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スマートフォンと電子書籍の隆盛<第2回>
 
感圧紙の業界の未来を考える グリーンレポート
スマートフォンと電子書籍の隆盛<第2回> 2011/12/9
1.電子書籍の最新市場動向
  ●スマートフォン向けコンテンツの伸長
  ●業界の環境整備も進行
  ●米アマゾンの日本上陸

2.にぎわう「電子出版EXPO」
3.印刷業界の可能性とは
  ●存在感を発揮する大手印刷会社
  ●電子書籍が実現すること

1.電子書籍の最新市場動向
●スマートフォン向けコンテンツの伸長
 2011年7月、株式会社インプレスR&Dは、電子書籍のコンテンツに関する市場調査の結果を公表しました。出版社、通信キャリア、電子書籍ストアなど主要な電子書籍関連事業者に行ったこの調査では、2010年度の市場規模は650億円と推計。前年度比13.2%成長となり、市場が順調に拡大しているという結果となりました。市場の牽引役はコミックを中心とした従来の携帯電話向けの電子書籍で、全体の88%を占めています。
 「前年度比13.2%成長」というと、電子書籍元年と騒がれた2010年の成長率としては意外にも少ないという見方もあるでしょう。しかし、電子書籍リーダーとしてネットワーク接続の手軽さや、読みやすさに配慮したデザイン性・操作性などのメリットを持つスマートフォン、タブレット端末の市場拡大により、これらの新たなプラットフォーム向け電子書籍市場は、前年度比400%増の24億円規模にまで成長しています。
 また、インプレスR&Dは、2011年度以降、従来の携帯電話向け電子書籍市場の成長率は落ち込むものの、新たなプラットフォーム向け電子書籍市場が劇的に伸長すると予測。2015年度には、全体で2010年度の約3.1倍の2,000億円規模になるとの予測(図表①)を公表するなど、2013年以降を発展期と見ています。
■図表‥纏匳饑匯埔豕模予測

●業界の環境整備も進行
 今後電子書籍市場が成長する上で期待がかかるのが、さまざまな企業による電子書籍配信ビジネスへの積極参入です。
 近年では、印刷会社、新聞社、出版社、通信キャリアなどが連携し、電子書籍配信プラットフォーム事業を共同展開(※)していることに加え、国内でもさまざまな企業が電子書籍ストアをオープンするケースが急増(図表②)。販売される書籍のラインアップも日ごとに充実しています。また、新潮社、講談社、学研などの大手出版社は、今後すべての新刊を印刷本と電子本で発行していくとするなど、電子書籍を積極推進する出版社も数多く現れてきました。
 その結果、短期間のうちに電子書籍の品ぞろえが進んだほか、流通を担う販売サイトも充実しましたが、それによる問題点も発生し始めています。
 前述のように、企業の連携によるプラットフォーム整備事業が始まっているものの、今現在では十分とはいえず、電子書籍ストアが乱立することで、「どこで欲しい本が買えるのか」が、消費者にとってわかりにくい状況を生んでいます。
 この課題をクリアするため出版社が共同で取り組んでいるのが、新会社「出版デジタル機構」(仮称)の設立です。同社は、出版社が個別に保管してきた書籍データをまとめて管理し、ネット書店に商品を卸す窓口となるもので、2011年9月に講談社、文藝春秋、新潮社など大手のほか、中小の出版社など20社が名を連ねる設立準備連絡会を発足。ユーザーにも、出版社サイドにも、便利で効率的な仕組みづくりが進んでいるのです。

