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お客さまとの長期的関係をつくる
 
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お客さまとの長期的関係をつくる

2014/07
1.テクノロール株式会社 現場で価値ある情報を収集・提供
2.時の宿 すみれ 「お二人様」への価値提供を徹底した旅館
■コラム
お客さまとの長期的関係をつくる名企業
業界関係者が一堂に集まり学ぶ会で 印刷現場の長期的な底上げに貢献
テクノロール株式会社

  ●若手育成とモチベーションアップに
  ●印刷以外の最新情報も提供
  ●印刷会社のお客さまとの関係構築は?

[画像]強みを「見える化」する

1. テクノロール株式会社 現場で価値ある情報を収集・提供
 
テクノロール株式会社のUV印刷用ゴムロール
テクノロール株式会社のUV印刷用ゴムロール

  テクノロール株式会社は、大阪に本社を持つゴムロールの製造・販売会社です。印刷機用ゴムロールの高い性能と品質が国内外で知られ、とりわけUV印刷用のロールや連続給水用の特殊ロールの良さで、印刷会社から印刷機メーカーに同社のロールが「指定」されることもあるといいます。
 印刷機メーカーだけでなく、印刷会社からも信頼される同社の強さはどこにあるのでしょうか。同社が掲げるのは、直接のお客さまである印刷機メーカーに加え、最終ユーザーである印刷会社の製造現場を直接訪れ、情報を収集する、徹底した「現場主義」です。営業部門の目指す姿は、「現場が分かる技術営業」。なんと、ロールを交換して印刷機に取り付け、ニップ圧調整まで行える技術を持つ営業担当者が複数名います。
 「ロールメーカーがなぜそこまで?」という問いに、販売統括を担う浅尾栄次さんは、「実際にロールが使用される現場で作業することで、現場の課題や印刷評価などの情報を直接伺えます。最終ユーザーの要望を誤読することなく、正しい開発がしやすくなります。また、トラブル発生時も技術担当との打ち合わせのため会社に戻る必要がなく、その場でお悩みを解決できることが増えるのです」と意義を語ります。
 また、技術を知って最終ユーザーに信頼されれば、印刷機メーカーには言いにくい率直な困りごとや要望を言ってもらえやすくなり、同社ではそうした声を印刷機メーカーに届ける活動もします。いわば代わりに現場でマーケティングをしているようなもので、印刷機メーカーからの満足度が高まっています。

学びと議論の場を提供する「印刷志の会」
「印刷志の会」を企画する浅尾さんや同社の従業員も一参加者として学び、質問も投げかける
「印刷志の会」を企画する浅尾さんや同社の従業員も一参加者として学び、質問も投げかける

 さらに同社は、関東支店内の一室で印刷会社を中心に、印刷機、部材やインキなどのメーカーの経営者・製造現場の実務者など、印刷関係者が一堂に会す「印刷志の会」を2カ月に一度、主催しています。毎回40〜50人、時には70人ほど集まることも。前半は講義を、その後、懇親会を兼ねた情報交換会を行います。
 テーマは毎回異なり、印刷に必要な「環境関連情報」や「工程メンテナンス情報」のほか、印刷に限らない新技術・新情報も。現場の実務者に役立つテーマを意識して選んでいます。講師は、印刷機や資材のメーカーの技術者、他業界の経営者などが務め、最先端の情報が得られます。
 参加費はなんと1回500円で、全て赤十字社へ募金。参加者の大きな負荷にはならず、無料講義のような緩んだ空気もなく、会場は情報を持ち帰ろうという参加者の熱気に包まれます。

