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ニッチ市場をつかむ!
 
すぐに分かる! 注目の経営手法や市場の「今」 グリーンレポート

ニッチ市場をつかむ!

2017/01
1. デンタルプロ株式会社 歯ブラシの概念を変える! 受注型から創造型の集団へ。
2.  第四電設株式会社 「色」などの特殊ニーズを探求 大手と別のLED市場を創る
■コラム
ニッチ市場をつかむ!名企業
展示会はニッチなお客さまを知る入り口。
丁寧に向き合い、相手のメリットを考え抜く。

  ●商品そのもの以外も差別化ポイントになる
  ●ニッチ商品の本当の開発は展示会から
  ●印刷会社の「ニッチ市場のつかみ方」は


歯間ブラシのサイズ交換サービスの利用者に送るセット。下はお客さまからの回答。びっしり丁寧に感想や要望を書く人が多く、開発の大きなヒントに
デンタルプロ株式会社
歯ブラシの概念を変える!
受注型から創造型の集団へ。
 大阪府八尾市の歯ブラシメーカー、デンタルプロ株式会社は、日本での市場が小さかった「歯間ブラシ」の普及コスト品の販売を1994年に開始、20年強で市場は75億円までになり、当時シェアも約42%を持つまでになりました。ほかにも「顔のリフトアップマッサージができる歯ブラシ」など、自社ブランドの新感覚商品がテレビ番組や雑誌で話題を集めています。しかし、「元々は受注型の会社で、自社商品の開発にはたくさんの失敗がありました」と同社マーケティング本部長の米田隆文さんは言います。
返したくなるアンケートでニーズを収集

開発体制は、商品別に開発・企画・マーケティング・営業の各担当が付き、横に連携するチーム制。コンセプト、技術内容、ターゲットなどを、部門間で明確に共有して商品を作れるメリットがあります(後列左がマーケティング本部 本部長 米田 隆文さん)
 1927(昭和2)年に創業し、高い技術力で国内外の大手メーカーのOEMも手掛ける同社が、自社商品の開発を始めたのは1978年です。OEM先が製造を内製することになり、仕事が激減。そこで自社商品として開発したのが、「子ども用年齢別歯ブラシ」や「歯間清掃具シリーズ」など、当時市場に少なかった商品です。「その頃から『大手さんと同じものを作ってはダメ。とにかく“とんがろう”!』という意識がありました」(米田さん、以下同)。
 1990年代前半は歯間ブラシの使用率もまだ低く、「サイズ」についての知識が低かったので、、「折れた」「歯の間に入らない」などのクレームが多かったそうです。 しかし調べると、その原因の大半は歯間ブラシのサイズが合っていないというものでした。「不満を解消してほしい、サイズがあることを伝えたいという思いでカスタマーセンターを設け、『サイズ交換サービス』を始めました」。交換時には感想・意見をもらうアンケート用紙を付けると、回収率はなんと50%、これまでに5万件以上も届きました。その秘密は、歯間ブラシの交換に加え、歯ブラシまで無料で1本プレゼントしたこと。それがリアルなニーズの収集とファン獲得につながりました。この意見の中から、歯間ブラシの新しいサイズやデザイン、携帯ケースなどの商品も生まれ、喜ばれているそうです。
 「私など当時の営業は『ややこしい仕事が増える』と思ったものですが、『それこそが商品の差別化につながる!』というトップダウンの下、継続したのがよかったんですね(笑)」。

ヘッドの背側に、頬の裏をマッサージするパッドがついた“リフトアップマッサージができる歯ブラシ”「デンタルプロコスメ」
鋭い気づきとトライの姿勢が鍵
 同社の開発姿勢について、米田さんは、「大手なら、市場が大きくないと参入コストに見合いませんが、当社はこの市場は伸びるかもと思えば、いち早く商品化してきました。今までにないものはまず試そう、ある程度続けないと市場性は分からないという構えです」と言います。
 水だけで歯垢が落ちる歯ブラシのヒット商品「デンタルプロブラック」の発売は、約30年前。しかし、その特長が売り場でうまく伝わらなかったため、10年前に小売関係者の意見を聞き、「端的なキャッチコピー」「歯ブラシの常識から外れた、黒くインパクトのあるデザイン、幅広で変形したパッケージ」へと変えたことで、中身はそのままにヒットを実現しました。
 新商品の発案の多くは社長によるものですが、商品企画、

