CLUB GC
表紙へ グリーンレポートへ 技術情報へ Q&Aへ アンケートへ
クラウドサービスで変わる印刷ビジネス
 
すぐに分かる! 注目の経営手法や市場の「今」 グリーンレポート

提案営業で、新しい価値を創る!

2012/07
1.商品やサービスは課題解決の手段に
2.隠れたニーズを見つけ、なかった市場を創る
3.印刷業界の進むべき道は?
4.提案営業の名企業
  クレームを逆手に新しい傘の魅力を提案
  ●提案のキャッチボールを交わす
  ●魚のいない池に釣り糸を垂らす

Create New Value

1.商品やサービスは課題解決の手段に

 製造業であれ流通業であれサービス業であれ、ビジネスの多くは、商品やサービスが供し手から受け手に移り、それに見合う代価が支払われることで成り立ちます。その過程で重要な働きを担うのが営業という仕事です。とりわけBtoBの場面では、営業力の優劣が同業他社との競争の決め手になることがあります。  かつて、営業といえば、顧客のところに出向き、注文をもらってくる、いわば「御用聞き営業」で事足りた時代がありました。これに対し近年は、顧客の抱える悩みや問題に耳を傾け、それらの解決策や方法などを提供する「提案営業」が増え、さまざまな業界で成果を挙げています。
 むろん、「提案営業」といっても、その意味合いや手法は業界によって異なります。
 例えば、加工食品などの卸売を行う三菱食品(東京都大田区)は、旧来の「問屋業」から脱却するため、仕入先の食品メーカーを原料調達や加工面で支援する一方、販売先である小売り企業には刻々と変わる売れ筋や戦略商品情報など、豊富なデータ収集とその分析を踏まえた、実践的な売り場づくりを助言しています。
 家電製品や自動車などに使われる金属部品を加工する「NC旋盤」などの工作機械を製造するヤマザキマザック(愛知県大口町)も、顧客の経営課題にまで踏み込んだ支援体制の構築を重視しています。

 製品を輸出するだけでなく、工作機械業界でいち早く海外生産を始めるなど、グローバル展開を経営の柱に据えている同社は、国内外の78カ所に機械の加工デモや機械購入時のトレーニング、生産性向上の提案を行う「テクノロジーセンタ」などの支援拠点を設置。世界中のユーザーに迅速なサポートを提供できる体制を整えています。同社はこうした施設を活用する一方、ユーザーの工場に出向いて経営上の相談に乗るといったトータルソリューションにも力を注いでいます。
 三菱食品やヤマザキマザックの考え方は「商品やサービスは顧客の抱える問題を解決するための手段である」ということです。言葉を換えれば、顧客が受けるのはノウハウやソフトなどの「価値」であり、それを実現するための商品やサービスは、二次的なものと位置づけられています。

ヤマザキザックのお客様支援拠点「ワールドテクノロジーセンタ」

ヤマザキマザックのお客様支援拠点「ワールドテクノロジーセンタ」

2.隠れたニーズを見つけ、なかった市場を創る

 ファッション衣料をはじめ、街頭に彩りを添える大小さまざまな屋外広告幕などを製造している総合繊維メーカーのセーレン(福井県福井市)は、「空気と水以外すべてへの着色」を目指すシステム「ビスコテックス」を開発しました。従来の染色が「均一の色柄を大量生産」していたのに対し、「個別柄を少量だけ」染色できるのが「ビスコテックス」の最大の特徴です。

 多彩な表現力に加え、多種・少量・短納期で製造できることから、製造業の課題である「在庫レス」を実現。近年は本業の繊維分野ばかりでなく、ハウジング・自動車・雑貨などの他業界分野を対象とする新商品開発や新規事業の創出に注力しています。B to Bばかりでなく、個人向けにも「欲しい服を、欲しいときに、欲しいだけ」作るサービスを推進。同社の戦略は、「ビスコテックス」をコア・コンピタンスとする「需要創造型」の提案営業といえるでしょう。
 食品メーカーの浜乙女(愛知県名古屋市)は、「価格戦略に頼らない、高付加価値商品の継続的な開発」を掲げています。同社は昭和40年代に発売した粉末の「ミルクココア」で国内市場を席巻。先行の有力ブランドに勝るとも劣らない独自の地歩を固めました。以来、消費者の隠れたニーズや時流を先取りしたアイデア商品をシーズンごとに提案。食品業界の需要低迷に、新商品の投入で活路を開く姿勢を打ち出しています。
 山あいの工房のような作業所で、スタッフ14人が手作りする1本3万5千円の超撥水性傘「ヌレンザ」を提供する福井洋傘(福井県福井市)は、百貨店催事のみの直接販売という独自手法を導入しています。年に何回か売り場でお客さまと接する機会を設けることで、機能や素材、色柄への折々の要望を吸収し、3代にわたって愛用されるお客さまもいるほどの大きな信頼を獲得。同社は「既存市場の一角を崩すのではなく、全くなかった市場を創り出す」(橋本肇社長)提案営業を地道に続けています(左面「提案営業の名企業」で詳述)。
 急な雨に見舞われたとき、コンビニに駆け込めばコイン数枚でビニール傘が手に入る時代の3万5千円は常識を超えた価格設定です。しかし、その傘は2005年の発売以来、手元に届くまで2〜3カ月待ちを覚悟しなければならないほどの根強い人気を保ち続けています。同社の取り組みは「商品を通じた市場創造」の実践といえるでしょう。

3.印刷業界の進むべき道は?