※電子書籍配信プラットフォーム事業の共同展開…コンテンツの収集から電子化、顧客の認証や課金システム、プロモーション業務までをカバーするもの。2010年11月には、凸版印刷、ソニー、KDDI、朝日新聞社の4社が合弁会社「ブックリスタ」を設立。また翌12月には、大日本印刷、NTTドコモ、丸善CHIホールディングスによる合弁会社「トゥ・ディファクト」も設立された。
■図表近年オープンした電子書籍ストア例
●米アマゾンの日本上陸
 一方、かねてより国内市場参入がささやかれていた米アマゾンですが、2011年10月22日付の日経新聞東京版では、年内にも日本向け電子書籍ストアをオープンすると報じました。また、それに足並みをそろえる形でタブレット端末「Kindle Fire」をリリースするとの情報もあり、大きな注目を集めています。
 アマゾンは、すでに国内大手出版社とのコンテンツ提供に向けた交渉を始めているほか、中堅のPHP研究所とは書籍1,000点の提供が合意に至っているともいわれます。アマゾンの参入により、電子書籍市場では今後さらに、競争の激化とビジネスの再編が進むことが予想されます。
アマゾンのタブレット端末「Kindle Fire」
▲アマゾンのタブレット端末「Kindle Fire」。従来のKindleシリーズに採用された電子ペーパータイプではなく、フルタッチパネル式のカラー液晶ディスプレイを搭載。米国では2011年9月に発売開始。価格はアップル「iPad」の半額以下となる$199に設定
2.にぎわう「電子出版EXPO」
 2011年7月に開催された世界最大の電子出版の見本市「第15回電子出版EXPO」では、電子書籍関連のソリューションが一堂に会しました。昨年81社の出展から150社に拡大するなど、ここ1年で企業の電子書籍関連ビジネスへの取り組みが飛躍的に進んでいることをうかがわせます。
 昨年の展示と大きく異なるのは、各社から発表された電子書籍閲覧機能を持つデバイスの豊富さです。パナソニック「UT-PB1」、ソニー「Sony Tablet」、東芝「REGZA Tablet AT300」などのタブレット端末のほか、富士通はタブレット形状とノートPC形状の2通りに利用できるハイブリッドモーションPC「FMV LIFEBOOK TH」やカラー電子ペーパーを搭載した電子書籍リーダー「FLEPia Lite」などを公開。NECはAndroidを搭載したスマートブック「LifeTouch NOTE」を、KDDIは2010年12月に発売した電子書籍リーダー「biblio Leaf SP02」などを展示しました。
 また、東芝、富士通、NEC、KDDIでは、各社が展開する電子書籍配信サービスの紹介も行い、多くの来場者の注目を集めました。
 電子書籍制作ソリューション関連の展示も盛況で、Adobeのブースでは、電子書籍のコンテンツ制作に強い「InDesign CS5.5」のデモンストレーションを行ったほか、株式会社Seesaaのブースでは、ブログのような感覚で書籍の本文や表紙を編集でき、ゼロから電子書籍を出版できる個人向けサービス「forkN(フォークン)」を出展。また、富士フイルムは電子コミックの制作・配信工程を効率化するソフトウエア「GT-Scan」の紹介など、各社とも、今後のニーズの高まりを意識したサービスを展示しました。
 また、ひときわ話題となったのが、グローリー株式会社(本社:兵庫県姫路市)のブースに出展された「電子書籍の自動販売機」です。これは、ディスプレイで書籍を選択し代金を支払うと、QRコードとアクセスコードが印刷された券が発券され、QRコードでサイトに接続し、アクセスコード入力で電子書籍をダウンロードできるというもの。駅や空港などに設置することで、電子書籍サイトへのわずらわしいユーザー登録を必要とせず、多くの書籍の中から読みたいものをその場でダウンロードできるという新しい購入スタイルを提案しています。
富士フイルム「GT-Scan」の使用イメージ
▲富士フイルム「GT-Scan」の使用イメージ。紙原稿のスキャンデータやパソコン環境で制作した画像データから、独自の画像認識技術によりコミックのレイアウトをページ単位で自動認識。コマを高精度で分割し、さらに自動的に読む順番を画面上に表示する。これまで手作業で行っていたコマ順指定の工程を大幅に効率化できる
(「プリンスは恋を歌う」©SHARUMO SANAZAKI 2009/宙出版)
グローリーのブース「電子書籍の自動販売機」
▲グローリーのブース「電子書籍の自動販売機」。ブースには多くの報道陣が駆けつけ、多数のメディアに取り上げられるなど、大きな話題となった
3.印刷業界の可能性とは

 電子書籍コンテンツの充実と販売サイトの拡充、端末の普及と関連サービスの活性化により、電子書籍市場は今後さらに伸長していくことは間違いありません。しかし、現在はまだ業界全体が手探りの状態にあり、電子書籍ビジネス市場の行く先は、いまだ混沌としています。印刷会社は、取り組むべき方向性をどのように見いだしたらよいのでしょうか。

