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明日を担う人材育成
 
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明日を担う人材育成

2013/7
1.個人の技能を高める
2.チーム力を高める
3.常に学ぶ土壌をつくる
■コラム
人材育成の名企業
時代や環境が変わっても一人で立てる人材を育てれば、会社は強くなる
株式会社千田精密工業

  ●仕事の意味を基礎から理解させる
  ●気付くための助け舟を出すのが上司
  ●独自の挑戦をきちんと評価する

[画像]明日を担う人材育成

1.個人の技能を高める
基礎を深く理解させることで自ら気付き、発想する人材を育てる

 千田精密工業(岩手県奥州市、千田伏二夫社長)は、F1レーシングカーのエンジンに使われる一点物の精密な部品群を手掛けるなど、金属加工の精度の高さで知られる企業です(詳細は3面の囲みを参照)。自らを「技術集団」と位置付ける同社は、「会社に守られなくても仕事していける職人」を育てています。職人の育成で重視するのは、コンピューター制御の工作マシンが当たり前の現在ではあまり使われなくなった、手で制御する旧式マシンで物を作る技術を最初に身に付けさせ、一つひとつの工程の意味に気付かせること。そうした「気付きの基礎」があるからこそ、自動化された多機能の工作マシンを独自の発想で使いこなし、その性能を大きく引き出して、高付加価値の製品を生み出せるのだといいます。

高度な技能を細かく「見える化」。技能伝承と自己研鑽につなげる

 一方、製鉄や製紙などに使われる、直径1mを越える金属製の「圧延ロール」の製造で世界トップクラスの技術を持つ小出ロール鐡工所(千葉県習志野市、小出明治社長)は、技術伝承に「技能マップ」と呼ばれる独自の方法を用いています。「1000分の1丱譽戰襦廚寮催戮問われる研磨技術は、職人の経験と勘に頼るところが大きい分野です。
 「技能マップ」は、そんな職人一人ひとりの方法やスタイルで磨き上げられた一連の技術を細かく分解して、若い職人に少しでも円滑に伝承することを狙いとした、技能の「見える化・マニュアル化」の試みです。素材(鉄)から最終製品(圧延ロール)に至る製造工程に沿って「研削盤作業」「旋盤作業」など12分野に大別。各分野をさらに10項目ほどに細分化し、項目ごとに習得すべき内容を定めています。
 それぞれの作業内容は「非常に難しい」「難しい」「さほど難しくない」の三段階に分けられ、それと照らし合わせ、技術者が自分の「実力」を確かめることもできます。そのため、自分の弱い部分を研鑽するための指標としても役立てられており、会社側もより効果的な研修内容の企画や個人評価に活用しています。

[画像]小出ロール鐡工所の技能マップ(一部)

小出ロール鐡工所の技能マップ(一部)

  • 製造のIT化が進んでも、基礎となるアナログの技術や工程を理解してこそ、最新の機器を正しく使い、価値あるものを作れる。印刷現場でも、一時代前の工程や技術について、ひととおり学んでもらうことが、印刷という仕事の本質を理解し、高品質の印刷物を提供するポイントになるのではないか。
  • 印刷も、業務のデジタル化、自動化が進んでいるとはいえ、依然として属人的な技術が重要な意味を持つ業種。膨大な自社技術を若手社員が理解できるよう、体系的かつ細分化して整理し、見える化する試みは有効ではないか。
2.チーム力を高める
現場業務をローテーションで経験し仕事の目的や経営の基盤を体得

 ヤマト運輸(東京都中央区、山内雅喜社長)は、事務系社員の育成の柱として、入社直後から本配属までの2年間、現場業務をひととおり経験させる「ジョブローテーション制度」を導入しています。会社全体における仕事の意味や「仕事のつながり」の大切さを、身をもって学ばせるのが狙いです。
 1年目は、お客さまと接する第一線である、地域の「センター(営業所)」に年間を通して配属され、荷物の仕分けや配送、接客応対、営業サポートなど、センターのすべての業務を任せられます。2年目は、地域のセンターをまとめる全国約70カ所の「主管支店」に移り、センターを後方支援する経理や営業、人事労務など、1〜2部署の仕事を経験します。
 この制度は「入社して最初にお客さまや現場を間近で見ることで、ビジネスの本質をしっかりとつかみ、経営全般について考える基盤が身に付く絶好の機会」と同社は捉えています。「社員の仕事に対する理解が深まったためか、制度を取り入れた1987年から中途退社する社員が減り、最短の入社後5年で役職者になる社員が増えています」(人事総務部 江原美江さん)。

