CLUB GC
表紙へ グリーンレポートへ 技術情報へ Q&Aへ アンケートへ
強みを「見える化」する
 
すぐに分かる! 注目の経営手法や市場の「今」 グリーンレポート

強みを「見える化」する

2014/04
1.今治タオル 本質的な強みの訴求で 産地存続の危機を回避
2.ハードロック工業 商品の良さを 丁寧に伝えていく
■コラム
強みを「見える化」する名企業
「よい商品」でもそれだけでは売れない。メリットを誰にでも分かるように伝える。
ハードロック工業株式会社

  ●安心やメリットを具体的に
  ●「見える化」の秘訣はサービスの心
  ●印刷会社の「強みの見える化」とは?

[画像]強みを「見える化」する

1. 今治タオル 本質的な強みの訴求で産地存続の危機を回避
 

 高品質のタオルとして知られる「今治タオル」。日本一のタオル生産量を誇る愛媛県の四国タオル工業組合が、独自の品質基準を満たしたタオルのみに認定しているブランド名です。
 現在では百貨店やセレクトショップなどで人気を博していますが、実はブランドを作った2006年の少し前まで、産地として存続の危機に直面していました。しかし、組合員に共通して危機意識が高まったことなどから、自らの本質的な強みの「見える化」に成功し、ブランドの認知度拡大、生産増などを実現しました。

試行を繰り返してきたブランド化

 四国タオル工業組合では、1991年に5万トンとピークに達していた生産量が、2006年には4分の1程度の1万2000トンにまで落ち込み、メーカー数も500社から145社に減少しました。原因の一つが、中国製品などの安価な海外製品の流入。そこで2001年、政府にセーフガード発動を申請しましたが、2004年4月に発動見送りが決定されます。専務理事の木村忠司さんは「このままでは産地が消滅する、と感じた当時の理事長の強い呼びかけの下、相当な危機意識が関係者全体に共有されました」と当時を振り返ります。
 そこで今治市、今治商工会議所と連携してブランド化に取り組むことになり、2006年からアートディレクターの佐藤可士和氏を迎えた「今治タオル プロジェクト」が始まりました。
 まず着手したのが、「訴求すべき強みの明確化」です。
 「実はそれまでも何度か『ブランド化』を試み、強みの洗い出しや品質基準作りの議論をしてきました。でも、うまくいかなかったんです。今考えると理由は二つあり、まず高級ブランドOEM、名入れタオル専門など、多様なメーカーがいる中で、危機意識の共有が足りず、明確なビジョンの下で結束できなかったことです」(木村さん、以下同)

複数の強みから「本質」を見つける

 もう一つは、「強みの打ち出し方」が正しくなかったからだといいます。
 今治タオルには柔らかさ、吸水性、丁寧な製造工程など多くの強みがありますが、他の産地との差別化が容易な、「軟水に恵まれることによる染色の美しさ」「柄を表現する織り技術の高さ」を訴求してきました。
 しかし、今治タオルに触れ、特徴や工程などについての知識を深めた佐藤可士和氏から、「もっと消費者にとっての本質的な 価値 を訴求すべき」と指摘されたのです。
 「他の産地と比べるのではなく、ユーザーにとって最も本質的な魅力は何か。目が覚めた思いでした」
 同組合はこの視点で訴求ポイントを見直し、「吸水性」「安心・安全」をメインに訴求することにしました。
 訴求方法も見直しました。議論を重ねる中で課題として浮かんだのは、実際にタオルを使う消費者には今治のタオルの良さがほとんど知られていないことでした。そこで、通常の販売チャネルへの訴求だけではなく、新たに直接、消費者に訴求することにしたのです。

同組合のウェブサイトに公開されている品質基準とその試験方法 (一部抜粋)
同組合のウェブサイトに公開されている品質基準とその試験方法 (一部抜粋)

白いタオルと品質基準で消費者に訴求

 2007年、ブランドの象徴となる新商品として、柄や色に頼らない「白いタオル」を国内展示会で発表。その後、ウェブサイトでも展開し、本質的な 価値 である「吸水性」「安心・安全」を伝えることを狙いました。
 また、11項目の品質基準とその試験方法もウェブサイトで公開し、これらをクリアした商品だけがブランドマークを使用できることを訴求しました。ポイントである吸水性については、従来の基準を修正し、「タオルを水の上に乗せてどのくらいの時間で沈むか」を見る試験では、従来の「1分以内」から「5秒以内」へと厳しくしました。この試験の動画がマスコミに紹介されたところ、とても分かりやすく、消費者の反響が大きかったといいます。
 近年では併せて、各メーカーの代表が約80時間をかけ、認定方法やメーカーが守るべきルールを決めた「今治タオルブランドマニュアル」も公開しています。品質基準・ブランドマニュアルの外部への公開は、組合員にとっても、自らの強みを常に意識し、品質を高く維持しようとする自然な意識付けにつながっているといいます。
 同組合では、「今治タオルの良さを消費者が実感できる場づくり」も重視し、大手百貨店の協力を取り付け、ブランドマークやパンフレットで「今治ブランド」を打ち出した販売をしたほか、2012年には東京・南青山に待望のアンテナショップを開設しました。
 産地消滅の危機に、新たな強みを開発するのではなく、従来から存在した強みの本質を再認識した上で発信し、起死回生を実現した同組合の取り組みは、自分たちが当たり前と思っていた強みをお客さま目線で見直し続け、訴求し続けることの大切さを教えてくれます。