●存在感を発揮する大手印刷会社
 凸版印刷や大日本印刷などの大手印刷会社は、コンテンツ収集から配信、端末や通信インフラ、課金システムの整備、電子書店の運営までを一貫して行うサービスを提供するなど、すでに印刷会社の枠組みを超えた大規模な取り組みに着手しています。また、両社は電子書籍事業の環境整備については協調路線を取り、両社を発起人とする「電子出版制作・流通協議会」を2011年7月27日に設立。現在乱立する電子書籍のファイル形式を、さまざまな端末に対応させるための「中間フォーマット」の標準化を目指すなど、電子書籍の普及に向けた司令塔の役割も担いながら、ビジネスフィールドを着実に構築する動きに出ています。

●電子書籍が実現すること
 では、大きな投資をして電子書籍ビジネスに参入するのが難しい中小の印刷会社は、どのような取り組みを進めるべきなのでしょうか。そのキーとなるのが、前号のスマートフォンアプリビジネスにおいてもポイントとして挙げた、「印刷会社のコンテンツ管理能力と制作力」にあります。
 具体例として、真興社(本社:東京都渋谷区)と大村印刷(本社:山口県防府市)の取り組みを見てみましょう。
 真興社は、医学や理工学などの専門書の印刷を得意とする印刷会社です。同社は、出版社へのサービスの一つとして、独自の電子書籍販売サイト「Book Stack」を構築。2011年夏から、まずは同社が印刷を手掛けた印刷本を電子化したコンテンツを中心に、電子書籍を販売しています。ただ販売するだけでなく、既存出版物の電子化から課金・売上回収の代行、購入者への案内メールの配信といった、トータルなサポートを提供しているのが強みです。また、同サイトでは、書籍だけでなく学会誌の論文についても各学会と協力して提供しており、従来は会員しか読めなかった学会誌を、論文ごとに誰でも購入できるという、面白い仕組みを構築しています。今後、同社では医学書などビジュアル要素の多いものを扱っていることもあり、音声や動画を組み合わせた電子書籍の販売や、電子雑誌の中に広告を掲載するといったビジネスも視野に入れています。
 大村印刷は、2010年10月、同社初となる電子書籍「武蔵野留魂記(永冨明郎・著)」を販売(併せて印刷本も販売)。この作品は、吉田松陰の生涯を独自の視点で描いたもので、第13回日本自費出版文化賞・研究評論部門において入選した意欲作でありながら、自費出版のため広く流通するに至らなかった背景があります。同社ではこうした著作の電子化や書籍化を進めるとしています。
 これら2社の例に見られるように、電子書籍では、まとまった販売の見通しが立たず従来出版に至らなかった著作や事実上の絶版書籍を、低コストかつ効率的に出版することができます。また、専門書や文芸書だけではなく、一般企業や官庁、自治体、その他さまざまな団体・個人の刊行物も販売することができるほか、自費出版そのもののニーズ拡大を促す効果も期待できます。紙では実現が難しかった出版活動が、電子書籍ではより取り組みやすくなるほか、読者にとっても、入手が難しかった書籍を手軽に読むことができるようになります。
 また、印刷会社は従来から、出版物や印刷物の最終データを管理する立場でもあります。既存のデータを利用して電子書籍の出版に取り組むという選択肢を既存の顧客にアピールしていくことで、紙から電子への2次的なビジネスチャンスを創出することも可能です。
 中小の印刷会社は、マクロな視点でビジネスを展開する大手とは異なるミクロなアプローチ、つまり一著作者や一出版社、さらには、あらゆる既存顧客に対し、これまでの印刷物や出版物ではできなかった電子書籍ならではの取り組みにこそ可能性が広がっているのです。

「Book Stack」
▲医学や理工学の専門書籍、学会誌などの電子書籍コンテンツを購入できる「Book Stack」(左)。パソコンやスマートフォン、タブレット端末で使え、文字検索も可能な電子書籍閲覧ソフトの画面(右)。読者は、初回の書籍購入時に同サイトからソフトを無料でダウンロードできる(2011年11月末現在)
電子書籍「武蔵野留魂記」
▲電子書籍「武蔵野留魂記」のスクリーンショット
 
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