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現場主体のイノベーション
 
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地域密着でビジネスが変わる!

2015/4
1. 株式会社ダイシン百貨店 1店で住民の全世代に密着! 「お客さまが住みたい街」へ
2. 株式会社諏訪商店 作り手もお客さまも地元! 価値あるマッチングを創る
■コラム
地域密着でビジネスを変える名企業
自分たちが誇れる千葉の食産業を作り手やお客さまと長い視点で活性化

  ●作り手の世代交代を、消費者の世代交代へ
  ●作り手に寄り添い、商品を知って売る楽しさ
  ●印刷会社の地域密着とは?

現場主体のイノベーション

1. 株式会社ダイシン百貨店
1店で住民の全世代に密着! 「お客さまが住みたい街」へ
 

 東京・大森のダイシン百貨店は、二層式洗濯機や「柳屋」のポマードなどの懐かしい商品も揃え、商品配達や送迎バス運行など、高齢者に優しいお店として注目されています。しかし、同店が掲げる戦略は、地元の全世代に密着することです。駅から徒歩12分のため地元客が中心で、競合店より商品単価が必ずしも安価でないにも関わらず、たった1店で来店者は多い日で2万人、年商約60億円を誇ります。

お客さまと販売員の歴史が創る売り場

株式会社ダイシン百貨店
会長兼CEO 西山 敷さん

 同店は、食品や衣料品、家電・生活用品、「プラダ」のバッグや毛皮コート、百万円を超える高級家具も販売しています。どの売り場も品揃えが極めて充実していて、ペットフードは3千種類、漬物は300種類、味噌は180種類と、眺めるだけで楽しいほど。 「『OLDを残し、NEWを増やす』で、わずかしか売れない商品も使う方がいる限り置いてきました。地元のお客さまの歴史を大切にした結果の品揃えです」と語るのは、会長兼CEOの西山 敷さんです。
 実は、1960年代から拡大し、支持されてきた同店も、2004年頃に多店舗展開が行き詰まり、債務超過寸前となりました。そこで同店の店舗設計をしていた西山さんが社外取締役として入社し、本店以外の6店舗を閉鎖し、経営を立て直したのです。
 従来から、同店の従業員の多数が地元住民です。長年勤める人も多く、お客さまと密なコミュニケーションが交わされています。そこで西山さんは、お客さまと従業員の顔が互いに見える強みを生かし、仕入れは店頭の販売員が行うようにしています。「お探しの商品がないときは、『仕入れておきます』と返事する」(西山さん、以下同)というように、店頭でお客さまと話し、ニーズを受けて仕入れ・品出しまで行い、商品を売り切る「昔ながらの商い」に回帰したのです。
 元々の強みを徹底した地域密着の店作りは、多店舗では不可能で、今後も1店のみで進めるといいます。その決断の背景には、大手スーパーがひしめく大森で、「価格競争では勝てない。これからは『コト』の提供で勝つ」という戦略がありました。

思い出になる「コト作り」で地域を活性

1切れずつ刺身を詰め合わせた少量パックなど、一人暮らしの人向け商品も多い

 西山さんが掲げたのは「住んでよかった街づくり」です。「ダイシン百貨店は『モノ』ではなく、『地元住民同士のコミュニケーション』という『コト』を売ります。人が流れる結節点として、思い出やワクワク感を提供し、街全体を活性化したいんです」
 同店はリニューアルで広い屋上を作り、多彩なイベントをスタート。本格的な獅子舞、餅つきのある新春祭にはじまり、暦に関わるパーティーのほか、子どもプールや花火大会、昭和風のダンスパーティー、なんとホースセラピーを兼ねた乗馬体験など、幅広い世代に驚きや感動を提供しています。最大の夏祭り「山王祭」には2日間で2万4000人も来場します。
 これらの体験や出店は、ポイントカード会員なら誰でも20〜数百円単位の負担で利用でき、同店は毎回採算度外視で運営しているそうです。全て従業員が自分たちで企画を考え、会場の設営や飲食物の出店なども含め自前で運営し、イベント会社や広告代理店などを利用していないことも特徴です。
 また、店内に常設のレストランやパン屋、カフェも自社で運営し、料理やパン、スイーツも商品の生鮮食品などを使った従業員の手作りです。
  「下手でも失敗してもいいと構え、自分たちでやります。お叱りを受けても、お客さまと顔を合わせ、どうしたら喜んでいただけるかを考え、その結果となるお客さまの反応を感じることが重要です。議論や調整に時間をかけ過ぎてはだめ。多少拙速でもいいと思ったことを実行すれば、お客さまの評価は後からついてきます」


カミソリひとつとっても圧倒的な品揃え

 地域を回る送迎バスを運行したり、同店の買い物で得られるポイントや商品券を商店街でも使えるようにしたりと、直接的な地域貢献も実践しています。品揃えや接客、独自の手作りイベントで満足や感動を提供する同店があることで、地域が盛り上がり、人口が増えれば、将来のお客さまを育てることになる。だから店におしゃべりしにきてくれればいい――。そんな同店には、家族3代にわたるファンも多いのです。