愛媛県外で初となった、東京・南青山の直営店。今治タオルの品質を手にとって体感できます
愛媛県外で初となった、東京・南青山の直営店。今治タオルの品質を手にとって体感できます

 
  • 自らの強みを認識するにあたっては、まず訴求すべきターゲットを見極めることが大切。アピールの仕方もターゲットに応じて変えていく必要がある。
  • 自らの持つ複数の強みの中で、「お客さまにとって本質的な 価値 となるものは何か」を追求することがポイントになる。作り手・売り手として重視している強みが本当に正しいのかということを、批判的に見ることが大切。
 
2. ハードロック工業 商品の良さを丁寧に伝えていく
 

 ”絶対に緩まないナット “ 「ハードロックナット」で、海外からも注目を集めるハードロック工業。ものづくりのメッカ、東大阪に本社・工場を構える従業員約50人の企業です。
 「ハードロックナット」は、特殊な凹凸形状を持つ2つのナットでくさびの効果を生み、大きな衝撃にも緩まないという、ナットの常識をくつがえした商品。新幹線や東京スカイツリーにも採用され、高い知名度を誇ります。しかし、画期的な強みが市場に浸透するまでには、お客さまへの訴求についても創意工夫の連続でした。

 
無償サンプルで実感してもらう
ハードロック工業の 商品カタログの改善事例ページ

 ハードロック工業の若林克彦社長は1974年、「ハードロックナット」を開発。その前に立ち上げた別方式の緩み止めナットの製造・販売会社を共同経営者へ譲渡し、新しく「ハードロックナット」の製造・販売会社を始めました。以前のナットの豊富な販売実績から、1年程度で軌道に乗ると予測しましたが、これが大きく外れ、約3年間も販売実績がない状態が続きました。
 「前のナットも、緩まないという圧倒的な特長があるにもかかわらず、売れるまでに3年かかったんです。よい商品でも、お客さまにいかに役に立つのかを伝える手間が欠かせない、ということがよく分かりました」
 若林社長と3人の社員は、資金繰りが苦しい中で挫折しそうになりながら、「ハードロックナット」の価値を信じ、府内・周辺県の機械メーカー、機械ユーザーを1社1社しらみつぶしに回って無償でサンプルを配り、使って良さを感じてもらう活動を続けました。

 
見えない強みには新しい「魅せ方」を

 地道な営業でポイントになったのは、これも自社開発した、なんとお客さまの元に持っていけるポータブルの「ねじ緩み試験器」による訴求でした。
 これは、米国航空規格のねじ緩み試験に基づき、締めたナットに激しい振動を加え、緩みの度合いをテストするもの。若林社長は、このポータブル試験器を使い、お客さまの目の前で他社商品や自分の以前の緩み止めナットとの比較実証テストをし、「緩まない」という強みを一目瞭然にしました。ほかにも、世界的にねじ緩みテストとして知られているさまざまな試験を行い、結果をすべてウェブサイトで公表しています。

 
分かりやすいと潜在顧客にも響く
同社がウェブサイトで公表しているテスト結果 (一部抜粋)
同社がウェブサイトで公表しているテスト結果 (一部抜粋)

 また興味深いのが、同社のウェブサイトやカタログは、プロだけを対象とせず、業界外の人も理解しやすいようテスト結果や性能がひと目で分かる図表や写真・動画を多用していることです。特に約200ページに及ぶカタログの約半分は、一般的なナットとボルトの構造や、締め付け・緩みの原理、性能試験の方法や目的の詳しい解説に割かれています。ナットとボルトの世界を知るための事典のようになっており、幅広いお客さまに喜ばれています。
 「なるべく分かりやすくしておくことで、潜在顧客にも訴求できます。ナットの緩みに関心がなかった方からも問い合わせが来るようになりました」
 こうして3年をかけ、「ハードロックナット」は、「緩まない」という画期的な強みが着実に伝わり、急速に採用されていきました。
 同社の強みの「見える化」は、すぐに利益に直結しなくとも、誰にでも分かるように、さらには興味を引き出すようにとの工夫がなされ、一つのサービスになっているといえそうです。「ただ売るだけでは商品の良さは伝わらない」ということを踏まえているからこその取り組みです(同社の「見える化」の取り組みは次面でも紹介します)。

  • 強みをお客さまに理解してもらうには、しかるべき手間をかける必要がある。新しい強みには、「魅せ方」を新しく創ることも必要。
  • 強みの「見える化」の対象を広くし、なるべく分かりやすく訴求することで、想定顧客にも効果的に伝わる上、潜在顧客の課題意識を引き出すことにもつながる。
 
