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連携・提携のビジネスで勝つ!

2017/07
磨き屋シンジケート
共同受注で中小工場の力を結集 ブランド確立で地域を活性化

株式会社市進ホールディングス
新業態でベテラン講師の活躍の場を介護や日本語学校など他業界へ!

■コラム
連携・提携のビジネスで勝つ!好事例
商工会議所と製造業者がタッグを組んで市場を開拓
地域の誇りを生み出す!
磨き屋シンジケート

  ●ちょっとした工夫と研究がヒットに
  ●自分たちで売ることで市場が分かる
  ●印刷会社の連携・提携とは?

磨き屋シンジケート
共同受注で中小工場の力を結集 ブランド確立で地域を活性化
 「磨き屋シンジケート」は、新潟県燕市などに拠点を置く金属研磨加工業の中小企業約40社が連携してつくる、ウェブを使った共同受注の組織です。親会社や大手企業が決めた価格や仕様で受注していた体質を変え、個人や企業から直接、数多くの注文を受けています。高い精度を要する航空機部品や特殊な金属の仕事もこなす優れた技術力、高級ビアタンブラーなどを大ヒットさせるブランド力で、業界全体はもちろん、マスコミなども注目。大量生産の仕事については複数社で共同制作するなど、強い連携力も特長ですが、以前は互いにライバル意識が非常に強く、交流や情報交換をほとんどしていなかったというから驚きです。どのようにして変わることができたのでしょうか。
1年間、毎週のブレストで 納得のいく受注ルールを実現
 「得意分野にこだわらず、ウェブ受注で研磨の仕事を集めたらいい!と言い出したのは、パソコンも使ったことのない工場のおやじさんでした」と振り返るのは、事務局を務める燕商工会議所の高野雅哉さんです。燕市は、家内制手工業による金属研磨の高い技術で知られ、金属洋食器の国内生産シェア90%を占めますが、中国などの製品に押され、1970年代に約1700軒あった“磨き屋”は、2000年には約700軒に減少する苦しい状況に。そんな中で出てきたのがウェブ受注のアイデアでした。「仕組みをつくるために何が必要か、何がリスクか、研磨工業会に所属する会社40社余りと集まってブレストを始めました。100くらいの課題が出て、それを3つほどに分けて分科会で週1回程度議論し、1年ちょっと続けましたね」(高野さん、以下同)。
 

磨き屋シンジケートの事務局を務める燕商工会議所総務課 課長 高野 雅哉さん
こうしてできた「共同受注マニュアル」とともに2003年、磨き屋シンジケートができました。受注体制は、幹事会社(現在は5社)の下にそれぞれ複数のメンバー会社が付くというもの。商工会議所が受注窓口になり、幹事会社は商談と代金回収、メンバー会社は加工と不良品を出した場合の弁償を担います。設立目的には「燕市の外から仕事をもらうこと」と定めたほか、地域振興も目指しています。
 「『仲間の仕事は取らない』がほぼ唯一のルールです。受けた仕事は、それを専門とする会社があれば、そこへ振り分けることになっています。もし顧客から個別の会社に直接見積もり依頼があれば、仲間がやっている可能性がある仕事の場合、その仲間に必ず確かめ、仕事を奪わないようにするのが決まりです。なお、どの会社もできる仕事は、手を挙げた会社の中からくじなどで受注先を決めます」。また、商工会議所は、シンジケートから事務的な対応や広報を委託されているという形になっていて、顧客との価格や仕様の取り決めは、研磨会社自身で行っているのも大きなポイントです。

「磨き」なら何でもこい!
実績がニーズやアイデアを 次々呼び込む
 専門分野ごとのすみ分けルールを尊重していることや、徹底的な議論で作り上げたマニュアルの存在などから、メンバーの納得感も強く、不公平感などの不満はほとんど出ていないそう。中立的な商工会議所が間に入っていることも大きいようです。
 高野さんがシンジケート設立当初、会社が違えば全く交わらなかった研磨職人の結束を高める狙いで行ったのが、中国の金属研磨工場の見学です。「このインパクトは大きかった。燕なら数人でやる仕事を、何千人もの若い工員が行い、品質もしっかりしていたんです。これでは同じ土俵で戦えない!と皆が思いましたね」と高野さん。この強烈な危機感から、助け合っていくしかないという思いで一つになったといいます。
 シンジケートは、「100円から数億円の仕事まで、何でも磨きます」と、半導体の製造装置の精密部品や原子炉のタービンなど、難しい仕事も多数受けてきました。すると「お客さまから新しいアイデアや思いもよらない注文がもらえたり、人づての紹介や実績を公表したウェブサイトから、新しいお客さまが次々に来るようになりました」。こうして営業せずとも評判が波及。ビールのキャンペーンの賞品としてビアタンブラーを4万個も製造し、消費者への知名度も広がりました。航空機メーカーなど、大手からの大量の注文も増えました。
 「しかし、繁忙には波があり、2008年頃からはリーマンショックの影響で仕事が減りました。そこで、自分たちで仕事を創ろうとブランドを立ち上げて、直接、消費者に販売することにしたんです」。シンジケートの金属製ビアタンブラーは、職人たちが研究した最適な磨きでビールの泡がクリーミーになることをアピールし、高級な贈り物などとして1万円以上で飛ぶように売れています。こうした大手企業を介さない共同受注の仕組みは、同じく受注型の印刷業界にとって大いに参考になります(次面囲みでも詳しく紹介します)。

