CLUB GC
表紙へ グリーンレポートへ 技術情報へ Q&Aへ アンケートへ
電子書籍市場の夜明け<第1回>
 
感圧紙の業界の未来を考える グリーンレポート
電子書籍市場の夜明け<第1回> 2010/7/12
1.書籍流通の新時代へ
  ・電子書籍とは
  ・拡大を続ける米国電子書籍市場

2.「Kindle」躍進の理由
3.熾烈な電子書籍競争
  ・「iPad」の参入
  ・ソニーとグーグルの戦略
  ・アマゾンのさらなるシェア拡大施策

1.書籍流通の新時代へ
●電子書籍とは
 電子書籍とは、紙とインクによる印刷物とは異なり、電子機器のディスプレーで読む出版物です。読者が電子書籍端末による無線接続やインターネット接続を行うことで、書籍購入の即時化を実現し、書籍の収納や保存にスペースを割くこともなくなります。また、出版社やコンテンツの発信側も、在庫管理や資産コスト、絶版や品薄などによる販売機会の喪失が避けられる新しい書籍流通形式として、近年その市場を拡大してきました。
 2006年、米国企業ソニー・エレクトロニクスの電子書籍専用端末「Reader(リーダー)」が市場を開拓し、その翌年発売されたアマゾン「Kindle(キンドル)」の大ヒットによって、電子書籍市場は世界中で注目が高まっています。

●拡大を続ける米国電子書籍市場
 2010年1月、米国・ネバダ州ラスベガスで開催された家電国際見本市「2010 International CES」に、世界各国のメーカーが開発した電子書籍端末が多数出展されました。その光景は、電子書籍市場が米国を中心とした一部地域だけのものではなく、今や世界中の熱い視線を集める市場となったことを改めて印象付けるものになりました。
 米調査会社インスタットによると、2009年の電子書籍端末の販売数は、米国を主なマーケットとして世界で305万台が販売されたと発表。4年後の2013年にはその市場が急速に拡大し、販売台数は2,860万台にものぼるとの予測もしています。
 また、ゴールドマン・サックス・グループの調査によると、米国内の電子書籍コンテンツの売上高は、2009年は前年比2.8倍の3億1,300万ドル(約290億円)、そして2013年には31億9,000万ドル(約2,870億円)に拡大するとの予測を発表しました。
 今後、世界中で劇的な普及が見込まれる電子書籍は、かねてより「グーテンベルクの活版印刷以来の革新的事件」とも表現されたことから、情報流通の新基準となることが期待されていました。今日、いよいよその言葉の現実味が高まってきたといえるでしょう。
■米国における電子書籍売上高の推移 ■米国における書籍全体の前年比増減率
2.「Kindle」躍進の理由
 電子書籍市場で先陣を切ったアマゾンもソニー・エレクトロニクスも米国企業ですが、実は、この分野において先行していたのは日本企業でした。2004年にソニーが発売した電子書籍端末「LIBRIe(リブリエ)」、松下電工(現パナソニック電工)が発売した「Σ Book(シグマブック)」は大きな話題を呼び、私たちに電子書籍時代の到来を予感させました。しかし、国内出版業界との協力関係の構築が進まず、コンテンツの拡充が遅れ、高額な端末価格に見合ったユーザーインセンティブが得られないなどの理由により、両社ともに2008年に一時撤退という選択を迫られた経緯があります。
 一方、2007年に米国で販売を開始した「Kindle」成功の理由は、特にコンテンツ面と価格面において、電子書籍普及に立ちはだかる問題点を解決していたことにあります。
 たとえば、新刊本を即時に電子化・販売したことが大きなポイントです。この「新刊書籍の即時電子化」実現に至る背景には、米大手出版各社の電子書籍への積極的な関与が影響しています。
 かつての日本の出版業界は、書籍の電子化への動きを警戒するだけでした。しかし、米大手出版各社は、電子書籍市場が顕在化する以前からデジタル化時代への対応を進めており、市場が拡大していくことをビジネスチャンスとして捉える動きが、「Kindle」成功の追い風となったようです。
 また、書籍をはじめ「Forbes」「Fortune」などの雑誌や「The New York Times」「The Wall Street Journal」などの新聞も手軽に購読できる点や、新刊や「The New York Timesベストセラー」を手頃な価格に設定したことによる割安感、そして、端末自体に3Gワイヤレス通信機能が搭載されていることで、いつでも書籍を通信料無料でダウンロードすることができる点など、多くのユーザーインセンティブを生み出しています。
 さらに、バックライトで画面を表示する液晶ディスプレーとは異なり、電子インクによる表示は目が疲れにくく、紙の本を読む感覚に非常に近いことや、「文字の大きさを6段階に拡大縮小することができて、とても読みやすい」と、発売当初見込んでいなかった高齢者のユーザーから支持を得たこともポイントといえます。
 「Kindle」はアマゾンのエレクトロニクスストアで台数、売上金額のトップとなっただけでなく、Amazon.comの全カテゴリー中でもナンバーワンのベストセラーアイテムとなっており、アマゾンの好調な業績に寄与したアイテムです。
大画面タイプの「Kindle DX」
▲大画面タイプの「Kindle DX」
©1996-2010, Amazon.com, Inc. or its affiliates
3.熾烈な電子書籍競争
●「iPad」の参入
 2009年10月時点の米国におけるシェアでは、過去、積極的に市場を開拓してきたアマゾンが60%、ソニー・エレクトロニクスが35%(出典:ブルームバーグ Peter Burrows, Joseph Galante)という2社独占状態でした。しかし、米国内において市場に参入している(参入を表明している)企業の一例をみても(下記図表参照)、今後さらなる競争の激化は必至といえます。
 そのような中、先行する2強に対する最有力のライバル候補に挙げられるのが、2010年に登場したアップルの「iPad」です。「iPad」は、無料配信のアプリケーション「Kindle for iPad」により、「Kindle」用の電子書籍コンテンツが利用できることに加え、モノクロの「Kindle」にはないカラー画像ならではの表現力で、コミック・写真集などのさらなるコンテンツの需要を掘り起こすことが可能です。さらに、総合マルチメディア端末として、動画・ゲームなどへの展開力も大きな武器となり、今後ますますシェアを拡大していくことは間違いありません。
 「iPad」の影響力を分析した「The Wall Street Journal」によると、「iPad」の登場によって、アマゾンのシェアが今後5年間で35%にまで減少すると予想しています。
 4月3日の米国内発売からわずか2カ月で販売台数200万台を超え、書籍ダウンロードのカウント数も500万冊を超えた「iPad」の快進撃は、その予測を裏付けるものとして十分な説得力を持つといえます。
 携帯音楽プレーヤー「iPod」と「iTunes Store」による音楽配信ビジネスにおいて、絶対的なシェアを獲得した過去の例を、今、まさに電子書籍市場において再現しようとしています。
アップル「iPad」
▲アップル「iPad」
■近年の米国電子書籍市場参入企業・製品一例
●ソニーとグーグルの戦略
 一方で、2009年12月に新型端末の「Reader for Daily」を市場投入したソニー・エレクトロニクスも「2012年には世界シェア40%を目指す」とのコメントを発表。完成度の高いハードウエアに、ネットワークやPCでの管理用ソフトウエアなどを連携させたソニーらしい付加価値の高い商品を提供していく方針で、ネットワーク関連事業を担当する平井一夫EVPは、「Readerが提供するものこそソニーらしい体験の一つだ」と、市場拡大への意欲をのぞかせました。
 また、注目すべきは、ソニー・エレクトロニクスがグーグルとの連携を発表したことです。グーグルは、著作権保護期間が終了した書籍や出版社提供の書籍をスキャンし電子化した「Google Book Search」という巨大な書籍検索・閲覧サービスに蓄積されたデータベースを有しています。これにより、「Reader」の対応書籍は1,200万冊に飛躍的に拡大、60万冊を超える「Kindle」、66万冊のApple「iPad」(「iBook Store」の6万冊に加え、「Kindle」のコンテンツ60万冊)(共に6月3日時点のコンテンツ数)と比較しても、圧倒的な蔵書量を保有することになります。
 一方、このような巨大な電子書籍データベースを有するグーグルも、「Google Book Search」上の書籍データをデジタルコピーし販売するサービス、「Google Editions」という独自の電子書籍販売サービスの展開を視野に入れています。
 業界誌「Publishers Weekly」の記事によると、グーグルは「HTML5」といったウェブの新しい標準技術を使うなどして、あらゆる端末でコンテンツを閲覧できるようにする考えで、通常のウェブブラウザさえあれば、誰でも電子書籍が購入できるようにしていく方針です。
 さらに、「Google Editions」での書籍販売価格は各出版社が独自に設定できる、との方向性も打ち出しており、今後の動向が電子書籍市場において大きな影響を与えるものとして注目を集めています。