「印刷志の会」が行われるテクノロール株式会社の関東支店
「印刷志の会」が行われるテクノロール株式会社の関東支店

 同社はここを商売の場にせず、最新情報の提供・収集、参加者同士がざっくばらんに議論を広げる場の提供に徹しており、議論のリードや自社製品の宣伝はしません。
  「特に20・30代の若手の参加者が多いのが自慢です」と言う浅尾さん。最近では京都や新潟、山形、山梨など遠方から来る若い常連参加者もいるそうです。一資材メーカー自らが、2カ月に一度こうした場を設けるには、多大な労力がかかることが想像できます。そこには、「印刷業界の今後を担う若手を中心とした現場の技術力を高め、ひいては業界全体を活性化したい」という強い思いがあります。
 営業的な囲い込みを目的とした多くの会合では、主に経営者とのつながりや短期的な収益に結び付けることが重視されがちです。それは言うまでもなく大切ですが、同時に現場を重視し、その育成につながるような地道なサポートは、お客さまとの長期的な関係性を強化する意味で非常に重要だといえます(「印刷志の会」については、次面で詳しく紹介します)。

  • お客さまの現場を訪れ、何が起きているか、何が重要視されているかを知ることは大切。また、自社製品分野の専門知識・技術はもちろん、お客さまの注目する専門情報(例えば電子看板やウェブ、SNSなど)についても広く収集・提供することも一つの鍵に。
  • 印刷機メーカーが必要とする印刷現場へのマーケティング機能を自ら担う同社のように、お客さまの印刷物の効果的なデザインや販促物の提案をしたり、印刷物の在庫管理や発注代行などを行うことも、長期的な関係構築には有効。
 
2. 時の宿 すみれ 「お二人様」への価値提供を徹底した旅館
 
 女将を務める黄木 綾子さん
女将を務める黄木 綾子さん

 2007年にスタートした山形県米沢市の「時の宿すみれ」は、珍しい「お二人様専用」の温泉旅館です。レストランなどでは席の間を広く空けて二人だけの空間を演出。部屋にはテレビや時計を置かず、ゆっくりと互いに向き合えるようにしています。さらに、「二人の時間」を特別なものにするのが、女将の黄木綾子さんの曽祖父が創業した精肉店「米沢牛黄木」の上質な米沢牛を使ったコース料理です。
 団体客や小さな子ども連れの夫婦の利用は基本的に断るなど、「お二人様」を徹底したコンセプトが伝わり、週末の宿泊は3カ月先まで予約できないほど人気です。
 同館の前身は、黄木さんの祖母が開業した一般的な温泉旅館。経営が厳しくなっていましたが、不動産業などに携わってきた黄木さんが引き継ぎました。
 黄木さんには、「前の宿では団体、お二人様、日帰り入浴のお客さまが混在し、本当にゆっくりしたい方がくつろげていないのでは」という思いが強くあったといいます。しかし、具体的なアイデアに行き着かず、リニューアルの仕方を考えあぐねていました。
 そこで、黄木さんの頭にある「お客さまに提供したい価値」を見える化すべく、コンサルタントと3日間、集中できる環境でイメージワークを実施。「大切な人同士がゆっくり向き合える場所をつくりたい」という強い思いが明確になりました。「その思いを徹底的に追求し、サービスに全面的に打ち出すといい」とのアドバイスで、「お二人様専用」のコンセプトが生まれました。
 旅館は、繁忙期を中心に部屋当たりの人数を増やして利益を上げるのが一般的。「二人ではもったいない」と、当初は周囲も反対しました。しかし、「繁忙期だけでなく平日にも来てもらう」「夫婦、親子、恋人同士、友人同士などさまざまな『二人』に響く価値を伝えればいい」と説得し、最終的に周囲も賛成しました。

 
喜ばれるサービスは、お客さまが教えてくれる
上) テラスなどの席もスペースをゆったりと空けた二人仕様 下)館内のレストランは、半個室のスペースも多く用意し、二人の会話をじっくり楽しめる
上) テラスなどの席もスペースをゆったりと空けた二人仕様
下)館内のレストランは、半個室のスペースも多く用意し、二人の会話をじっくり楽しめる

