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印刷にも「やさしさ」を 〜「ユニバーサルデザイン印刷」の時代へ〜
 
感圧紙の業界の未来を考える グリーンレポート
印刷にも「やさしさ」を
〜「ユニバーサルデザイン印刷」の時代へ〜
2011/8/10
1.ユニバーサルデザインとは
2.印刷におけるメディアユニバーサルデザイン
●社会の高齢化とともに増加する視覚障害者
●期待されるメディアユニバーサルデザイン
●印刷会社によるユニバーサルデザインへの取り組み

3.ユニバーサルデザイン市場の今後
1.ユニバーサルデザインとは

 「ユニバーサルデザイン(以下UD)」とは、アメリカの建築家であり工業デザイナーであったロナルド・メイスにより提唱された概念で、障害・年齢・性別・言語・能力などを超え、すべての人が最大限に利用可能な普遍性のある製品・環境・情報のデザインを行うことを指します。
 UDとよく似た概念として「バリアフリー」が挙げられますが、両者は考え方が少し異なります。バリアフリーは、社会生活を送る上での障壁を「除去する」という考え方であるのに対し、UDは「あらかじめあらゆる人に障害のないデザインを導入・提供しよう」というものです。
 UDの恩恵を受けるのは障害者や高齢者に限りません。「すべての人が何かしらのハンディキャップを負う可能性がある」という視点の下、子ども、外国人、両手に大きな荷物を持った人、赤ちゃんを抱いた人、左利きの人など、あらゆる人を対象とします。
 公共の場での身近なUDといえば、「多言語表記の案内板」や「車いすやベビーカーの利用者でも快適に利用できる広いトイレ」、一般の製品では「力を入れなくても金具が開閉できるバインダー」や「洗濯物を出し入れしやすい角度にした洗濯機」、さらに「手の不自由な人や握力の弱い人でも開けやすいレバー式のドアノブ」など、さまざまなUDが人々の暮らしに役立っています。

2.印刷物におけるメディアユニバーサルデザイン

●社会の高齢化とともに増加する視覚障害者
 現代社会において「情報」は非常に重要なもので、その質と量が、暮らしに大きな影響を与えます。しかし、社会にあふれる情報には、デザイン、文字の大小や書体、色使いなど、あらゆる人へ正確に情報を伝える上で配慮が足りないケースも多く、不便さを感じている高齢者や障害者、色覚障害者は少なくありません。
 たとえば白内障や弱視の人、加齢によって視力が低下した人は、小さな文字が読みづらく、書体によってはつぶれて見えます。また、一般の人と色覚が異なる人は、配色によっては情報の存在自体を認知できない場合があります。
 現在日本において、視覚に障害がある人の約70%が弱視者で、潜在的には100万人以上、色覚障害者は300万人以上といわれています。さらに、国民の3人に1人が65歳以上という高齢化時代を背景とした加齢による弱視者を合わせると、視覚にハンディキャップを持つ人の数は500万人以上いると考えられています。

●一般色覚者の見え方、色弱者の見え方

●期待されるメディアユニバーサルデザイン
 視覚(視力)にハンディキャップを持つ人が増える傾向にある中、印刷メディアを中心とした、今後のメディアの在り方として重要視されているのが「メディアユニバーサルデザイン(以下MUD)」です。これは、色の感じ方や年齢などに関係なく、できるだけ多くの人に情報が伝わりやすいデザインに変えていく、いわゆる「情報のユニバーサルデザイン化」を行うことです。
 全日本印刷工業組合連合会では、2007年にMUDの推進を正式な活動として位置付け、翌2008年にNPO法人「メディア・ユニバーサル・デザイン協会」を設立、講演会の実施、MUD印刷のガイドライン策定、UD化された印刷物であることを表す「MUDマーク」の認証など、さまざまな普及・啓発活動を行っています。
 従来の印刷とMUD印刷の大きな違いは、印刷物を「徹底した利用者視点」で設計することにあります。例えば、地下鉄路線図をMUDの考え方で作成する場合は、多くの人が認識しやすい配色を行うほか、路線の区別を色だけに頼らず、実線・点線・二重線などの形状による区別を併用して、白黒コピーをしても情報が読み取れる状態にしたり、各駅をナンバリングした「駅番号」を導入したりといった工夫が必要となります。