●アマゾンのさらなるシェア拡大施策
 現在、「Kindle」による圧倒的なシェアを誇るアマゾンは、さらなるコンテンツの充実とシェア拡大をはかるため、2010年1月20日に著作者へ支払う印税に関する追加オプションを発表しました。その内容は「従来の著作者への印税を35%から70%に条件付きで引き上げる」というもので、さらに品揃えを拡大するため、著作者に選択肢を設けようというものです。
 また、それら著作者の作品は、2.99〜9.99ドルに設定。コンテンツを低価格で販売することで、価格面でのユーザーメリットを提示しています。
 この「印税70%方式」は2010年6月30日から導入する予定となっており、現時点ではアメリカ国内に限定した方針ではありますが、苦しい状況に立たされている出版業界にとっては衝撃的な発表といえるでしょう。

 グリーンレポート「電子書籍市場の夜明け」第2回目は、今回の米国事情を踏まえた上で、今後の日本における電子書籍市場の動きを追っていきます。わが国の印刷・出版業界にとっては「黒船到来」とも思える今後の需要への影響と、来るべき電子書籍時代に向けたさまざまな取り組み、そして書籍の電子化によって生まれる印刷業界の新たな可能性について考察していきます。

※掲載情報は、2010年6月現在のものです。
 
back
Copyright(c) FUJIFILM BUSINESS SUPPLY CO., LTD. All Rights Reserved.