 同館では、お客さまの動きや言葉を細かくキャッチし、スタッフ全員での共有を徹底。宿泊中の要望、浴衣のサイズや食事・お酒の好み、自分について語った言葉などのあらゆる情報を、接したスタッフが付せんに書き留め、その後パソコンでデータベース化しています。客室には、感想や要望のアンケート用紙などを設置し、書き込んでもらっています。
 現在の同館の人気プランやサービスは、当初にはなかったものも多いといいます。 「記念日や誕生日の利用が多いことに気付き、『お祝いプラン』を設けたり、女性やシニアの要望から、食事は少量ずつでその分上級のお肉を提供するプランができました」と黄木さん。一組一組に注意深く接し続けた成果です。
 また、接客や部屋割り、装備が全て二人向けになったことで、当初は意図しなかったものの、結果的にオペレーションが効率的になったそうです。さらに、スタッフが「二人のため」に集中することで、そのための所作や気遣いを磨いたり、新たなサービスやオペレーション改善のアイデアが出やすくなったりもしています。
 二人客以外を断る「勇気」は生半可なものではありませんが、そこまで徹底したからこそ、お客さまを惹きつけたといえそうです。

 
リピーターを逃さない細やかなフォロー
「時の宿 すみれ」のウェブサイトでは、トップで「お二人様専用」を大きく伝え、「初めての方へ」のページでも語るコピーでコンセプトを伝えている
「時の宿 すみれ」のウェブサイトでは、トップで「お二人様専用」を大きく伝え、「初めての方へ」のページでも語るコピーでコンセプトを伝えている

 同館は、近年は特にウェブでの情報発信や、利用したお客さまへのフォローにも力を入れています。
 ウェブサイトのトップには、「お二人様専用、全10室の一軒宿」「おふたりの特別な時間のために」など大きな文字のコピーでコンセプトを伝えています。さらに米沢での過ごし方の提案、利用者に書いてもらったアンケートの手書きの文字など、手作り感のある情報を満載。「女将のブログ」も毎日更新し、旬な情報を発信します。
  「ウェブには以前はあまり内装や料理、私自身の画像なども載せていなかったのですが、情報を多くしてオープンにしたところ、意外にもお客さまが、ご自分の手書きアンケートや写真も載せていいよ、載るとうれしいと言ってくださるようになったんです。定期的にコメントされる方も多いです」と言います。
 初めての宿泊客には、黄木さんが一組一組に手書きのお礼状を送っています。2回目以降の宿泊客には年に4回、その時期の自然の様子や地元のイベント、旬の食などの情報に、リピーターだけの特典情報を添えたニュースレターを印刷して送っています。細やかなフォローと飽きさせない・忘れさせない情報発信で、リピート率は45%に達しています。

  • お客さまにとって価値のある自社コンセプト(印刷会社は環境配慮や短納期対応など)をぶれずに追求し、伝え続けることで関係が強化。場合により、属性ごとに訴える価値を絞り込み、営業の仕方やサービスを使い分けることも効果がある。
  • お客さまから得た情報を逃さず社内で共有し、担当者が変わっても引き継ぐ努力は不可欠。納品後の様子の確認や定期的な情報提供など、人的なフォローアップも重要。その中で真の要望を読み取り、応えていくことが長期的関係につながる。
 
■コラム
お客さまとの長期的関係をつくる名企業
業界関係者が一堂に集まり学ぶ会で 印刷現場の長期的な底上げに貢献
テクノロール株式会社

 テクノロール主催の「印刷志の会」のスタートは2008年。世界景気の急激な不安定化の一方で、LED-UV印刷機の発表やデジタル印刷の本格商用化などのイノベーションがあった年です。
 同社では、この激動の時代に印刷業が生き残るためには、「印刷現場のムダを省き、効率化する」「安全や環境などの問題に着実に対応する」という2つの課題について、業界全体で積極的に学ぶ必要があるのではないかと思い至ります。現場が今後業界で役立つ情報を能動的に学ぶ場を、「印刷志の会」を通じて提供しようと考えたのです。

 
2014年5月の「印刷志の会」。話題の「3Dプリンター」の多様な技術方式の解説や、今後の用途、ビジネスの可能性について、メーカーの技術者が講義を行い、質疑応答も多かった
2014年5月の「印刷志の会」。話題の「3Dプリンター」の多様な技術方式の解説や、今後の用途、ビジネスの可能性について、メーカーの技術者が講義を行い、質疑応答も多かった