●図表1メディアユニバーサルデザインの5原則
※参考資料:全日本印刷工業組合連合会「メディア・ユニバーサルデザインガイドライン」
<書籍紹介>
『メディア・ユニバーサルデザイン−みんなにやさしい情報制作のガイドライン』

本書はMUDを取り巻く現状調査や企業・団体の取り組み、技法、適応例をオールカラーで解説しています。
 
●『メディア・ユニバーサルデザイン−みんなにやさしい情報制作のガイドライン』
▲発行元:全日本印刷工業組合連合会
定価 5,040円(税込)
http://www.japanprinter.co.jp/cgi-bin/bkdatabase/bookdatabase.cgi?key=978-4-87085-194-8
 
 ●印刷会社によるユニバーサルデザインへの取り組み
 前述のように、情報の入手にストレスを感じている人々の数を考慮すると十分とはいえないものの、印刷業界におけるMUD化はすでに始まっています。
 株式会社ブライト(東京都千代田区)は、住みやすい街づくりを進める東京都江戸川区の情報を広く伝え、誰もが楽しく外出できる地域マップ「江戸川区バリアフリーマップ 広げようバリアフリーのわ!」を作成しています。同マップには、駅構内や駅周辺の情報、トイレ、スーパーやコンビニ、郵便ポストの位置を掲載するほか、商業施設の「出入り口の段差の有無」や「トイレ内で車いすが回転できるか」など、地域に住む高齢者や障害者団体、車いす利用者との協働による、生の意見を取り入れた情報を盛り込んでいます。もちろん、マップ自体がMUDの手本となるよう、難しい漢字への読み仮名、配色の工夫、ひと目で意味が分かる絵記号の使用、音声コードの印刷など、さまざまな配慮がなされています。
 こうした情報ツールのUD化は着実に広がっており、官公庁発行の福祉関連の人材育成のための手引書やNPO法人発行の記念誌、企業のアニュアルレポートなどにも採用される例が見られます。また、印刷会社自ら、読みやすいオリジナル書体(濁点や半濁点の隙間を十分に確保したり、部首をなるべく大きくとることで視認性や可読性などを調整)を作成する取り組みや、書体の種類・サイズの配慮で読みやすくし、配色も識別しやすいものを使って行ごとに色を変えるなどの工夫をした預金通帳、目の不自由な人に開き口の方向を示した「切欠き」を設けた牛乳パッケージなど、多彩な取り組みが進んでいるのです。
●江戸川区バリアフリーマップ「広げようバリアフリーのわ!」
▲江戸川区バリアフリーマップ
「広げようバリアフリーのわ!」
●目の不自由な人に開き口の方向を示した「切欠き」を設けた牛乳パッケージ
▲マップ両端下には切欠きを入れ、その横に音声コード(2次元コード)があることを知らせます。専用の読み取り機を使うことで、音声が聞こえ、目の不自由な人でも内容を知ることができます。
3.ユニバーサルデザイン市場の今後
 2007年度のUD市場は3兆2,439億円で、1995年度比で約6.6倍になるなど確実に拡大を続けています。経済産業省では、2025年には市場規模が16兆円にものぼると予測するなど、成長産業として大きな期待がかかっています。また、団塊の世代を中心とした「生活を豊かにしてくれるものなら積極的に購入する」という近年の消費マインドの変化も、UD市場の将来性を占う上で重要なポイントです。今後は、高齢者向け、障害者向けなどと限定され、特定のユーザーに疎外感を与えたり、多くのユーザーに満足感を与えられなかったりする製品ではなく、良質なUD製品が多数登場していくことで、市場は予想もできない成長をとげる可能性があるのです。
 UD市場の成熟化は、印刷業界においてもチャンスです。近年は顧客の立場に立ったISOの品質管理など、社会と調和しながらの経営をより重視する企業が増えています。顧客とのMUDによるコミュニケーションは、今後、あらゆるメディアにおいて必須条件となっていく可能性が高いといえるからです。
 とはいえ、MUDへの取り組みはまだまだ動き出したばかりです。ユーザーのMUDへの認知向上、さまざまな色覚に対応する詳細なデータ収集、MUDの評価ができる専門家や効果的にデザインに応用できるデザイナーの育成など、課題も山積しています。
 今後、印刷会社がビジネスチャンスを広げるためには、MUDに対応できる環境をいち早く整えることで他社との差別化を進め、積極的にソリューション提案を行っていくことが重要となってくるでしょう。
●図表2共用品(UD製品)市場の推移と予測
 
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