チラシ作成後の商品の売れ行き効果の測定や、効果的な販促物作りなどのセミナー開催、工場に招待しての技術力や印刷物サンプルのPRなどが考えられます。
 セラリカNODAは、成長市場と自社技術の関連付けに挑み続け、独自技術を開発しました。同様にある印刷会社では、医療業界の成長に着目、一人ひとりの健康診断結果とそれに応じた役立ち情報をバリアブル印刷で一冊にして提供しています。
 今後は、自社と各従業員の強みを見える化し、守ること、主体性をもって課題解決に挑める人材を大切に育てることも重要です。それにより、生産のオペレーターがミス・ロスの原因を分析し、生産性向上の方策を自ら考えたり、営業がお客さまの目的に応じた高付加価値印刷を提案するなど、競争力向上が可能になります。
 
 
back
Copyright(c) FUJIFILM BUSINESS SUPPLY CO., LTD. All Rights Reserved.