「デンタルプロ ブラック」の最新シリーズで、黒の特殊毛+フッ素配合毛の「デンタルプロ ブラックダイヤ」。下はパッケージの改良例。一般的なパッケージの1.6倍のパッケージ幅で、売り場で目を引くように変更。また、専門用語を省き、平易なキャッチコピーにしました
開発、マーケティング、営業など、幅広く従業員もアイデアを出しています。日頃よりトップが従業員に、「既成概念では新しいものは作れないし、新しいものを作らないと生き残れない」と伝えているという同社。最近では、ドイツの世界的なお菓子「ハリボーグミ」とコラボした歯ブラシなども開発し、若い女性向けの雑貨チェーン店で売るなど、全く新しい販売チャネルを開拓したり、先の「リフトアップマッサージができる歯ブラシ」など「美容」という新ジャンルの歯ブラシも開発中です。
社長は、挑戦してだめならやめればいいというスタンスで、従業員の企画にもあまり反対せずゴーを出します。猫好きの従業員が作った、持ち手に触り心地のよい肉球が付いた『ネコの肉球歯ブラシ』という商品もあります。開発時にはマーケティングや分析はそこそこに、社長を中心に『面白い!』という声が上がって図面ができれば、だいたい商品化します。本当に新しいものはリサーチからは生まれません。自分のちょっとした気づきを見逃さないこと、それを喜ばれる形にするための洞察力が大切です」と米田さんは言います。
  • ニッチなニーズには、ややこしい仕事の中でこそ出会える。そのニーズを集めることで、新しい付加価値を生み出すチャンスをつかめる。
  • 従業員のユーザー感覚を基にいち早く商品化、世の反応を見るという方法は中小企業だからこそ。アイデアを出しやすい社内環境が鍵となる。
第四電設株式会社
「色」などの特殊ニーズを探求
大手と別のLED市場を創る
 新潟県長岡市で電気設備工事を40年以上手掛ける第四電設株式会社は、従業員20人弱の会社ながら、自社開発のLED照明を全国の有名ホテルや病院、レストランの食品工場や印刷会社に納めています。大手メーカーも乱立するLED市場でこれを実現できるのは、大手メーカーにない「色のカスタマイズ」の要望に応えているからです。中でも明るさやエネルギー効率を損なわずに「青みを抑えた自然な色」で光るLED照明「Daiyon Dream」が大手印刷会社やスーパーなどに導入され、好評です。今も電設工事を中心事業とする同社が、なぜLED商品を開発するのでしょうか。
「高くても少数のお客さまが確実に喜ぶ」で勝つ

「光る手すり照明」は2004年、高床の家が多い新潟で夕方に起きた中越地震で、外へ逃げる際、暗い階段で転んだ住民が多かったことから、斉藤さんが思いついたアイデア商品です
 常務の斉藤和也さんは、「バブル崩壊から建設需要が冷え込み、2002年頃、当社の売り上げは3分の1に落ちました。私の父である社長が、危機感から『電気で新しいことをやらなければ』と考え、大学4年生だった私が1年大学に残ってLEDの基礎研究をし、入社後その知識で開発を始めたんです」と振り返ります。
 しかし、開発品を販売して最初の2年は「売り上げゼロ」。「LEDなら売れると思い、大手も売り始めていた汎用の照明を作りましたが、高くて売れませんでした。そこで、大手と勝負せず、付加価値を付けて、大量に売れずとも少数のお客さまが確実に『良い!』と喜んでくれるものを創ろう、と決めました」(斉藤さん、以下同)。県内の大学や電機メーカーと「光る手すり照明」を開発、思い切って東京の展示会に出展。大手メーカーに評価され、その要望で改良を重ねた結果、そのメーカーのOEM商品として数年間販売され、ヒット商品となりました。製造に自動化できない難しい工程を入れ、需要も多くないため大手には採算が合わず、真似できないといいます。
大手が“あえて応えない”ニーズに気づく
 一方、今では同社が多彩な業界へ販売する「色をカスタマイズしたLED照明」ですが、「初めはそんな需要があると思わなかった」と言います。開発のきっかけは、地元のコンビニのオーナーから「省エネのLEDで、食べ物をおいしく見せるものはないか」と相談されたことでした。「通常のLEDは青みが強く、食べ物がおいしそうに見えないからです。さまざまな飲食店を見学し、食品には太陽光に近い自然光が最も良いと分かりました」。
 しかし、LEDは自然光に近いほど発光効率が下がるため、そのようなLED照明はどこも売っていませんでした。そこで同社は色味を制御する「LEDチップ」のメーカーと共同で研究を重ね、発光効率を下げずに自然色にできるLED照明を開発しました。
「大手は同様の技術が可能なはずですが、需要の少なさがネックで作らないようです。しかし、当社は自然光をはじめ色をカスタマイズした商品を販売し、価格は高くてもお客さまに喜んでいただいています」(同社のニーズ収集、開発の方法については次の3面でも紹介します)。
 斉藤さんが営業で特に大切にしていることは、省エネなどの効果を、お客さまに自信を持って保証できる場合しか販売しないこと。「LEDで色の要望もかなうとなれば、多くの方が購入くださるかもしれません。しかし、当社商品でも使用条件などによっては、費用対効果があまり出ない場合もあります。これを避け、長期的に大きな効果で喜んでいただける場合のみ販売することで、お客さまと長く続く関係を作りたいんです」と斉藤さん。ぶれないビジョンで、ニッチ商品を開発し続けています。