 単に商品やサービスを提供するのではなく、それを手段として、顧客の抱えている問題を解決し、市場拡大につなげる―。他業界各社の唱える「提案営業」の要点はそのようにまとめることができるでしょう。  福井洋傘の橋本社長は、これまでの実践を振り返り、「ライバル会社と同じパイを競い合うのではなく、他社とは異なる市場に目を向けること」の大切さを説きます。また、同じ種類の商品を扱うのであれば「とことん安く作るか、とことん付加価値の高いものに挑むこと。その間を狙うのは得策ではない」と価格面での二極化に備える重要性を強調しています。
 これら2つのアドバイスの双方を満たしているのが3万5千円の傘「ヌレンザ」です。「その価格に正当な理由があれば、採算は後から付いてくる。だから絶対額を問うのではなく、信念と自信をもって適正価格を打ち出すべき」と橋本社長は語ります。
 加速する電子出版の進展や高品位な家庭用プリンターの普及、一段と厳しさを増すコスト要求など、中小規模の印刷会社を巡る経営環境は依然として予断を許しません。特に、コスト要求に対しては、企業努力の域を超えた苦戦を強いられる場面も珍しくありません。
 他業界各社の訴える「提案営業」の重点は、「自社の立場や都合ではなく、相手の事情に合わせ、信頼される」(橋本社長)ことです。印刷物という商品や、印刷物を取り巻くサービスの質を高める努力を怠りなく進める一方で、それらを顧客の抱える悩みを解消するための手立てとしていけば、新たな事業のヒントや改善の糸口が見つかるはずです。  印刷業界ならではの特質や個々の企業がもつ独自性の蓄積は、他業界にはない新たな提案営業を開花させるための力を秘めているはずです。

4.提案営業の名企業
 クレームを逆手に新しい傘の魅力を提案

 どんなに激しい雨の中で長い間差していても、サッと一振りすれば瞬く間に乾いた状態に戻る―。その驚くべき超撥水性能に着目したトヨタ自動車が「ぽんと後座席に放り投げられる」として「レクサス」ディーラー店での販売に乗り出したところ、1本3万5千円という破格値であるにもかかわらず、注文が殺到したという 伝説 を残したのが福井洋傘の「ヌレンザ」です。
 その開発は、福井商工会議所が開いた「苦情・クレーム博覧会」で委ねられた「水滴のつかない傘」への挑戦から始まりました。「苦情やクレームには、次のモノづくりやサービスにつながるヒントが隠されている。それを形にすれば喜ばれる」というわけです。
 同社が重視したのは、雨をはじくという大切な役目を担う布地の選定でした。ところが、既製品には厳しい要求を満たす素材がありません。そこで、橋本肇社長は、原糸メーカーとの共同開発に乗り出します。試行錯誤を重ねた末、従来素材の撥水力をはるかにしのぐ「超高密度ポリエステル糸」が生まれ、その織布を張った「ヌレンザ」が完成しました。
 ほかにも、「あったらいいな」を形にする姿勢から生まれた工夫の一つに、独自形状の持ち手があります。きっかけは「体の不自由な人や高齢者など、握力が弱い人が無理なく持てる傘が欲しい」という要望。自然木に牛革ベルトがループ状に巻いてあるので腕に食い込みにくい上、手首を通して使えるので失くしにくいのが利点。その結果、誰もが楽に、おしゃれに持てる形になりました。

他にはない色合い、素材、デザインが楽しめる
他にはない色合い、素材、デザインが楽しめる

橋本 肇社長
橋本 肇社長

●提案のキャッチボールを交わす
 橋本社長は「自分たちが本当にいいと確信したものを作っている」と言い切ります。実際、同社には大島紬や麻、シルクなど、雨傘ではあり得なかった素材や色合い、デザインを使った傘があります。それらは、同社を信頼するお客様の声に耳を傾けることで生まれました。中には「飾るだけの傘」という特注品もあります。
 同社の提案営業は「お客さま本位に考える」ことに徹しています。例えば、百貨店の催事では「お客さまが差したいものより、お客さまに似合うもの」を勧めるのが基本。根底には、「一度購入したら孫の代まで使える品質の良さ」と「ほかでは手に入らないデザインの美しさ」があります。
 また、お客さまの喜ぶ商品作りは、取引先との間に交わされる「提案のキャッチボール」があってこそ。「初めに予算を決められると、どんな会社もその範囲内のアイデアしか出ませんが、コストを度外視されれば、どんどん面白い考えや画期的な方法が浮かぶ」のです。
 「お客さまは素人ですが、説明はできなくても品質や色柄の良さが分かるんです。だからわずかな質の違いにもこだわり、自信を持って提案できるものを作ることが大切です」。これは印刷の世界でも通用する考え方でしょう。


●魚のいない池に釣り糸を垂らす
 「誰もいないところに売りに行け―」。橋本社長は目指す提案営業の姿をそのように描いています。同社は業界の常識を破る機能を備えた「ヌレンザ」を、業界の常識を破る価格で世に問いました。結果的に「ヌレンザ」は「存在しなかった市場」を出現させました。それは、魚の群れに網を放つのではなく、全く魚の気配がない池に釣り糸を垂らすようなものだったはずです。
 同社の営業担当者は、本社の近所の人にも3万円台の傘があっさり売れたことに驚いたそうです。「売れない」という思い込みが声を掛けることをためらわせていたからです。
 「印刷業にも同じことがいえるかもしれません。近所のお店や事業所が高級なパンフレットを作りたいと思っているかもしれないのに、そんな注文が入るはずはないと、頭から決めていないでしょうか。大きなところばかりでなく、身近なところにこそ、新たなチャンスが芽吹いています」。自らの体験を踏まえているだけに、橋本社長の助言には説得力があります。

 
back
Copyright(c) FUJIFILM BUSINESS SUPPLY CO., LTD. All Rights Reserved.