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「自分たちの提案方法」を見つけ出す
 
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「自分たちの提案方法」を見つけ出す

2015/7
1. 株式会社コメットカトウ 商品の機能でなく、会社の姿勢を 伝える提案で長期的信頼を獲得
2. 有限会社高田紙器製作所 中小企業には個別提案は困難。 「営業に行かない提案営業」へ
■コラム
「自分たちの提案方法」を見つけ出す名企業
お客さまと接する中での苦労や失敗を 新しい提案のヒントに変えていく

  ●注目されないから「いかに独自の存在になるか」を考える
  ●社長も社員も「キャパシティー超え」に挑戦
  ●印刷会社にとっての 「提案方法の見つけ方」とは?

現場主体のイノベーション

1.株式会社コメットカトウ
商品の機能でなく、会社の姿勢を 伝える提案で長期的信頼を獲得
 
 十数社が競合する業務用オーブン市場。大手メーカーが並ぶ中にあって、コメットカトウは、従業員245名の規模でありながら、毎年着実に売上を伸ばしています。その実績を支えるものの一つが、主力製品である高機能スチームオーブンを使った、調理実演セミナーです。
今ある商品でもっと喜んでもらいたい

写真上は同社の調理実演セミナーの様子。レストランや病院、給食センター、スーパーの惣菜コーナーなどの調理担当者や料理が好きな個人など、さまざまな人が参加する。左は同社の主力商品である「スチームコンベクションオーブン」
 新製品のPRを目的とした実演セミナーをしているメーカーは多いですが、同社のセミナーは新規購入を促すアピールをしないのが特徴です。 「うちの調理実演セミナーの目的は、お客さまの満足度を高めてもらうこと。そのため、新製品にしかない機能ではなく、既存製品に共通する基本的な機能をうまく使いこなし、料理をおいしく作るための提案をしています」。そう話すのは、営業企画チームの井川俊正さんです。
 同社がこのセミナーを始めたのは、一台で「蒸す・焼く・煮込む・炊く・揚げる・茹でる」などができる同社の高機能スチームオーブンがうまく使いこなせない、というお客さまからの声がきっかけでした。また、競争が激化し、機能や品質を各社とも高め、差をつけるのが難しくなっているという背景もあります。 「『これもできる、あれもできる』と機能を訴求する他社セミナーと同じことをしても意味がない。ならば、お客さまの役に立つ提案をしようと考えたのです」(井川さん)。希望者であれば同社ユーザーでなくとも参加できるため、将来の見込み客にも役立つ提案をするセミナーになっています。
お客さまとの接点を持つ大切さ

お話を伺った株式会社コメットカトウ 営業企画チームの井川 俊正さん
 同社が提案しているのは、基本的なスチームオーブンの上手な使い方のコツから、プロのシェフによるオリジナルレシピ、「ノンオイル料理」や「アレルゲンを使わないおやつ」といったレシピなどです。その実演では同社オーブンを使うため、参加者にその良さも伝わりますが、特殊な機能を使わない提案のため、他社製品でも応用でき、他社のメリットにもなる可能性もあります。
  同社は2005年頃から、セミナーと売上を積極的に結び付けようとはしてきませんでした。「売り上げを狙った活動ばかりでは信頼されません。セミナーを通して製品を買ってもらうことも大切ですが、何よりうちの会社のことや企業理念を知ってほしいんです」。
 同社では、井川さんも含めた3名の調理提案担当者が、展示会などでの通常の営業活動に加え、全国でのセミナーの企画・開催も担当。その数は年間100回を優に超えます。会社にとって負荷のかかる活動ですが、お客さまと代理店を介してのみやりとりしていた同社にとって、お客さまの声を直接聞ける貴重な機会なのだといいます。売り込む姿勢がないため、お客さまからはより素直な意見が集まります。意見は開発会議で共有され、新製品にも反映されます。
 セミナーのリピーターも多く、同社のフォローのきめ細かさも伝わり、同社や製品の認知度も高まっています。また、既存ユーザーの満足度アップはもちろん、長期的には既存・見込み客ともにオーブンの新製品や関連製品、別カテゴリー製品の購入につながっています。目下の成果を追わず、「お客さまの役に立つこと」を第一にした提案の徹底が、お客さまとの長期的な取り引きの土壌になっています。

  • 「継続的に提案してくれる会社」というブランド価値は、お客さまとの信頼関係を構築し、他社と差別化するのに役立つ。
  • 印刷会社のお客さまでは、印刷・製本仕様やコスト構造に詳しくない若い担当者が増えている。こうした担当者に、印刷の知識や役立つ提案を継続的に提供すれば、さまざまな相談が寄せられる可能性が高まり、ニーズ深耕につながる。
 