  • 特定のお客さまの要望に徹底的に応えてみたことが、普遍的な潜在ニーズに気づくきっかけとなり、ニッチ市場創出のヒントとなることも。
  • 規模の小さいニッチ市場では特に、売り上げよりも利益やお客さまとの信頼関係が重要。お客さまの長期的な満足につながらない、自社の目指す利益に合わないなど、ミスマッチの恐れがある場合は、無理せず引くことも必要。
■コラム
ニッチ市場をつかむ!名企業
展示会はニッチなお客さまを知る入り口。
丁寧に向き合い、相手のメリットを考え抜く。
第四電設株式会社
第四電設では、コンビニでの自然光LEDのニーズを知ってから、病院や食品工場、洋品店、自動車ディーラーなども見て回ると、それぞれ好みの色や最適な色があることが分かり、各業界へ提案を広げています。
●商品そのもの以外も差別化ポイントになる

工場に同社LEDを導入した例
 同社は現在、4名で営業を行っていますが、提案時は全国のお客さまの元に必ず足を運ぶようにしています。現場を見て費用対効果を測定するために必要であるのに加え、その効果を自社の強みとともにきちんと伝えるためです。 「ニッチな市場を相手にし、名前も知られていないので、まずお客さまと向き合い、言葉を尽くして説明すること、相手を知ることが大切です。また、今は問い合わせてくる方は当社ウェブサイトを見ているはずなので、導入事例紹介などをサイトで充実させるように心掛けています」
 また、お客さまの「色への要望」をかなえ、省エネ効果もきちんと出すため、「例えば工場に導入する場合、お客さまの全国の工場の数や照明数を調べ上げ、必要な費用や実現できる明るさを算出するほか、工事やメンテナンスの費用も含めてご提案します」と斉藤さん。提携する同業の電設工事業者が全国におり、設置とメンテナンスの費用を抑えられることも強みとして訴求しています。
●ニッチ商品の本当の開発は展示会から

第四電設株式会社 常務取締役
斉藤 和也さん
 同社では、現在も毎年展示会に出展し続け、大手メーカーとの共同による「面状LED発光体」など、1年に1アイテムのペースでオリジナルの新商品を開発しています。
「展示会で出品するのはあくまでもたたき台。でも、形になった商品があるからこそ、来てくれたお客さまは、いろいろなニーズや商品への評価を伝えてくれます。このヒアリングがとても大切。普段の営業活動では集められない声を丁寧に聞き込んで、そこからお客さまへ確実なメリットを出す商品へ磨いていきます」
 また、同社は基本的に商品企画のみを担当し、技術開発や製造は県内のさまざまな企業や大学と柔軟にコラボレーションしています。「大手に勝る付加価値を付けるためには、得意なところの力をどんどん借りようと思っています。また、新商品開発で補助金も受け、長年お世話になってきた地元のためになりたいので、連携するのは基本的に県内の会社です。地元の産業が元気になり、税金で還元するといういい循環をつくっていけたらうれしい」と斉藤さん。こうした強いモチベーションでつながり合う異業種連携ができることも、ニッチ市場に強く訴える商品づくりの秘訣かもしれません。
●印刷会社の「ニッチ市場のつかみ方」は
 デンタルプロは、従業員自らの消費者としての気づきを大切に、ニッチな商品の開発を試み続け、ヒット商品を育てました。同様に、同人誌ユーザーに特化したサービスを提供する印刷会社や、デザインへの意識の高さを強みに、ユニークな高級文具やミュージアムショップ向け商品を開発する印刷会社が見られます。
 また、特定のニーズに応えるLED商品を工事やメンテナンスサービスも含めて提供する第四電設のように、印刷業界でも業種・業界を特化したワンストップサービスで中小企業の強みが生かせると考えられます。印刷技術で差別化できなくとも、コンテンツの作成支援や加工、配送など、付帯サービスによる差別化で、ニッチ市場をつかむことは可能ではないでしょうか。ある印刷会社では、IR関連の印刷に加え、面倒な株主総会の運営支援まで請け負うことで一連のノウハウを蓄積し、支持を得ています。
 従来の基盤事業と並行して、培った技術を生かしてニッチ市場に取り組むことは、将来の事業基盤を育てる上で有効といえるでしょう。
 
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