●若手育成とモチベーションアップに
 会の企画・運営を担う浅尾さんにはもう一つ、気になっていたことがありました。印刷工程で課題が発生したとき、印刷会社は印刷機、資材、インキの各メーカーと個別に話し、原因究明や解決策の提案を依頼するのが普通です。
 「でも、印刷関連の技術者が一度に集まれば、もっと効率よくいい解決方法が見つかるのではないか。最終的には『印刷志の会』が、そんな解決のきっかけになればと考えています。これからは、業界に必要な情報は社内でため込まず、外に発信する時代です」(浅尾さん、以下同)。
 会では、講義はもちろん、懇親会でのインフォーマルで率直な意見交換も、参加者にとって大切な機会になっています。職場を離れ、他企業の従業員との意見・情報を交換する中での気付き、横のつながりから得られるものが大きいからです。特に、印刷会社の若い現場の担当者には得がたい機会です。彼らが懇親会で、普段交流のないメーカーの技術者に質問したり、他社の経営者と語ったりする場面も見られるそうです。結果として印刷会社は、若手の教育、生の情報を通して業界の最新動向に触れることによるモチベーションアップを、この場で実現できます。
 もちろん、テクノロールの営業担当者にも、技術や業界動向の知識の習得、さまざまな立場のお客さまの本音、困りごとを学ぶ貴重な場です。営業担当以外の全スタッフがお客さまを迎え入れ、「現場主義」に向かう姿勢も醸成されています。

テクノロール株式会社  取締役 販売統括の浅尾 栄次さん
テクノロール株式会社
取締役 販売統括の浅尾 栄次さん

●印刷以外の最新情報も提供
 「印刷志の会」の2014年5月のテーマは、「3Dプリンター」。同社の中心商材である印刷用ローラーとは関わりの弱いテーマです。
 「もちろん、環境問題への対策など、印刷現場が切実に必要としている技術情報の講義もしていますが、それだけでは面白くないので、時にオフセット印刷から離れた、でも多くの業界関係者が興味を持っている話題も選んでいます」
 講師には、3DプリンターのB to B用途でトップの技術を持つ企業の技術者を招き、参加者からの多様な質問が飛び交いました。
 以前には同社のロールが使われるオフセット印刷機のライバルといえるデジタル印刷機をテーマに選び、参加者にも驚かれたそうです。
  「今後もオフセット印刷はなくなりません。デジタル印刷を含め業界全体が活性化し、印刷会社の収益が上がることが当社の収益につながります。特に業界の未来を担う若い人材の力の底上げが最も重要です」
 同社の姿勢は、オフセット印刷用のロール分野で優位性を持っているからこそのものともいえますが、このように、お客さまの業界全体に役立つ情報やサービスを提供する取り組みは、印刷会社にも参考になるのではないでしょうか。

 

●印刷会社のお客さまとの関係構築は?
 お客さまと長期的な関係を築くには、継続的な取り組みが必要です。納品して終わりではなく、その後もお客さまの業界や属性、課題に合わせて、印刷物の加工や折りなどの情報、効果的な販促方法、デザインのノウハウなどを継続的に提供することで、お客さまが自社と結び付く価値が高まります。環境配慮や省エネ、短納期への取り組みなど、製品に織り込まれた価値を知ってもらうために、製造現場をお見せすることも一案です。
 また、印刷生産の枠を飛び出したお客さまの業務を代行することで、印刷受注に結び付けられる可能性もあります。帳票類の在庫・生産タイミングの管理や、お客さまの先の市場のマーケティングなどの業務が挙げられます。自社で生産できる印刷物だけでなく、協力会社も活用しながら、同一コンテンツを使ったウェブサイトづくりや電子媒体を提案することで、ワンストップの利便性を提供すると同時に、他社の参入を阻止しお客さまの囲い込みにつながります。
 取り上げた事例のように、長期的視点に立った情報提供や心遣いといったアナログ的な要素も有効に働きます。

 
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