2.有限会社高田紙器製作所
中小企業には個別提案は困難。 「営業に行かない提案営業」へ
 

 高田紙器製作所は、デザイン性の高いポップアップ名刺や本、カードを、低コストで迅速に提案する企業として、紙加工業界の中でも一目置かれる存在です。しかし実は、評価を確立するまでには、たくさんの試行錯誤があったといいます。

製品・価格を標準化し、分かりやすく提案
上の写真は、厚さ1cmにも満たない封筒から20cm近い高さのオブジェがポンと飛び出すギフトカード「パカポン(PACK A PON)」。下の写真はポップアップ名刺。腐蝕刃打ち抜き加工の応用で、細かい表現を実現している。外側に会社名や名前が入る

 同社は元々、パッケージや抜き加工など、多様な紙加工サービスを提供していました。しかし、かつてはよい装置の導入が差別化につながったこの業界も、市場が縮小し、競争力を保つのは困難に。代表取締役の高田照和さんは、「一般的な加工の仕事だけでは、価格競争で苦しくなるばかり。独自の製品を作って、お客さんごとに提案営業をしていかなくては」と考え、まずはさまざまな会社へ、それぞれに合う提案をする営業を実践しました。
 「マッチした提案もあれば、箸にも棒にもかからないものもたくさんありました。でも、うちのような小さい企業は、一人の営業が何十社も抱え、多くのお客さまから仕事をもらわなければ成り立ちません。ある時ふと、一社一社に合う提案など物理的に無理だと気づいたんです。そこまで10年間も苦労してしまいました」。
 高田さんはその後、自社の強みを、高精度な抜き加工技術と、多様な製品設計ができる担当者がいることだと見定め、その強みが生かせる、「飛び出す絵本」などに代表されるポップアップ製品だけを提供することにしました。そして、画期的な「一件一件に営業をしない提案営業」を始めたのです。
 その中核をなすのは、同社の既存ポップアップ製品をメニュー化・標準化したカタログです。色数とロットで変わる価格と納期を、すべて明示しています。ポップアップ製品のデザインは、作家につど依頼するのが一般的ですが、価格も時間もかかり、算出方法も発注側には分かりづらくなります。これに対し、同社システムではラインアップと価格算出方法を標準化。価格を大きく抑えた上、お客さまも予算と照らし合わせやすく、発注の判断が早くできるのが特徴です。

ニーズが見込めるお客さまだけに提案
 同社では、ポップアップ製品の提案をビジネス用途に絞り、提案先も印刷会社、広告代理店に限定。さらに、「これらの会社のウェブサイトで取引先一覧を見て、『取引先にポップアップの需要のある企業があるか』を確かめて、提案先を絞り込みます」(高田さん)。
同社ポップアップ製品のカタログ。「ページにポケットを付けてホワイトダミーを入れたところ、受注率がすごく上がった」と高田さん。「ポップアップ製品は、写真や設計図ではほとんどの人がイメージできない」ということが、カタログを作って初めて分かったそうです
 同社はこの基準で、展示会などで集めた企業リストを選別し、その企業のみにカタログを送付し、問い合わせがあれば対応するというスタイルをとっています。また、エンドユーザーからの「色が校正と違う」などの印刷物に関する説明負担は、印刷会社や広告代理店に任せています。これにより、ニーズの見込めるお客さまに少人数で効率的な提案をすることに成功したのです。
 高田さんが、ポップアップ製品が自社の強みになるということと、それを分かりやすく合理的に提案できる仕組みとを見いだすことができたのは、数年間、売上にすぐにつながらないことは覚悟の上で、たくさんの展示会に出続けてきたことが大きいそうです。
 「展示会では何年も、来場者にほとんど立ち寄ってもらえず、苦しい思いをしました。その中で『どんな訴求方法で、どんな人に伝えれば注目されるか』を必死で考え、今の形にたどり着いたんです」(詳しくは次の3面でも紹介します)。
 同社は現在、印刷会社や広告代理店にこのカタログを無料で提供し、使い勝手を試してもらい、カタログ仕様やラインアップ、価格などをブラッシュアップしているところです。
 「お客さまのニーズは、多少想像もできますが、お客さまと同じ環境に身を置いていないので、僕らは真のお客さま目線にはきっとなれない。だから実際に使ってもらった反応を見たいんです」と高田さんは言います。
 同社の事例は、形ある提案を重ね、試行錯誤する中でこそ、自社に求められていることやお客さまが明確になり、自社の強みが作られていくということを教えてくれます。
  • 自社の強みが明確に伝わる提案の形を追究するとともに、「お客さまのお客さまが有力な見込み先となるのか」までを確かめて提案先を絞り込み、提案活動を合理化することは効果的。
  • やみくもにニーズを探るより、展示会への出展などで、まずは形あるものをぶつけ、お客さまの反応を目の当たりにすることで、自社に最適な提案方法が見えてくる。
 