部門を越えた同期の絆で良質のサービスをスムーズにお客さまへ

 「お客さまに感動を与えるビジネス」として進化を遂げるホテル業界。「目の前のお客さまに喜んでいただくベストなおもてなしをする」という同じ目的に向かい、従業員の力を結集することがますます重要になっています。
 ホテルオークラ東京(東京都港区、清原當博社長)では、ゼネラリスト候補の人材も、調理職のようにスペシャリストを目指す人材も、配属先に関係なく、入社式から導入研修までを一緒に経験させています。配属後の定期研修でも、部門を越えて同期同士を交流させ、「横」のつながりを認識できる環境を整えています。仕事で苦しい局面に出会っても同期の存在が支えになり、孤立せずに済むようにという配慮です。
 ホテルも印刷会社のように、高い専門性を持った複数の部門で構成されています。他部署の役職者に、若手が直接交渉やお願いをしても話が通らないこともあるといいます。そんなとき、絆を深めた同期の従業員が橋渡しをするなど、研修が部門間のスムーズな連携につながっています。

[写真]ホテルオークラ東京の新入社員研修

ホテルオークラ東京の新入社員研修

  • 社員が若いうちに、さまざまな部門の実地での業務を経験させたり、部門間のコミュニケーションを深めたりすることは、全社の中での仕事の意味を認識させ、他部門の立場やつながりを大切にする意識につながる。
  • 制作と営業を二大部門とする印刷業界でも、ある程度の期間をかけ、互いの仕事を経験したり、間近でじっくり見ておいたりすることは必要ではないか。
3.常に学ぶ土壌をつくる
教え合う楽しさで、ノウハウの共有とモチベーションアップの相乗効果を

 ウェブを通じて不動産情報サービスを提供するネクスト(東京都港区、井上高志社長)は2009年、仕事に役立つノウハウを社員が学べる「ネクスト大学」を社内に開設しました。
 その構成は、全職種が対象の「ビジネス学部」、営業職向けの「営業学部」、エンジニアやデザイナーなどウェブ開発職種向けの「ものづくり学部」の3部門。受講科目は「必須」「選抜」「選択」の3つで、中でも「選択プログラム」(ゼミ)は所属部署を問わず受講でき、業界研究やウェブ開発の基礎など、さまざまな知識・ノウハウが学べます。選択プログラムの講師は外注せず、ほとんどを社員が務めているのが特徴。入社2年目の若手社員が「教壇」に立つこともあります。
 2012年は計40ゼミを開催。「DiGiMa(デジタルマーケティング)ゼミ」では、社内で導入したウェブ技術を使ったマーケティング事例を紹介し、マーケッター、プランナー、プロモーターのノウハウを共有。また「ベーシックデザイン実践ゼミ」では、デザイナーが講師となり、効果的・効率的なパワーポイントの作成方法を伝授。営業職や企画職に人気を博しました。
 この取り組みは、常に新しいものを学ぼうとする社員の意欲を養うことに貢献。また、普段の業務では関わりが少ない社員同士が一緒に学ぶことで、個人のノウハウや最新技術・情報の共有、部門間コミュニケーションも自然に生まれています。
 講座の中身やテキスト作りも講師役の社員が担当。講師には会社から、講議に必要な事前の勉強や外部研修への参加、書籍購入の費用のサポートがあります。
 教える側の成長にも大きな効果があるといいます。講師として知識を正しく効果的に伝えようする過程で、あらためて深く学ぶからです。教えて喜ばれることで、仕事へのモチベーションアップや自信にもつながり、講師に立候補する社員も増えています。

  • 変化の激しい最新技術や顧客トレンドをつかむことが必要な印刷会社でも、社歴や職制を越えて社員が教え合う仕組みをつくり、個々のノウハウ・情報を効率的に共有することは、大いに役立つのではないか。
  • こうした取り組みには、教える側にいかにインセンティブをつけ、継続的に社員が教え合う土壌を作れるかがポイントになる。

[写真]「ネクスト大学」のゼミの様子

「ネクスト大学」のゼミの様子

■コラム
人材育成の名企業
時代や環境が変わっても一人で立てる人材を育てれば、会社は強くなる
−株式会社千田精密工業−
千田  伏二夫社長
千田 伏二夫社長

 チタンやニッケルなど、加工の難しい非鉄金属を1000分の1个寮催戮濃転紊欧覿眤芦湛を実現。半導体・液晶の製造装置や自動車の名だたるメーカーが格別な信頼を寄せるのが、岩手県の千田精密工業です。1999年に優勝した「無限ホンダ」など、F1エンジン用の特注の部品群も手掛けます。卓越した加工精度でお客さまに応える職人たちは、なんと20〜30代が中心です。


