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電子書籍市場の夜明け<第2回>
 
感圧紙の業界の未来を考える グリーンレポート
電子書籍市場の夜明け<第2回> 2010/8/11
1.日本の電子書籍市場の今
  ・携帯電話が牽引する国内電子書籍市場
  ・携帯向け電子書籍の影響

2.電子書籍時代に向けた企業の取り組み
  ・「日本型」のルールづくりへ
  ・電子書籍配信ビジネスの活性化

3.教科書もデジタル化の道へ
4.印刷・出版業界の今後
  ・紙は淘汰されるか
  ・印刷・出版業界の可能性とは

1.日本の電子書籍市場の今
●携帯電話が牽引する国内電子書籍市場
 2010年は「電子書籍元年」といわれていますが、周知のように電子書籍というメディア自体が今年初めて流通をはじめる、ということではありません。
 わが国における電子書籍は、PCやPDA(※)向け市場で10億円程度の規模だった2002年ごろからすでに新たな産業として脚光を浴びており、その後の第三世代携帯電話やパケット定額制の普及により、携帯電話向けの電子コンテンツが中心となりました。以後、順調に成長を続け、すでに一定の市場規模を形成するに至っています。
 携帯電話向け電子書籍コンテンツの大部分を構成しているのがコミックです。インプレスR&D調べによると、2009年度の国内電子書籍売上高574億円のうち、コミックの売上高は513億円となっており、全体の89%にものぼります。子どものころ読んだ作品を、大人になって改めて全巻を一気に買い揃える「大人買い」消費、または、BL(ボーイズラブ)・TL(ティーンズラブ)といった、店頭では購入しづらい女性向けアダルトコンテンツなどへの需要の高まりがその背景にあるようです。
※PDA…手のひらに収まるくらいの大きさの携帯情報端末。液晶表示装置や外部との接続端子を搭載し、パソコンの持つ機能のうち、いくつかを実装したもの。
●携帯向け電子書籍の影響
 携帯電話向け電子書籍コンテンツは、「移動中のちょっとした時間」「寝る前などの隙間の時間」に楽しむなど、いつでも手元にあるという「気軽さ」が最大の魅力といえます。そのため、書籍コンテンツへのニーズも、「じっくり読む」というものではなく、手軽に「読み流せる」というものが求められます。携帯電話向けのコンテンツは、いわば「残す必要のない情報」を、次々と「つまみ食い消費」するためのものとなっており、本当に手元に残したい作品は「紙の書籍として別途購入する」という二次消費を生み出すきっかけとしても機能しています。
 2000年代中ごろからの「電子書籍は携帯電話で気軽に、片手間に利用するもの」という傾向は、電子書籍をより身近なものにしました。しかし一方で、新聞・雑誌・文学など、コミック以外のコンテンツの拡充を遅らせてきた一因となっているとの指摘もなされています。
 現状、携帯電話向け有料サイトで提供される記事・情報は、紙媒体の代替といえるほど充実したものには達しておらず、さらにアマゾンが「Kindle」において提供している「コンテンツの探しやすさ」「購入のしやすさ」などの利便性を高めるサービスも、決して十分なものとなっていません。
 今後、さまざまな電子書籍端末の登場により、携帯電話向け電子書籍がどのような進化を見せていくのか。その行方に、大きな注目が集まりそうです。
●国内電子書籍市場の売上規模推移
2.電子書籍時代に向けた企業の取り組み
●「日本型」のルールづくりへ
 2010年2月に、講談社、小学館、新潮社、集英社、文芸春秋など、国内31社からなる「日本電子書籍出版社協会」が設立されました。また、大日本印刷と凸版印刷の印刷大手2社により、電子書籍関連の製作会社や端末メーカーなどで構成する業界団体「電子出版制作・流通協議会」が2010年7月末に設立されるなど、電子書籍の普及・拡大へ向けたルールづくりに取り組むべく、さまざまな団体の設立が相次いでいます。
 さらに、総務省、文部科学省、経済産業省の共同による「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」も発足され、電子書籍のファイル形式の共通化や権利処理の円滑化といった、オープンな電子出版環境の実現に向けた専門会議の設置も始まっています。
 これらの各団体の設立背景には、米国の市場を握る米アマゾンとアップルの存在があります。「著作者との交渉」から「自社の端末への配信」までを、自らのネットワークで網羅することができる両社の「米国型ビジネススキーム」に対し、日本独自の出版流通モデルを整えたいという思惑があるためです。「黒船来航」に臨み、「民+民」、「官+民」の構図で、業界と国を挙げての「国産の配信基盤づくり」が、今、急ピッチで進められているのです。
●電子書籍配信ビジネスの活性化
 一方、凸版印刷、朝日新聞社、ソニー、KDDIは、4社均等出資による電子書籍配信事業企画会社を7月1日に設立しました。年内には、書籍・コミック・雑誌・新聞などのデジタルコンテンツの販売サービスを開始すると発表しています。また、大日本印刷は子会社で書籍販売を行っているCHIグループとともに、約10万点の書籍を揃えた国内最大級の電子書店を2010年秋に開設、「電子書籍+従来の紙の書籍」を取り扱う「ハイブリッド出版ソリューション」を強化していくなど、電子書籍販売への本格的な参入を図る企業が次々と名乗りを上げています。
 また、さまざまな電子書籍関連ビジネスも登場しています。eラーニング支援システム開発を行うキバンインターナショナル(東京・千代田区)は、中小の出版社や個人でも「iPad」などで閲覧可能な電子書籍雑誌を容易に提供できるようになる電子出版支援サービス「スマートライブラリー」を展開。さらに、書籍をスキャニングし電子書籍化するサービスも盛況であるなど、すでに市場は多角的に動き始めているのです。