  • 製造会社が共同受注で利益を確保するためには、作り手自らが仕様や価格の決定に参画することが大切。さらに、商工会議所などの公的機関が組織に入るとメンバー間の公平性を担保しやすくなる。
  • 小さな工場の結集で、1社では難しかった効果的なPRや販路開拓、消費者への直接販売までが実現できる。印刷会社も連携してインテリア雑貨や文具などの独自商品の開発・販売などが考えられるのではないか。
株式会社市進ホールディングス
新業態でベテラン講師の活躍の場を 介護や日本語学校など他業界へ!
 千葉県市川市で総合教育サービス事業を行う株式会社市進ホールディングスは、1965年から学習塾事業を進めていますが、2011年ごろからは他業界の企業との提携やM&Aを開始。外国人向けの日本語学校や高齢者のデイサービスなど、多彩な方面へ事業を拡大し、学習塾市場が縮小する中で堅調に収益を伸ばしています。しかし、意外にも事業拡大の主目的は、「高齢化した社員の活躍の場をつくる」というものでした。
教える技術を生かせる多様な職場

市進ホールディングス
代表取締役社長の下屋 俊裕さんさん
 「当社は業界の中では際立って離職率が低く、社員の高齢化が課題でした。子どもさんには若い講師が人気ですし、夏・冬の講習は一日中続くなど、体力を使う仕事でもあるからです」と話してくれたのは、市進ホールディングスの代表取締役社長の下屋俊裕さんです。
 そこで同社は、以前から塾などの教育事業で協力していた学研ホールディングス(学研HD)と資本・業務提携を結び、学研グループの学研ココファンホールディングス(学研ココファンHD)が行っていた高齢者のデイサービス事業に挑戦。資格取得費用を会社が補助して、ベテラン塾講師をはじめ、年齢に関係なくやる気のある社員を施設管理者や職員として配置しました。
 「塾講師の強みは『教える技術』。

市進ホールディングスでは、従来は映像教材などを自社製作していましたが、下屋さんは「よい先生は教材を問わない」がモットー。現在は、学研HDの豊富な教材も活用し、相互にメリットを享受しています
子どもや親御さんの相談に乗ってきたので、非常に聞き上手でもあります。これらを基軸に活躍の場を広げようと考えました。今の高齢者は知的好奇心が旺盛で、塾講師だった職員とのコミュニケーションは満足度が高いようです」(下屋さん、以下同)。同社はさらに、国内の外国人向け日本語学校を子会社化したほか、国内に学童保育施設、インドと香港に日本人駐在員の子弟向け学習塾や日本語学校を設立するなど、社員の希望に応じられる多様な職場を用意しています。
提携で新事業のマインドも育つ

同社が子会社化したデイサービス会社は、以前から同事業を行う学研ココファンHDのノウハウを生かして運営しています
 下屋さんは学研HDとの提携について、「以前から現状や課題を共有し、ビジネスありきでなく、双方のプラスになる形を求めたので、スムーズでした。教育分野では、学研HDさんは受験にこだわらず子どもの考える力をつけることを重視し、当社は受験・進学に強い。介護分野でも、学研ココファンHDさんは人手不足に悩んでおり、補い合える部分が多かった。トップ同士の意思疎通と提携の目的・方針が明確だったのがポイントです」といいます。また、M&Aを行う場合も、相手の社名を残したり、経営の大部分をそのまま任せたり、福利厚生レベルを市進ホールディングスに合わせて高めたりと、 事業のやり方をなるべく変えない配慮をしているそうです。
 社員は当初、大きな変化に戸惑っていたものの、提携やM&Aの目的が利益追求ではなく、社員目線のものだと徐々に分かり、自ら新事業を創る動きが出てきたそうです。「例えば、社内の社員向け研修部門が外販もすることになり、当初は私立学校の新任教師向け研修のみでしたが、担当社員たちが自ら積極的に対象を広げていきました。今では校長・教頭先生向けに父母とのコミュニケーション研修、企業や官公庁の管理職向けにマネジメント研修など、多様なプログラムを開発し、提供しています」。
 社員の高齢化が進む印刷会社でも、社員の新たな活躍を狙った同社のような提携の考え方は、有効ではないでしょうか。