イベントで提供されるのは、人力車の乗車体験、釣った魚を調理してくれる釣堀、大人も参加できる乗馬、無料のクリスマスケーキ作りなど、「ここまで楽しめるの?」というものが多い

  • 印刷会社にも歴史ある企業が多く、その地域の企業や行政と長年培った基盤を、もう一歩踏み込んで「コト作り」として展開することは重要。例えば、地域イベントの企画に継続的かつ能動的に参画し、印刷受注につなげることが考えられる。
  • 地域での「コト作り」には、地元の住民や企業、地域性を深く知り得る地元企業が有利。この利を生かし、意識的にお客さまとの接点を持ち、「顔の見える関係」を作ることや、地元のお客さまの身になりやすい地元従業員が魅力あるモノ・場所・イベントの提供を自分たちで考え、実行することもポイント。
 
2. 株式会社諏訪商店
作り手もお客さまも地元! 価値あるマッチングを創る
 

 千葉県内の小売店への食品卸を担っていた諏訪商店は2002年、千葉の食の魅力を発信する「房の駅」を立ち上げ食品の小売業へ進出。地元千葉産にこだわり、商品の魅力を強く訴求した販売やPB商品の開発で、地元住民に支持され、県内で7店舗を展開しています。伝統食品を若い人に魅力が伝わる商品に再開発したものなど、PB商品は2千以上。秋葉原のアンテナショップや通販サイトでも人気を博しています。

魅力を再発見し、思いを込めて伝え直す役目

落花生を使った諏訪商店のPB商品

 「房の駅」の開店にあたり、諏訪商店がまず手掛けたのが、全国80%の生産量を占める千葉の名産品、落花生の魅力の捉え直しでした。
 「落花生は千葉ではあまりにも当たり前となり、品質が高いにも関わらず、県内の消費者、生産者までもが『落花生なんて』という意識を持ち、生産をやめる農家も増えていました。県民としてこの状況を変えたい、プライドを持てる商品にしたいと思ったんです」
 そう語るのは、「房の駅」を統括する千葉県出身の専務取締役、諏訪聖二さんです。諏訪さんは従来の落花生のパッケージをリデザインし、千葉マリンスタジアムや成田空港で販売、これが人気となります。一時は約200軒に減った生産者も、400軒にまで回復しました。
  「新たな場所で売れてスポットを浴び、生産者の方々の励みになったのではないかと思います」(諏訪さん)
 その後も、落花生を使ったスナックや多彩なフレーバーをつけたお菓子などのPB商品が人気を呼び、落花生のイメージも販売量もアップさせました。

数々の現場を知ることで作り手の課題を解決

とれたてのフルーツや野菜、お米、多彩な海産物、千葉県の食材を使った食品やお菓子まで、2,000点以上の千葉名産がずらりと並ぶ「房の駅」

 諏訪さんは、商品の販売や開発をする中で、「自分たち卸や小売の業者は、作り手や商品のことを知らない」ということに気付きます。そこで海産物や和菓子など、千葉の多様な産品の作り手を何度も訪ねるようになりました。
  「各現場の課題の話をお聞きする機会が増えていきました。地道に続けるうち、効果的なパッケージや売り方など、卸の経験から解決策を提案できるようになったんです」
 さらには、商品の製法で困っているメーカーに、別のメーカーの技術を合わせるなどのマッチングも提案。従来にないコラボによる新商品の実現も増えています。
 作り手を訪ねる活動は、今では従業員の希望者が参加する月1回の見学・体験会に。「栗山房の駅」の店長・鴇田和也さんは、「作り手さんを知り、物作りを多少なりとも体験すると、店頭でお客さまに説明する言葉も大きく変わりました」と目を輝かせます。この活動が「地元の商品、生産者をよく知っている」という評価につながり、『安心ね』と声をかけてくるお客さまも多いといいます。世間で食品の安心・安全を揺るがすような問題が報じられた際には、逆に売上が伸びるなど、信頼は深まっています。


「房の駅」従業員が参加する、落花生作りの体験。一日をかけて、生産者の畑仕事を手伝う

 現場との密着を通して商品の魅力を再発見し、リアルな言葉で代弁することで、作り手と消費者や、作り手同士をつなぎ直す取り組みは、印刷会社が地元で担う情報媒体や商品パッケージ作りなどにも大いに通じるものがあります。

  • 同社は、地域の資源や作り手同士をつなぐことで地域のビジネスを拡張する役割を果たしている。多彩な業界にお客さまのいる印刷会社もこうした潜在力を秘めている。地域に貢献するつなぎ役に徹し、消費者や企業の信頼を得ることは、長期的な収益につながるのではないか。
  • 地元の情報を深く捉え、さらには地元の読み手の立場になり、望まれる形で伝えることは、地域の印刷会社の強みが発揮できる分野。また、地元情報の読み手がいるのが地域の内か外かにより、適切な伝え方を提案することなども価値となる。
 