●電子書籍ビジネスへの参入を予定している企業●キバンインターナショナルが提供する電子出版支援サービスのイメージ
3.教科書もデジタル化の道へ
 2010年5月27日、慶應義塾大学三田キャンパスで「デジタル教科書教材協議会(Digital Textbook and Teaching 略称:DiTT)」の設立準備会が開かれました。
 この協議会は、「2015年にすべての小中学生がデジタル教科書を持つ」という政府目標(※)の実現を視野に入れ、デジタル技術による総合的な教育学習環境の整備を目的としたもので、マイクロソフト、ソフトバンクなどの通信システムベンダーや学識経験者らが発起人となり設立。教育向けデジタルメディアの推奨スペックの検討、実際の教育現場で行う実証研究、一般家庭や学校に対する普及啓発、教育や情報通信政策に関する政策提言の4項目からなる活動を、文部科学省や総務省と連携して進めていく考えです。
 発起人の一人である慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科の中村伊知哉教授は、「紙の教科書を(デジタル教科書に)置き換えるのではなく、デジタルメディアを駆使した新しい教育方法、新しい市場を確立する目線で取り組みたい」と語るなど、「教育と市場活性化」という二つの視点でデジタル教科書の推進を目指すとの方向性を示しました。 
 デジタル教科書の普及推進活動を「市場」という視点で見た場合、「きわめて有望な市場」としての姿が浮かび上がってきます。「平成21年度学校基本調査速報」によると、小学校の児童数は約700万人、中学校は約360万人となっており、仮に端末一つを2万円とした場合は2,000億円もの市場になります。その上、コンテンツなどを含めるとさらに巨大なものとなることは想像に難くありません。また、教育現場でのコンテンツは通常の書籍と比べ著作権のハードルが低く、2015年にすべての小中学校の児童に配布するといった政府の後押しが得られれば、普及が一気に進む可能性も考えられます。教科書の電子化は、教育現場での大きな変革をもたらすと同時に、端末シェアの主戦場を形成することになるのです。
※2009年12月22日に原口総務大臣が発表した政府目標。通称「原口ビジョン」。
4.印刷・出版業界の今後
●紙は淘汰されるか
 電子書籍の登場によって、「紙の本や印刷物が淘汰される」という見方もありますが、「電子書籍が紙の書籍の代替物となりえるのか」についての結論を出すには性急すぎるでしょう。
 日本より一足早く「電子書籍専用端末」が普及している米国はどうかというと、電子書籍の市場規模は年々大きな成長率を見せており、今後はさらに加速するとの見方が有力です。Amazon.comにおいても、同社の「Kindle」向け電子書籍コンテンツの売上が、従来の紙の本の売上を凌駕したと2009年末に発表し、いよいよ電子書籍全盛の時代を予感させました。
 しかし、2009年の米国出版界全体の売上をみても、電子書籍の割合はわずか1%程度のものであり、依然として慣れ親しんだ紙の本への需要は根強く、「紙の本の淘汰」へと急速に結びつくという現象は起こっていません。また書籍の電子化へ向け、端末メーカーと出版社が積極的に協力・団結した上での売上状況と捉えると、いまだ電子化に向けての環境が整わない日本では、「紙の書籍淘汰論」は現実味の少ないものといえるのではないでしょうか。
 また、日本と米国は出版モデルの違いも顕著です。日本の書籍流通には、再販売価格維持制度(※)という書籍の価格を維持しなければならない制度があるため、印刷・製本・物流コストを抑えた電子書籍としてのメリットのある価格を提供することが難しく、電子化は思いのほか難航するとの見方もあります。もちろん、従来の紙の書籍を支持する意見も数多くあることも忘れてはならないでしょう。
※再販売価格維持制度…本レポート2010年5月号でも紹介。出版社が設定した書籍の価格を、取次業者や書店が維持しなければならない(割引販売などができない)制度。
●電子書籍端末非利用者の利用意向(2010年2月調査)
●印刷・出版業界の可能性とは
 では、従来の「紙の書籍」は今後どうなっていくのでしょうか。そのひとつの答えを見せてくれるのが、大日本印刷の取り組みです。同社は書籍の電子化を促進させる一方で、従来の紙の書籍を販売するグループ書店の新たな経営モデルの確立を目指すなど、従来の紙の書籍への独自の事業展開を積極化。いくら電子書籍が優勢となっても、「紙の書籍がなくなることはない」(大日本印刷役員)との前提の下、読者と直に接する書店の存在意義を維持する方向を打ち出しています。
 また、『電子書籍の衝撃』などで注目を浴びたITジャーナリストの佐々木俊尚氏は、電子書籍が普及後、紙の本は「好きなミュージシャンのTシャツを買うのと同じ“サブコンテンツ”の位置づけ」と定義。「今後は作家がファンに向けてゴージャスな本を高値で出版するという手法も考えられる」との、電子化時代における紙の書籍の可能性について言及しています。
 その他、電子書籍としてダウンロードしたテキストを、個人の好みにデザイン・装丁・製本し販売するサービスが登場するなど、「紙→電子」から「電子→紙」といった逆説的なニーズが生まれることも大いに考えられます。
 電子書籍は、新聞・雑誌を中心とした日常の情報収集・情報共有のツールとして、紙の書籍は記念品や嗜好品、そして情報を記録し記憶し、所有するツールとして、それぞれの利点をふまえた棲み分けがなされていくというのが今後の流れとなっていくでしょう。
 いずれにせよ、電子書籍の登場により、読者がコンテンツに触れる機会はさらに増加することは間違いありません。機会の増加がさらなる読書ファンを生み出し、良質なコンテンツを生み出す土壌となることが最も注目すべき点といえるでしょう。
●書籍流通の移り変わりと新たな印刷需要
 
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