市進ホールディングスが運営する民間学童「ナナカラ」(左)、香港での学習塾、日本語学校事業を担う「東亞語言文化學校」(右)
  • 「自社に足りないもの」「自社の強みや、他に応用できそうなもの」を明確にした上で、他社との提携を考えることは有効。同業で守備範囲の違う企業と提携し、互いを補い合う同社の事例は参考になる。
  • ベテランの強みを生かす例として、印刷現場の知見を生かしたインクや紙のメーカーでの開発・営業、生産工程改善のノウハウを生かした他の製造業の生産管理での活躍などが考えられる。
■コラム
商工会議所と製造業者がタッグを組んで市場を開拓。
地域の誇りを生み出す!
磨き屋シンジケート
 共同受注や地域活性化の成功事例として、全国から注目されている磨き屋シンジケート。しかし、高野さんは「きちんとマーケティングをしたり、PRや開発の戦略を立てたりしてきたわけではなく、偶然のチャンスを試行錯誤しながらつかまえてきただけなんです」と笑顔を見せます。例えば、シンジケート設立前に受けた米アップル社の「iPod」の背面の鏡面仕上げでは、日産約3万個もの生産依頼がありました。これをきっかけの一つとして、複数社で生産する仕組みができ、同一の品質で仕上げるために、道具や作業条件、磨きの方法をそろえるべく、仕事の都度にメンバー間で取り決めるようになりました。
●ちょっとした工夫と研究がヒットに
 また、ある展示会にたまたま金属カップを出品した際、注目を集めるために来場者にビールをふるまいました。そしてアンケートを取ったところ、「ビールがおいしい」「泡がなめらか」と多数の評価の声が。そこで初めて、磨きと味には関係があるのでは?と気がつき、職人たちが磨きの条件をいろいろ変えてテストし、現在の主力商品のビアタンブラーができたといいます。
 大手メーカーのビールの賞品となったタンブラーの生産では、経験したことのない生産数が求められることになり、各社で金型などを新たに用意する必要が出てきて、資金繰りの難しさから受注を断念しそうになりました。しかし、幸い地元の商社が入り、資金調達の支援を受けられたことで、なんとか受注できることに。「商社はやはり営業力が素晴らしく、これをきっかけに、全国の百貨店や専門店にシンジケートの商品が置かれるようになりました」。
●自分たちで売ることで市場が分かる

「Made in TSUBAME」のロゴ。燕商工会議所が商標認証機関になっています。ロイヤリティーをとっていないため、一気に普及し、百貨店や専門店から大きな支持を得ています
 高野さんは、全国からの視察者や講演を聞いた人から、「どうやって販路を見つければいいですか」とよく質問され、「実際に売ってみて初めて分かります」と答えているそうです。「私自身、街頭や展示会に立つことで、さまざまなお客さまやニーズに出会いました。しかし、そこまでするのは大変なのだと思います。同様の共同受注の仕組みが続いている例がほとんどないようです。少し試して、成功する前にやめているのかもしれません。でも、スピードは遅くてもいいので、一定の壁を越えるところまで、とにかくやり続けることが大切だと思います」と強調します。
 磨き屋シンジケートの仕組みが続けられている理由として、高野さんは、「目標を売上金額にせず、市外から仕事を受注することに置いた点や、利害の関わらない商工会議所が入ったことがよかったのかもしれません」といいます。

2007年に金属研磨技術を継承するための「燕市磨き屋一番館」を設立。各社で人を育てるのは大変なので、共同で作ったこの施設で、3年間にわたり新人研修を行います。受講者は給与をもらいながら技術を学べます
 深刻な後継者不足で悩んでいた研磨会社各社ですが、今では若い社員が集まったり、跡継ぎが決まったりしているところも多いそうです。「一人の磨き屋さんから、『以前は表舞台に出ることがなかった自分の仕事を人に言えなかったが、今は誇りを持って言えるようになったよ』と声を掛けられたときはうれしかったです。事業者も商工会議所も苦労はあると思いますが、面白いことも多いので、ぜひ試してほしいです」。

●印刷会社の連携・提携とは?
 印刷会社による他社との連携例として、まずカタログやチラシなどの商業印刷、伝票・封筒などの事務印刷、シール・ラベル印刷といった、得意分野の異なる印刷会社の連携が考えられます。これによって、例えば1商品についてパッケージから販促物、広告までを請け負うことができます。
 また、企画・デザイン、製本や加工、配送など前後工程の会社と連携し、共同でトータルな提案や共同受注を行うことや、相互の人材交流で相手のノウハウを吸収、シナジーを出すことも考えられます。こうしたケースは、近隣の企業や特定業界に強い企業間でうまくいくことが想定できます。なお、共同受注の場合、短納期、小ロット・多品種など、大企業がいやがる仕事を受けることで差別化することが有効です。
 現在、印刷会社の若手や2代目社長が集まり、イベント作りや地元物産品の販路獲得などをテーマに、近隣の他業界のビジネスパーソンも交えて勉強会を開いたり、地域の新規ビジネスにつなげたりする動きが注目されています。業界の枠を超えて地域の仕事のタネを創る連携は、今後ますます重要になるでしょう。
 
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