●仕事の意味を基礎から理解させる

 大手プリンターメーカーの製造現場で精力的に独自技術を身に付け、33歳で千田精密工業を設立して34年、千田伏二夫社長は、「人づくり」を経営の柱にしてきました。
 最近の切削や研磨の工作マシンはすべてコンピューター制御ですが、若い職人には手で制御する古いマシンを使わせます。同社は、太陽電池や天体観測関連などの最新分野でも顧客の要望に応えることのできる高い技術を持っていますが、 実は、その秘訣の一つがここにあります。
 「コンピューター制御のマシンは、手で制御していたのと同じ工程を自動化したもの。しかし、マシンがいくら進化しても、コンピューターが置き換えた元の作業一つひとつが仕事の基礎。その技術を自分の中でしっかり理解しているかどうかが、実力の歴然とした差になるんです」(千田社長、以下同)。その実力とは、工程のムダを鋭く見抜き、それを省くために最新のマシンを効果的に使ったり、技術を自由に応用して全く新しいものを作ったりする力です。
 印刷会社でも、制作から営業までの全社員が印刷の技術や工程、歴史を深く理解し、自分や他部門の仕事の面白み・大変さ・誇りなどを実感することが、自社製品の付加価値に気付くことにつながるのではないでしょうか。その知識と思いが、真に喜ばれるものを生み出す力になるはずです。

●気付くための助け舟を出すのが上司

 千田社長は、職人の育成に最も大切なことは、「この仕事、この工程は何のためにあるのか」を気付かせることだといいます。
 同社の製品は、数々の複雑な工程を経て作られていますが、製造現場には「ライン」がありません。一製品の全工程を一人が担当するのです。新卒の職人へのOJTでは、最初に先輩や上司の仕事を見せ、後は自ら選んだマシンで試行錯誤して製品を作らせます。上司は手順を教えずに部下の様子を見守り、部下があらゆる角度から現状を把握できるよう、ひたすら質問を投げかけます。いま何が問題なのか。どのマシンをどんなふうに使えば、もっとうまく作れるのか。
 「じれったくても急がせず、本人が気付くまで待ちます。職人の成長には、答えを考え抜くための手助けをしてくれる上司や先輩と一緒に、意味あることを自分で成し遂げる経験が大切なんです。それをある程度積み重ねると、あとは自分から、楽しみながら柔軟に発想するようになります

●独自の挑戦をきちんと評価する

 「技術の進歩は止まりません。だから職人は、新しいやり方を発想する柔軟性を持ち、独自の技術を磨き続けなくては」と千田社長。新分野の顧客を開拓し、一人の職人に多様な製品を担当させています。
 それと同時に、職人の独自の挑戦や工夫を促す仕組みを用意することも必要だと考えています。
 同社では、製造での失敗をマイナスに評価しません。失敗事例は、貴重な学びの材料として、担当した職人に全員の前で発表させます。他の職人も過去の経験談を交えて一緒に事例を分析。その中で多くの職人が失敗していることも皆に分からせます。
 また、「技能検定」の受験も支援し、合格者には資格給をプラス。マシン制御のプログラミングなど公的な認定制度がない分野も、新しい技術を取得した人のために「担当職」を積極的に新設し、給与を上げて評価します。  そして究極の制度が、40歳を目安とした独立の奨励です。独立にあたりマシンも与え、業務を請け負わせるなどバックアップします。今までの独立者は10人ほど。大切に育てた職人の流出は困るのでは、という問いには、「果敢に挑戦した職人でも、多くが年を重ねると守りに入ってしまう。挑戦を恐れ、部下の成長を妨げるよりも、外で挑戦して実力を伸ばし、互いに技術を持ち寄る当社の共同体になってほしいんです」。
 自らの頭で発想し、自分で自分を支えられる人材を育て続ける。それが、時代に生き残る会社を育てることでもあるようです。

[写真]株式会社千田精密工業

千田社長は、悩みながら仕事する若手の職人に、さまざまな答えの可能性を考えさせるべく、楽しそうに語りかける。「職人が一人前になるには最低3年はかかりますが、それ以降も上司が助け舟を出します。
いわば一生OJTをしているようなものですね」

 
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