■コラム
地域密着でビジネスを変える名企業
自分たちが誇れる千葉の食産業を作り手やお客さまと長い視点で活性化
株式会社諏訪商店

 以前は故郷の千葉から離れ、都心のスーパーに勤めていた諏訪さん。おいしいとされ自分が店で売っていたイチジクを食べたときに、昔地元で食べたイチジクの味が断然勝っていることに驚きました。そんな折、当時の諏訪商店の社長である兄から小売への進出の計画を聞きます。
 「千葉のおいしいものは、全然知られていないのではないか。県民が愛着や誇りを持てる食文化があるはず」。諏訪さんはそんな思いで「房の駅」の企画を始めました。

●作り手の世代交代を、消費者の世代交代へ


パートの販売員の思い入れが感じられる「妖精のお芋」の手作りPOP

 しかし当初、千葉県産の食品にこだわることに賛成する人は、社内にほとんどいませんでした。
 「初の試みでしたし、強く訴求できる名産品がないという既成概念がありました。でも、作り手さんを訪ねていくと、少数の地元民しか知らない珍味、隠れた名品があること、昔ながらの食品も作り手は世代交代していることなど、発見がいろいろありました」
 商品開発では、例えば甘納豆を若者が食べないのは、砂糖がまぶしてあり、甘すぎるからではと考え、甘納豆メーカーと協力し、伝統製法を使いながら砂糖をまぶさずにさつまいもとハチミツで自然な甘さに仕上げた「妖精のお芋」を開発。人気商品になりました。
  「伝統技術をベースに、若い作り手のセンスで少しだけ味をアレンジする、名前やパッケージを変えるだけでも、昔ながらの食品が年輩者だけでなく若い人にも好まれるものになります。そんな『消費者の世代交代』を目指しています」


株式会社諏訪商店 栗山房の駅 店長の鴇田 和也さん(左)、 通販房の駅 店長の柴崎 洋一さん(右)

●作り手に寄り添い、商品を知って売る楽しさ
 当初は諏訪さん一人で作り手を訪ねていましたが、少しずつ仲間が増え、月1回の定例に。販売員のパート・アルバイト、経理などのスタッフを含め、定員を超える希望者が殺到します。農家では草むしりやビニールハウスの組み立て、メーカーでは実際の生産ラインへの従事などを体験。同店の通販サイト「通販房の駅」の店長・柴崎洋一さんは、「同じ作り手さんでも毎回新しい面白い話が聞けて、思い入れが深まり、サイトで語りたいことや見せたい写真がたくさんあります。店頭でも、誰に言われるでもなくパートさんが率先してPOPを作ったりしています」と語ります。
 同店には、誰にでも商品企画の提案書を開発会議に提出するチャンスがあります。多くの従業員が見学会に参加するようになり、提出数も増え、内容の深さや熱さも加わり、よい商品作りに結び付いているといいます。
 同店では近年、農薬を極力使わない農産物の販売にも力を入れています。「栗山房の駅」の鴇田さんは、「生産者さんには、『農薬を使わずに虫がついたら、うちが買います。見た目が多少悪くても、本来の安全性や質の良さを伝えます。だから思い切り作ってください』とお願いしています。一蓮托生の気持ちです」と、言葉に力を込めます。
 また、同店ではお客さまに落ち着いて買い物してほしいという考えから、引き合いが多いにも関わらず、利益効率がよい観光バスの受け入れなどはしていません。「千葉の食の現状を地元の皆さんに知ってもらう店作りや、より良い商品開発に投資していきたい」と鴇田さん。千葉の食材を使った店頭でのパン作り・販売の展開なども進めています。
 長期的な構えで地元の作り手・買い手に寄り添い、地域で継続的に新しいものを生み出そうとする取り組みは、地域に根ざした印刷ビジネスの大きな可能性も示しています。

●印刷会社のイノベーションとは?
 印刷会社が地域ビジネスを担う上での強みには、【1】地域の歴史・情報・事情を深く知り得る、【2】幅広い地元業者や行政と取引があり、連携の中心になりやすい、【3】コンテンツや情報の蓄積があり、印刷という発信手段も持っている、などがあります。
 知られていない地域商品の良さを発見すること、それを効果的に伝えることは、地域の印刷会社が有利です。さらにそれらを基に、地域が求める情報の発信や、地元住民が真に喜ぶ商品・イベントの企画やサポートの担い手としても期待されます。
 その地域で歴史を重ね、地元の従業員が多い会社は、従業員が地域のことを自分事として捉えやすく、地域の消費者でもあることから、地域が必要とする商品やサービスの創出に取り組みやすいといえます。今回の事例のように、地元の歴史や産業、生活者の動向には、価値ある情報が眠っています。身近なあまり見過ごしやすい日々の情報に、意識的に踏み込むことも大切かもしれません。
 現在政府が推進する「地方創生」の動きも大きな追い風となります。地域振興策や助成金といった支援を積極的に活用することも今後重要です。

 
 
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