■コラム
強みを「見える化」する名企業
「よい商品」でもそれだけでは売れない。メリットを誰にでも分かるように伝える。
ハードロック工業株式会社

 一般的なナットの価格が「W3/8サイズ」で1個5円程度の中、「ハードロックナット」は2個使うためもあって約50円。「緩まない」という強みで現在でこそ世界中で重宝されていますが、浸透するまで約3年がかかりました。
 「新しい商品を売ること、新しいお客さまに売ることはとても難しい。植物のように、種まきをし、手入れをして育てるには時間がかかる。しかし根付くと強いんですね。だから私たちは無償サンプルを提供し、テストで性能を伝えて実績を作り、またそれをPRして、土壌を作り続けています」

ハードロック工業の 商品カタログの改善事例ページ
ハードロック工業の 商品カタログの改善事例ページ

●安心やメリットを具体的に
 「ハードロックナット」は、航空機・鉄道・橋梁・重電プラント・ボブスレーのそりなどにも使われています。
 「これらの場所では安全が最優先。ナットが緩んだら大変なことになります。そのため、当社では可能な限りさまざまな衝撃への耐性をテストし、結果を公表しています。また、一般的なナットの原理や当社ナットの構造を分かりやすく伝えることで、ナットの緩みに関する理解を深め、リスク回避に役立てていただきたいと思っています」
 また、採用実績は画像とともに次々にカタログに掲載し、それを持ってお客さまに紹介してきました。
「お客さまにとって、どんな場所に採用されたかという実績は安心につながります。販売当初から口頭で伝えるだけでなく、必ず形あるもので見せるようにしています」
 カタログでは、さらに「改善事例」も紹介し、商品を導入して不具合が解消したり、安全性や生産性が高まったりしたケースを業界別に数多く紹介。改善の前と後の状況も説明しています。
 「例えば、従来新幹線のレールの継ぎ目に使われていた一般のナットは緩みが出ることから、定期的に『増し締め』という補修作業が必要でした。そこに緩まない当社のナットを使うことで、作業を減らせて省力化やコストダウンができます」  
 一般と比べ約10倍近い価格のナットが売れているのは、お客さまのメリットを具体的に訴求していることがポイントのようです。

若林克彦社長。取材の日も、近隣の中学生が3日間にわたり工場で働く研修の対応で、彼らと直接話をし、一緒に記念撮影をするなど、サービス精神にあふれていました
若林克彦社長。取材の日も、近隣の中学生が3日間にわたり工場で働く研修の対応で、彼らと直接話をし、一緒に記念撮影をするなど、サービス精神にあふれていました

●「見える化」の秘訣はサービスの心
 同社が「見える化」を徹底するのはなぜでしょうか。背景には若林社長の持論「タライの理論」があるようです。タライの水は手前に引けば引くほど、両脇から水が向こう側へ流れ、逆に向こう側へ押せばこちら側へ水が流れます。若林社長はこの水を「徳」に例え、「相手のためになりたい」と考え行動した「徳」は、めぐりめぐって帰ってくると考えています。
 「ただし、相手に見返りを期待してやってはだめなのですが(笑)。前の緩み止めナットの会社の時代には、売ることに注力し過ぎて、クレームをいただいたり、ビジネスが滞ったりしました。その経験から実感したことです」
 画期的な技術で注目される同社には、政府関係者や企業が頻繁に訪れるほか、幼稚園から高校生までの見学も積極的に受け入れています。子どもたちの見学は一見ビジネスと関係がなく、経営の負担になると考えがちですが、同社では、長期的には潜在顧客になったり、知名度の高まりにつながると捉えています。
 他者の現状を良くしたい、喜ばせたいと考えた結果、「分かりやすいか」「見て楽しいか」を工夫したサービス精神あふれる「見える化」が、同社ビジネスの原動力の一つになっているようです。

 

●印刷会社の「強みの見える化」とは?
 例えば企業の印刷ユーザーは、「世代交代で印刷のことが分かる人材がいなくなった」などの事情で、印刷発注者が印刷前後も含めたフローを把握しているケースが減っています。これに伴い、「標準的な納期や価格、どの印刷がどの用途に優れているのか、などを教えてほしい」というニーズは多く存在しています。印刷フローや発注時に気をつけたいポイント、自社の品質基準や得意とする印刷技術、サービスの優位点などを、資料やウェブサイトでかみくだいて訴求することが有効ではないでしょうか。
 また、商材を手に取ってもらい、欲しいものに気づいてもらうことも有効です。一般消費者へのワンストップサービスを強みにしている福岡県のある印刷会社では、学校やNPO、サークル等のユーザーに、カタログやSPツールなどのサンプルを見て触れてもらうショールームを開設。さまざまな印刷物やTシャツなどのグッズの一括受注件数の増加に成功しています。
 自社の強みの「見える化」には、まだまだ出来ることが残されているのではないでしょうか。

 
back
Copyright(c) FUJIFILM BUSINESS SUPPLY CO., LTD. All Rights Reserved.