■コラム
「自分たちの提案方法」を見つけ出す名企業
お客さまと接する中での苦労や失敗を新しい提案のヒントに変えていく
有限会社高田紙器製作所

 ここ数年、年間10件以上も展示会に出てきたという高田さん。しかし、出展を始めてから2年は、展示会で会ったお客さまからの受注はゼロでした。高田さんは「展示会は今も受注にはほとんどつながらない」といいます。

●注目されないから 「いかに独自の存在になるか」を考える


「ニコニコ超会議2015」で同社が作った世界最大の「飛び出す絵本」。上が本を閉じたところで、下のように、開くと等身大のキャラクターが飛び出す
 それでも展示会に出続けるのは、「自社の提案が、いかに見向きもされないものなのかを思い知るためです。そんな思いをし続けたくない一心で、考えに考えて『誰も見たことがないもの』を生み出すんです」
 展示会で何とか注目を集めようと、同社はなんと役者に社員の格好をさせ、自社ポップアップ製品の魅力を寸劇で伝えるというPR法も確立しました。「シナリオも役者に書いてもらいます。ちょっとくさいかな、という内容でも、役者がやるとちゃんと面白い。お客さまがたくさん集まりました」と高田さん。このPR法を他社に提供することを考えているそうです。
 高田さんは今後自社の売上規模を拡大するために、現在のカタログシステムを自社で囲い込まず、多くの印刷会社や広告代理店に広げようとしています。
 「似た提案やもっといいシステムを作る会社も現れて、次第にうちの強みではなくなるでしょう。その前にまた新しいことを考えます」。

高田紙器製作所 代表取締役の 高田 照和さん
●社長も社員も「キャパシティー超え」に挑戦
 新しいアイデアを出し続けるのは大変では?」と尋ねると、高田さんは「だから自分を追い込むために、展示会に出続けているんです。それと、若い人が新しいものを生み出す場所に積極的に参加するように心掛けています」と言います。
 その一つが、「『ニコニコ動画』を地上に再現する」というコンセプトで開催された「ニコニコ超会議2015」への出展です。ここで同社は、若者に人気のアニメキャラクターを使った世界最大の「飛び出す絵本」で、ギネスに挑戦しました。開いた幅6m40cm、290kgの本から、等身大のキャラクターを飛び出させるという未経験の挑戦に、高田さんをはじめ社員も徹夜で格闘。細かな規定の関係で惜しくもギネス認定には至らなかったものの、巨大な本を開くと、見事キャラクターが本当に立ち上がり、会場を沸かせました。
 「自分も社員も、自分のキャパシティーを超えた仕事を与えられないと新しいものを生み出せないと僕は思います。最初はやらされ感があっても、進めるうちに自分ごととして考えざるを得なくなり、何かをひねり出すことになります。苦しいですが、失敗してもいいので、一度新しいものを創る経験をして『面白い』と感じることが、これからの市場で生き残るためには必要です」と高田さん。そのため、社員にもあえて大きな仕事を任せます。仕事に関係なさそうなことでも、本人が「面白い」と思うものを自由に見聞きさせるようにしているそうです。
 苦労や失敗をいとわず、むしろ「自分たちの提案方法を見つけるのに必要なもの」と前向きに捉える姿勢が、同社の成長を支えているようです。
●印刷会社にとっての「提案方法の見つけ方」とは?
 提案を成功させるには、お客さま像とニーズを的確に想定し、「何を自社の強みとするか」を追究することが必要です。そのためにはまず、今可能な提案や情報提供をお客さまに直接ぶつけ、その反応から学んでいくとよいでしょう。
 ある印刷会社では、印刷物を手にするエンドユーザーに合わせてデザイナーを変え、的確なデザインを提案。それを強みとしてアピールし、受注増につなげています。
 また、ある出版社の雑誌では、目次ページに色紙が使われていました。取引のない印刷会社が営業に訪れ、その目的を尋ねると「目次を目立たせたいから」と言われました。そこでその担当者は、「同じ紙に一枚だけ背景色を印刷すればコストダウンできる」と提案し、出版社に喜ばれました。
 指示どおり印刷物を製作することから一歩踏み込み、「エンドユーザーは誰なのか」「なぜこんな媒体を出すのか」など、お客さまやその発行物に興味や疑問を持ち、質問するなどの積極的な行動が、独自の提案を生み出す鍵といえそうです。
 
 
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